来世紀へ向けて

2001.01 東京産婦人科医会品川支部 大橋 克洋 (東京産婦人科医会雑誌)

私はてっきり2000年から21世紀と思っていました。 報道では2001年から21世紀という考え方が主流のようで、 「あれ?」と思った次第です。 欧米では2000年から21世紀という考えもあるようです。 コンピュータの世界で数値は0から始まるのが常なので、プログラミ ングを道楽とする私としては、当然ゼロが起点と思っていたわけで す。どちらが正しいのか確認はしていません。

当地、荏原医師会の30年前の記念誌に青木利弘先生(外科) という方が書かれた未来予測が載っています。 30年後の未来を実に適確に予測されていて驚きます。 私の貧弱な想像力よりこちらの方がずっと面白いので、 まずその要約を転載させて頂きます。

  • 病院と診療所はくっきり分かれ、病院は200床以上ないと運営 できなくなるでしょう。

  • 電算機の発達は労力を減少させ、それに基づいた最新の治療が要 求されるでしょう。

  • 医療技術師の需要は相当数必要になるでしょう。

  • 看護婦育成、検査センターは医師会から自治体などに移すべき。

  • 人工臓器の進歩は電算機とならぶ大きな産業となる。

  • 日本の人口は一億一千を越し1/4は老齢となり、開業医は老人 科が一番繁盛するようになる。

  • 労働時間は週40時間位になり、日本の軽産業は低開発国へ移行。

  • 黒人の地位が高まり、白人の優越感も平等へと変わるでしょう。

この先生は生前、医師会の中では「また青木がラッパを吹いてい る」と言われ、まともにとりあわない方も多かったのですが、私は 大変可愛がって頂きました。今更ながら青木先生が、広く社会情勢 の進む方向を把握されていたことに感銘する次第です。

さて、私の貧困な想像力で描く未来は

  • 電子カルテの普及は間違いないでしょう。

    • 困ったことにワープロを使うと漢字を忘れるように、電子カルテ を使うと治療を忘れてしまうことが起こり得ます。だからと言って 今やワープロ機能なしに世界の経済が動かないように、電子カルテ なしに医療がなりたたなくなることも間違いありません。機械と人 間との合理的な機能分担がポイントと思います。

  • 検査機器の電子化・ミクロ化

    • 小さなカプセルを服用するだけで、それが体内をめぐり排泄され るまでの間に(宇宙探査衛星が宇宙の彼方から情報を送るように)、 受診者に負担を与えず多くの生体情報をモニターできるようになる でしょう。体表からのスキャンも同様に進歩するでしょう。

  • 神経系と電子系との融合

    • われわれが目にし手に触れ感ずるもの全ては最終的に脳に集約さ れる。つまり脳へ直接情報伝達ができれば、それは実体験と何も変 わらないことになります。いずれ神経系と電子系との融合が実現で きる時がくるでしょう。それは、医学に役立ち人間に幸福・満足感 をもたらす明るい面とともに、人間をコントロール下に置くという 暗黒の面をもつ危険な技術と言えるかも知れません。

  • 進化するロボット

    • 分子や原子の単位をコントロールする技術「ナノ・テクノロジー 」や、コンピュータの高速・大容量化により、人間に近いどころか 人間を超えるロボットができることも間違いありません。これに対 し大きな危機感を抱く米国の論文を最近読みました「そしてロボッ トは必ず自己保存や不完全な論理構造を経過して発達するはずで、 その間に人類が掃討される可能性は多いにある」ということです。 原爆の例からわかるように「科学者は技術の発達による大きな危 険性を認識しながら、前に進む欲求を抑えることができない」。

    • そして突然の破局に結び付いても、もう止められない。クローン人間 や遺伝子のコントロールなども危険因子に含まれるでしょうね。

何か暗い話で終りそうな雰囲気ですが、 人類がその前に「自らの手による自らへの自然破壊」 を回避する知恵とルール作りをした明るい未来を夢見ることにしましょう。