2000.01 WINE もついに Mac の上

わーくすてーしょんのあるくらし (25)

2000-01 大橋克洋

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このところ連続で「さあ WINE を MacOS X Server へ移行する ぞ」と自分自身に気合いをかけてきましたが、ついに先週から診察 室の環境を OPENSTEP から MacOS X Server へ、エイヤっと全面的 にチェンジしました。

あとで触れるように2、3問題点もないではないですが、やー、 快適です。ほぼ9割以上満足して仕事ができます。とにかく、電子 カルテがスコン、スコン動いてくれるのは何とも爽やかなのです。 今まで使っていた非力な Pentium マシーンの呪縛から、やっと 解き放たれたというのが実感です。 今回は MacOS X Server を実務に使った印象などについてレポー トしてみたいと思います。

過去にも何度か触れてきましたが、ご存知ない方のために MacOS X Server についてちょっと説明しておきましょう。これ は、Apple 社の新しい OS のひとつです。Apple 社は来年 MacOS X という新しい OS をリリースする予定で、 それまでのつなぎと して MacOS 9 のリリースが発表されました。

これでわかるように X はエックスではなく、テンと発音しま す。つまり MacOS の10番目のバージョンです。Apple 社は最初、 一気に NeXT 社の技術を使った MacOS X を出す計画をしていた のですが、従来からの Mac ユーザの強い抵抗にあったようで、路 線をあらため、MacOS 9 を経て徐々に移行するよう変更しました。

しかしすでに存在する OPENSTEP の安定した技術を載せた OS を 1年以上寝かせておくのも勿体無いということなのでしょう、これ を MacOS X Server という名前でこの春から発売しました。 来年リリース予定の MacOS X は、従来からの MacOS 路線と MacOS X Server 路線の良いところを集めて融合したものになる ようで、大変楽しみです。

○ MacOS X Server 環境へ無理やり移行

ということで、いかにも計画的に MacOS X Server へ移行したよ うに書きましたが、実情は必ずしもそうではありません。 確かに WINE は半年ほど前から Mac の上でも動くようになり Mac 上への移行を考えてきたのですが、それで実務を快適にできる という確信に至らず、改良とテストを繰り返してきました。

ところがある朝、実務に使っている OPENSTEP 版の WINE を手直 ししようといじったところが、どこかまずいところがあったらし く、WINE が立ち上がらなくなってしまったのです。 診療が始まる10分前のことで、今から原因究明し debug して も間にあうはずもありません。連休明けのことで、外来も混む可能 性があります。 これはきっと、「いい加減にお前も Mac 環境へ移行したらどう や」という神からの啓示に違いないと解釈することにして、 PowerMac G3 一式を担いで外来へ降りました。

ソフトウエアというものは、開発段階のものと、実際に仕事に 使った段階では、かなり印象がちがったり予想もしないトラブルが 発生したりするものです。何度も念入りにテストを重ねて、「これ なら完璧!」と思ったのに、現場に投入したら思いがけぬ問題がポ ロポロ出るのはよくあることです。 しかし、実際に診療を始めてみると多少の問題はありましたが、 いずれも些細なことでした(昔から「案ずるより産むがやすし」と いいますが、ほどほどに案ずることは必要ですね)。 開発の時に見慣れてはいても、診察室にあるデイスプレイ上で WINE on Mac が動いているのはなかなか良い眺めです。

○ MacOS X Server の現状でのいくつかの問題点

実務に使って9割満足というのは、かなり仕上った OS と言える と思いますが、残りの10%以下の問題点は以前も述べましたが、 次のようなものです。 フォントが汚い(大きなフォントは綺麗なのですが、通常使う フォントが汚い)。

プリンター出力に苦労する(現状は PostScript プリンターか ネットワーク上の OPENSTEP や NeXT プリンターを必要とします) OS への不満は、現状ではアラ探しをしてもこの位しかありませ ん(でも重大な問題という見方もあるでしょう)。 今までの MacOS とは違って、突然凍り付いてしまったり、バク ダンのアイコンで止まってしまうことはまずありません。 とても安定しています。 あとはアプリケーションや周辺機器の問題です。

MailViewer がとても使いにくい(NEXTSTEP 時代からのものはと ても使いやすかったのですが、現状では「とりあえず添付した」と しか思えないようなものです。フォントが汚いのがますますそれを 強調します。メールが快適に使えないのは、私にとって結構切実で す)。

周辺機器のドライバーがまだ完備していない(周辺機器を接続す るためのソフトウエアが完備していないため、MO その他を接続し ようとしてもうまくいかないのは困ります)。 しかし、私のところはネットワーク環境で他のマシーンのプリン ターなど周辺機器を使えますので、とりあえず大きな問題ではあり ません。

しかしネットワークを始めとした管理ツールは、使いやすかった OPENSTEP 時代のものが、さらに進化してわかりやすく使いやすく なっています(でも、まだ Network File Systemがうまく継ってく れず苦労していたりしますが)。

○ 新型がでたあとの型落ち機種は「買い」

という事情で、自宅書斎の開発マシーンを実務に投入してしまっ たので、開発マシーンが無くなったのは困りものです。 開発マシーン調達のため、早速秋葉原へ行ってみました。 発表されたばかりの PowerMac G4 がもう店頭にならんでいま す。わー、恰好良いですねえ。正直いって G3 のデザインには余り 感激しなかったのですが、G4 はみとれてしまうほど美しいです。 悲しいことに G4 ではまだ MacOS X Server が走りませんので、 G4 はパスせざるを得ません。結局この日は、どうせならX Server が G4対応になるのを待つべきかなと思い、眺めるだけで帰って きました。

しかし帰ってから考えてみても、何としても開発マシーンがない と困ります。で、数日後、再び秋葉原へ。Mac の店を廻ってみる と、今となっては型落ちの G3/450 が4割引の値段で出ています。 G4 が出たための在庫一掃セールのようです。「これは買い!」と いうことで、G4 を横目でみながら即断で頼みました。 翌日、宅急便で届いたマシーンに X Server をインストールして WINE を載せました。外来へ降ろしたマシーンは G3 とはいって も、あのポリタンクのようなヤツではなく、その前の型でした。そ して、今回届いたのは青いポリタンク。

やー、一段と早いのにびっくり。WINE をコンパイルしても、 「いち、にいーのーさん!」で終ってしまいます。WINE のでかい ソースの入ったフォルダーを圧縮しても、一瞬で終ってしまいま す。目を疑って、「あれ?エラーかいな」と確かめて見ると、ちゃ んと巨大な圧縮ファイルができているではないですか。 そいつを他へ移動して解凍してみると、これまた一瞬です。 OPENSTEP 用に使っていた Pentium マシーンとはとても比較になら ない早さです。従来の MacOS より X Server の方が CPU の早さの 恩恵も大きいような気がします。

○ 輝きをとりもどしてきた Apple

ここ数年、Apple から新しいものが発表されても昔のようにワク ワクすることがなくなっていました。しかし昨年の iMac 発表を契 機に、昔の勢いを盛り返しつつあるように感じます。ハードウエア も、その中に盛り込まれたソフトウエアも、最近は発表されるたび に胸おどる内容が含まれています。まさに Steve Jobs の良い面が 発揮されているように思います。

以前も書いたことがありますが、コンピュータの発達を予測する には、自動車の発達の歴史をたどればよいだろうと考えてきまし た。昭和40年代のモータリゼーションの時代、新車発表のたび に、それは胸を踊らせたものでした。しかしやがて、どこのメー カーのものも同じようになってきて、感激もなくなってきました。 これは成熟期に入った証拠と思います。

コンピュータもいずれ同じ道をたどるはずで、多少その傾向が見 えてきたかに思っていましたが、Apple からの発表はまだしばらく は感激を与えてくれそうです。 このような意味で、西暦2000年は結構期待できそうです。 iBook とともに発表になった無線LAN システムである、エアポー トは今後 Windows の世界も巻き込んで爆発的に普及するに違いあ りません。来年は MacOS X がリリースされるはずですので、そう なれば一般ユーザもより安定して快適な Mac を堪能できるはずで す。

私の使っている MacOS X Server については、Apple 社は積極的 にそれを表に出そうとはしません。したがって最近は雑誌に記事が 載ることもなく、実務に使う人もまだ極めて少ないはずです。 NeXT 時代から小数民族としての生活を強いられてきたせいか、そ の習性は身に染みついて、「人知れず、自分だけ良いシステムを使 えるのも贅沢かな」と思いながら、外来の合間に診察室の MacOSXS でこの原稿を書いています。 とにかくここしばらくは、新しいマシーンと環境の中で感激の 日々を送れそうです。またレポートしたいと思います。

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