1988.06 これがワークステーションだ

わーくすてーしょんのあるくらし (18)

1988-06 大橋克洋

< 1988.05 はじめての LISP | 1988.07 ワークステーションをより使いやすく >

今や私のあらゆる作業は完全にワークステーションに移ってしま った。大分前からほとんどの作業を一つの環境である Sun ワークス テーションの上に移植して使うようになっていたのだが、それでも まだ時々は PC-98 の電源を入れざるを得ないことがあった。そして 最近はそれもなくなったというわけである。

PC-98 のお世話になるのでもっとも多いのがワープロだったが、 これは NEmacs と、その上で走る Lisp による簡易日本語ワープロ を使うようになって、ほとんど必要がなくなった(この原稿もこれ で書いている)。もうひとつ時々はお世話にならざるを得なかった のが、スプレッドシートであった(古いマルチプランを使っていた )が、これも Sun の上で走るPDS のスプレッドシートが手に入って ついに必要なくなってしまった。

○ UNIX 上のスプレッドシート

これは UNIX ネットワークを流れてきた PDS で、Spreadsheet C alculator を略して sc という名前のものである。ソースを見ると オリジナルは James Gosling とある。James Goslingといえば確か Emacs の Gosling 版?を作った人と記憶しているが、さすが彼が 作ったものだけあってシンプルだが、たいそう軽快で使い勝手が良 い。素人向けではなく、いかにも UNIX ユーザ用のツールという感 じだがそこが気に入っている。

カーソル移動コマンドは vi や Emacs のモードのいずれをもサポ ートしていて、それらと同じ感覚でカーソルを移動できる。実際カ ーソル移動はもっとも頻繁に使用するコマンドなので、同じに使え るということは使い勝手の上で大変重要なことである。

ワープロにせよ、スプレッドシートにせよ、ワークステーション という一つの環境の中で使えるというのは大変具合が良い。 さらに同じ環境を追及するなら、スプレッドシートも NEmacsの中 で動くともっと具合が良いので、NEmacs をターミナル・エミュレー タ・モードにして、その中で sc を走らせてみたが、やはりこれで はトロくてどうしようもない。

UNIXの端末として使うのは別として、これで完全に PC-98自体の お世話になることはなくなりそうである。

○ 残るはお絵かきソフト

あと、時々 Sun を離れてお世話になることがあるとすれば、Mac である。OHP の原稿や図を書くにはマックペイントが一番快適であ るから、、、

本来 Sun はこのようなことを行う能力を十分持っているので、ど こかで Sun の上で快適に使えるマックペイントを提供してくれない かな、と思っている。おそらく米国には必ずあると思うのだが。

欲を言えばきりがないのだが、前述の簡易日本語ワープロも完全 に満足が行くというものではない。やはり一太郎クラスのワープロ が Sun の上で走って欲しい(現在 Sun 上の日本語フロントエンド としてもっとも好評の Wnn はまだ手に入れていない)。

○ WS上の小道具類

具体的に WS 上に何が載っているかというと、まず仕事用のアプ リケーションとして、給与計算、看護婦勤務表の自動作成、当院で 出産予定の産婦さんの管理(顧客管理のようなもの)、妊娠暦(分 娩予定日や現在の妊娠週数などを簡単に計算するツール)など。 小道具としては、電卓、スケジュール表、住所録、メモ帳、電子メ ールなど、要するに今流行のシステム手帳そのものである。ワーク ステーションは私の机であり、ファイルボックス、メールボックス 、文房具、秘書、その他、今やなくてはならない小道具でありパー トナーとなっている。

○ ネットワークによるデイスカッション

最近、4名ほどであるプロジェクトを開始することになった。 メンバーが遠方にすんでいたり、それぞれに多忙だったりするので 、実際にメンバーが集まってデイスカッションするのは月に1,2 度で、その他はすべてネットワークによる電子メールで処理してい る。Aの手紙の内容の一部を引用して、Bがそれに意見を追加し、そ れをさらにCが引用して意見を加えるなど。実際の会議に比べ内用 がコンパクトに整理され、かえって良い。

その一面、メールを読んでコメントを返すのは、結構時間がかか って大変という面もある。報告書などはメールの形で送っておけば 、相手の方でも必要に応じて保存したり加工したりできる。

○ さらに欲をいえば

人間の欲はきりがない。これだけ便利になっても、まだまだ足り ないものはいくらでも湧いてくる。

ワークステーションのウインドウのひとつがTVの画面になったら 良いなとか(書斎の Sun の隣りには PC-98のでイスプレイが置いて あるが、これはスイッチひとつでTV受像機になるやつで、最近は夜 など Sun の上で仕事をしながら、もっぱらこちらはTVをつけておい てのナガラ族となった)。FAXの受信ができないかなとか(これも最 近はできるものが出始めている)、Mac の HyperCard が載らないか なとか(Mac II の A/UX に期待している)、電話回線を使ってリモ ートマシンに NFSできないかな(大変あぶない発想)とか、、、

○ PC-NFS

というわけで、今やPC-98ときたら本体は机の下に押しやられ、 デ イスプレイはただのTV受像機となりはてている。しかし、これを放 置してただのガラクタにしてしまうのは忍びない(これらの電子機 器というヤツは、しばらく電源を入れないで置いておくと駄目にな ってしまうことが多い)ので、前にも書いたようにダイレクトにイ ーサネットへ接続して、そのフロッピーデイスクを Sun の細かいフ ァイル保存に利用するなどの活用を考えている。

そこでPC-98用のイーサボード、イーサネット・トランシーバなど 一式を注文し、2,3日前に届いた。トランシーバをイーサネット ・ケーブルに接続するにはケーブルに穴を開ける専用工具が必要と のことだが、その工具が2万円ほどする。今後多くのサイトを回っ てイーサネット接続サービスでもするなら別だが、ただ1回や2回 のためだけにそれを購入するわけにもいかない。

まあ要するに同軸ケーブルをショートさせないように穴を開けれ ば良いのだろうと勝手に納得して、大工道具箱にあったキリでトラ イすることにした。結論を言うと、穴開けは成功したのだが、その 後あーでもない、こーどもないといじっているうちに、開けた穴に 挿入するタップの先をつぶしてしまったというお粗末で、現在タッ プを再注文している。次号あたりにその印象をレポートできるかも 知れない。

イーサネットにうまく繋がったら、PC-NFSを使って PC-98の方か ら Sun のハードデイスクをあたかもPC のデイスクのようにマウン トして使うことができるようになる予定である。

< 1988.05 はじめての LISP | 1988.07 ワークステーションをより使いやすく >