2005.12 HOTプロジェクト付加価値サービス第1弾 Web 処方箋

わーくすてーしょんのあるくらし (99)

2005-12 大橋克洋

< 2005.11 長距離歩行における強力な武器 | 2006.01 技術が進歩しても変わらない現実 >

今月の表紙、上の写真は先月26日の早朝、 ホテルからプログラム仲間の鈴木君と医療情報学会会場へ向かう途中撮った写真です。 一番高いビルが横浜「みなとみらい」のランドマークタワー。 文字通り「未来的」な風景ですね。 11月末の透けるような、冷たく身の引き締まる空気が気持ちのよい朝でした。

以前は 13F 自宅の窓から、このランドマークタワーや 三日月型のインターコンチネンタルホテルが遠方に見えていたのですが、 最近は近所にできたマンションで見えなくなってしまい残念です。

○ 寒さへ向けての歩行

今月の健康ネタです。先月は「みなとみらい」から20Km歩いた話を書きました。 今月も快調です。 11日の日曜は馬事公苑の医歯薬学生馬術競技へ、後輩の応援に行きました。 私は慈恵医大卒業でなく慈恵医大馬術部卒業と言うくらい、学生時代は馬術部生活に打ち込み 人間としての勉強をしたことが多かったのです。 引っ込み思案だった性格も、 ここで一挙に積極的な方向へ変わりましたし、 人生の貴重な財産となる人脈もできました。

そんなわけで、 素晴らしい青春の6年間を与えてくれた馬術部を今後も存続させ、 後輩達に是非あのエンジン全開の素晴らしい青春を味わってもらいたい、 そして自分もちょっぴり青春時代へ戻りたいという思いから、 馬術部の行事には極力顔を出すようにしています。

話を元へ戻しましょう。 朝9時の試合開始に間に合うよう、 家から歩いて行くことにしました。 地図をみると8km弱なので1時間半見れば悠々でしょう。 前日までそう寒くはなかったのですが、 この日から最高気温8度以下が続くという天気予報です。 暗い雲が空全体に低く垂れ込め、日のささない朝です。 歩き始めて30分ほど 寒さでシンシンと腰が冷え 腹の具合がおかしくなりそうになってきて、 軟弱にもタクシーに乗ってしまいました。 長いコートでは暑くなると思い、 たけの短いジャンパーだったのですが、 やはり腰だけは覆った方がよかったようです。

馬事公苑の角馬場を背に 後輩達と

学生の頃から、冬の馬事公苑では何度も寒い思いをしてきましたが、 幸い今年は風がほとんどなかったので良かったようなものの、 十分寒かったです。さて、往路でめげたのが悔しく、 復路でもう一度挑戦です。 寒さにも身体が慣れていたこともあってか、 今度は快調に1時間20分ほどで帰ってくることができました。 朝食抜きだったので、 自宅近くの中華料理屋のホカホカの定食の美味しかったこと。

17日の夜は馬術部納会で築地まで歩きました

クリスマス気分の東京プリンス

皆同じことを考えるようです。しばらく行くと

携帯電話のカメラを向けているOLさんがいました

18日の日曜は午後からパレスホテルで都医の講演会があり、 自宅から9kmほど歩いて行こうかなと前から思っていました。 しかし、2日ほど前から太平洋側を除く日本列島を例年にない寒波が襲い、 数十年振りの大雪のニュースです。 東京だけは晴れですが、朝から冷たい風が吹き、日中最高気温5、6度ということです。

うーん、さすがに寒風の中歩くのは 手は冷たいし、涙と鼻水でずるずるになるのでやめようかな とも思ったのですが、挑戦することにしました。 数日前から読み直している伝記、 私の大好きなスティーブ・マックイーンの反骨精神に触発されたのかも知れません。 途中でめげたらタクシーでも良いか ということでしたが、 歩き始めた以上 目標達成ということで、1時間40分ほどで到着。

○ 惰性の動きは関節を痛める

最後はとばしたので右腰をちょっと痛め、一時的にやや跛行状態でした。 先日も朝トレで左肩をやってしまったばかりです。 手足を惰性で早く動かすことは関節を痛める危険のあることを、 再度思い知らされました。

最後まで振り切れる運動の場合それでも良いのだと思いますが、 蝶番のように最後のところで可動範囲が制限される場合、 最後に止めるところは筋肉のコントロール下におかないと 関節を痛めるということです。

最近、歩きはいつも iPod shuffle と一緒です。 こいつがちょっと調子が悪く shuffle モードにしても 前日と同じ曲順だったり、何度スイッチを入れ直しても なかなか曲がかからなかったりという不具合がありました。 「初期不良かな?」「iPod nanoを買えということか?」などと思っていましたが、 最近のネット越しのソフトウエア・アップデート以後、症状が出ないようです。 なるほど、ソフトのバグだったんですね。

○ 歩きと防寒装具

歩き出して30分もすると身体は暖かくなり、 さらに30分もすると手も温かくなってきます。 歩きの性能を落とすのは、何といってもエンジンのオーバーヒートです。 歩くには少し寒いくらいの方が調子が良いのですが、 寒さの程度に応じた装備がまだのみ込めていないようです。

昨年11月の「医師と歩こう」20kmコースでは、 他の参加者がコートやジャンパーの状態でも、 私は薄手の長袖シャツに薄手のベスト、 最後の頃は長袖シャツを脱ぐほど暑くなりました。 しかしエンジンが温まるまでは、ある程度の防寒装具が必要です。 風があったりすると、さらにそれを考慮する必要があるのでしょう。

昨シーズン、外出にコートを着たのは1月と2月だけでした。 今年も年内はコート無しで頑張れるかなというところですが、 急に寒くなったり 雪でも降るとそうはいかないかも知れません。 上半身についた筋肉で 寒さにも大分強くなってきました(鉄棒に凝り上半身逆三角形だった高校の頃も 非常に薄着でした)。 耐寒性能の上がったもうひとつの理由は、やはり「歩く」ことでしょうね。 それに加え寒さにも大分身体が慣れてきたようで、もう少し頑張れそうです。

薄着と言えば、私も東京都医師会の安藤理事には、 その足下にも及びません。彼は私よりかなり若いとは言え、 この2月厳寒の東京都医師会の旅行を、 半袖ワイシャツ一枚で通してしまいました。凄いです。 安藤理事の耐寒性能が高いのは、私とは違う理由と思います。 何なんでしょうね。

○ HOTプロジェクトの方向性の変化

東京都医師会では、ITによる地域医療連携促進のため HOTプロジェクトを進めています。 最初は東京都福祉保健局(当時は健康局)からの要請もあり、 都内診療所に電子カルテを普及させ、それによって病診連携の促進や、 患者さんへの情報開示を促進するというコンセプトだったのですが、 最初からこれをめざすのは無理と考えるようになってきました。

考えてみれば、紙のカルテで何も不自由を感じていないところへ、 何だか難しそうでお金もかかりそうな電子カルテなるものを わざわざ導入しようというインセンティブは一般には働かないのが当たり前です。 電子カルテも一旦使ってしまえば手放せなくなること間違いありませんが、 ほとんどの診療所は現在「何も不自由を感じていない」のです。

そこで、最近は「とりあえず電子カルテは導入しなくて良いですよ。 もっと簡単で便利な道具を少しずつ提供していきますから使ってみてください」 というスタンスに変わっています。 携帯電話の爆発的普及の原因が電話本来の通話機能より、 その付加価値サービスにあることから、 HOTプロジェクトで提供するネットワーク「ほっとライン」でも、 今後いろいろな付加価値サービスを増やすべきと考えるようになったのです。 便利で簡単な IT ツールを使うようになれば、 自然に「電子カルテも使ってみよう」ということになるはずと考えています。

ここで、何故こうしてまで電子カルテを普及させねばならないのか、 その理由を述べておきましょう。 近い将来必ず誰もが電子カルテを使う時代が来る事は間違いなく、 そうなれば必ずそれに対する行政の指針が決まります。 行政による指針が、医療の現状に即していることはまず期待できません。 そこでその前に、 現場の人間によって実情に即した土俵を作っておく必要性を強く感ずるからです。

電子カルテの基本部分については、 このような危惧から約10年前「電子カルテ研究会」を作り、 そこで基本的コンセンサスを作っていたため、 それがそのまま厚労省に採用された(電子保存の三原則など)という経緯があります。 最終的には行政指導でも良いのですが、 現状に則したルール作りをしておかないと、非常に多くの混乱と無駄を産むからです。

○ Web処方箋

そのようなことで、「ほっとライン」で提供される簡単で便利なツールであり 付加価値サービスの第1弾が「Web処方箋」です。

一昨年、電子カルテの Web Application 版を作ってみました。 現状の Web browser の能力では、 ある程度使えても本番用にはちょっとなあ、という感触でした。 しかし「Web Application の利点を生かしたものも必ずあるはず」 とも考えていました。 ここに HOTプロジェクトが重なり、 そこで構築されたネットワーク「ほっとライン」上で 「手軽に使ってみたくなるアプリケーション」ということで 処方箋を選んだわけです。

最初は東京都医師会の少ない予算でやるつもりで 本格的なものはあきらめ、 とりあえず「Web の中で処方箋を作成し、プリントアウトできるだけで良い」 と割り切っていました。 ところが運良く経済産業省の補助金を使えることになり、 調剤薬局の団体との共同事業に発展しました。

Web処方箋では次のような機能を考えています。 ドクターごとに自分の約束処方を登録できる。 小児用に体重による投薬量の計算機能。 薬剤添付資料の参照。ある薬剤に相当するジェネリック薬品の検索。 配合禁忌チェック。他施設との重複投薬チェックなど。

院外処方では、 調剤薬局の選択は患者さんの意思に任せる必要があります。 そこで従来通り処方箋は紙としてプリントアウトし患者さんに渡しますが、 その隅に2次元バーコードが打たれています。 「ほっとライン」加入の調剤薬局であれば、 これをスキャンし自分のレセコンに自動読込みできます。 これとともに調剤薬局は「ほっとセンター」へ接続できますので、 処方箋を発行したドクターとネットワークを介して連携できる仕組みです。

もうひとつ実験的意味合いがあります。 「すべての医療機関での画一的電子カルテの利用は現実に即していない。 現場ごとにマッチしたものを使うべき」と考える訳ですが、 処方箋のような「電子カルテの周辺ツール」に関しては ある程度画一的でも使えるのではないか、とも考えるのです。 好みの電子カルテに、 インターネット上サービスである周辺ツールを組み合わせて使えれば理想的です。 Web処方箋はその実験の第1弾でもあります。 さて、どうなんでしょうか。 今月末にテスト運用開始予定です。

○ 最近流行の PCノート

私は Windows マシーンは基本的に使いませんが、 その世界を見ると最近は誰も彼もが Let'snote ですね。 特にサラリーマンが開いているノートのほとんどと言ってよいくらい。 先日もある会議でノートを開いた3人全員が大小取り混ぜた Let'snote でした。

軽い、頑丈、バッテリー駆動時間が長い、などの理由なんでしょうね。 Mac ユーザとしては確かにそのあたり魅力的ではありますが、 チャチイのが嫌だなーというところ。もし Windows マシーンを買うなら VAIO の T シリーズなどが良いかなあなどと、、、

一時は VAIO を持っている人が多かったのに、 SONY のちょっと落ち目を反映したのかどうか、 最近は少ないように見えます 、、、さて、わが陣営の Apple ですが、 来年あたり登場が期待される Intel inside の PowerBook には魅力を感じています。 現在愛用の PowerBook 12inch が元気に動いていますので、 すぐ乗り換えることはないのでしょうが。

○ 2人のスティーブ

奇しくも私の好きな人物は、スティーブというふたりの人物です。 私の大好きな俳優 スティーブ・マックイーンの伝記を読んでいる頃、 本屋でスティーブ・ジョブズの伝記「iCon」を見つけました (Apple を創ったもうひとりの人物もスティーブ [ウオズニアック] ですね)。 今まで前2者の共通点について考えたことはなかったのですが、 両者の伝記を続けて読むことにより、 2人には非常に共通点のあることに気がつきました。

父親が不明、恵まれた子供時代を送れなかった。 生まれつき類い稀れ、ユニークな能力を持ち、常に体制への反逆児。 他人を信用せず不遜な態度で、尊敬される面とともに周囲から敬遠される面も多かった。 誰もまねのできないパワーでのしあがり、億万長者になった。

私が両者を好きな理由は恐らく 「私が持ちたいと思いながら持てないものを持ち」 一方で「私と非常に共通したものを持っている」からなのでしょう。 「常に理想を求め続ける」など、 そういう面でのピュアなところは 大変共感を受けるところです。 しかし両者から絶対に受け継ぎたくないものもあります。 部下や周囲への不遜、尊大さです(実際には彼らなりの理念があって、 それがそのような形に見えてしまうんでしょうけどね)。

○ スティーブ・マックイーン

スティーブ・マックイーンのデビュー作「拳銃無宿」は、 私が高校の頃 毎週 TV で放映されていました。 この頃から大ファンです。

彼にしかないユニークな動作、どんな危機に際しても飄々たる表情、 小柄な身体に秘められたガッツとパワーなどが大好きです。

私との共通点は、オフロード・バイクやサンド・バギーなど、 ダートの走りが好きなことで、 馬術部時代の私と共通するものです。 反体制の心意気もそうですね(現在の私は一見 体制の中に居るように見えますが、そうでもないのです)。

○ スティーブ・ジョブズ

彼らが創りだした初めてのパーソナルコンピュータ Apple ][ 登場以来のファンです。 素晴らしい美的センス、未来を洞察する鋭い目、 何ものにも屈しない意思(これはマックイーンも同じ)など。 ジョブズに憧れつつ、その部下としては絶対に働きたくないな と思わせるものもありましたが、 Apple へ復帰してからのジョブズはかなり角がとれたようです。

私との共通点は、 美しいもの(外見だけでなく、思想のデザインも含めて)へのこだわり、 常に遠い未来(というか理想的な快適さ)を求める心、 そして反体制の心ですね。

ジョブズの伝記「iCon」の中で、 唯一 著者による大きく誤った記述を見つけました。 「NeXT コンピュータは真っ黒な立方体で、とても印象的だった。 ただしケース以外に見るべきものはほとんどなかった」 「結局ジョブズが創り上げたのは、今回も、 内容より見かけを重視したスタイリッシュなコンピュータ、 市場に提供されているさまざまなコンピュータをこばかにする製品だった」。 ジョブズが送り出した NeXT cube についての記述です。

「わーくすてーしょんのあるくらし 1989.11 UNIX上のMac実現 -- NeXTがやってきた 」をご覧ください。NeXT はいま考えても素晴らしいマシーンでした。 ビジネスとして失敗の原因は、 理想を追求するあまり金に糸目をつけぬ製品だったこと。 このような高価なマシーンを導入すべき企業や大学などには、 すでに Sun が より低価格なワークステーションを提供していたこと。 一般の人々には、高価で手がだせなかったことです。 そのため「外部ソフトハウスからソフトウエアの提供」という良循環が、 まったく働かなかったことが決定的ダメージとなりました。

このようなことで、 旧 Mac が NeXT の血をもらって大きな飛躍を遂げたこと、 MacOS X が NeXT 直系の子孫であることを知る人は極めて少ないと思います。 成熟期に入りドキドキするような革新の難しくなったコンピュータ業界にあって、 未だにジョブズが毎年のようにサプライズを用意してくることが、 彼の稀なる才能を雄弁に物語っています。

今年もいよいよ暮れます、来年の大きなサプライズを期待して

どうぞ皆様よいお年を、、、

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「みなとみらい」の夜景です。写真には写っていませんが

この右側にある大観覧車を含む風景はとてもアメリカンです