1999.09 MacOS X Server

わーくすてーしょんのあるくらし (21)

1999-09 大橋克洋

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ようやく MacOS X Server の日本語版が Apple 社から正式にリ リースされました。私は開発者版を少し前から使っていたのです が、そこで知り得た情報は一切口外できないという契約でした。今 度は堂々と発言できるようになりましたので、今回は MacOS X Server の特徴などについて御紹介しましょう。

○ MacOS X Server って何?

Apple 社はこれからの OS 進化の方向性として、従来からの MacOS 8 系列と、数年前に買収した NeXT 社の技術を使った MacOS X (エックスではなくテンと呼びます)系列の2つを進めてゆ くことを発表しています。 いずれは MacOS X へ収斂される予定ですが、従来からのソフト などの資産が無駄にならないよう、しばらくは前者の系列を継続 し、数年をかけて無理なく、より先進的で安定した MacOS X へ軟 着陸しようということのようです。

今迄も述べてきたように、私は NeXT 時代からその先進的なOS を使ってきましたので、MacOS X になってようやく Apple のシス テムもビジネスに使える頑丈なシステムになると期待しています。 この春にリリースされた MacOS X Server は、見かけをかなり Apple に近づけてありますが中味は NeXT社の OPENSTEP そのもの と言ってもよいでしょう(Apple ユーザの抵抗をかわすため、かな りユーザ・インタフェースを Mac に近づけたため、むしろ先祖返 りをして機能が落ちた部分もあるのは残念です)。

現状での Apple 社としての MacOS X Server の位置付けは、文 字通りサーバ・マシーンです。例えば標準で Apache というWeb サーバが載っていますが、インストールなどの手間は一切ありませ ん。単に設定パネルの中でサーバのスイッチを ON にするだけで、 立ち上がるようになります。

○ UNIX の上で動く Mac

一言でいえば UNIX の上で動く Mac です。従来からの UNIX の イメージは「高機能だが専門的知識を持たないと扱えない」でし た。何かを設定するにはターミナル画面を開いて、おまじないのよ うなコマンドをキーボードで入れなければなりませんでした。DOS と似ていますが格段に高機能なだけに、覚えることも格段に多い のです。

X Server の中味は今流行のLinux と同様 UNIX ですが、NeXT 時 代以上に UNIX を隠して使いやすくなったという印象です。UNIX の上に操作パネルなどをかぶせて、裏にある複雑精密な内部構造を 極力見えなくしています。 ひとつの例を挙げると、ネットワーク周りの設定パネルなどは NeXT より更に簡潔になってしまったので、それはてっきり AppleTalk の設定用だと思い込み、X Server のネットワーク設定 はどうやってやるのだろうと最初悩んでしまいました。

その他、色々な設定がとても簡単になりました。前述のように Web のサーバなどは最初から立ち上がったようなものですから、 あとは指定したフォルダーの中に HTML で書いたコンテンツを 置いてやれば、即ネットワーク上から見えるようになります。 外部へ公開してインターネットから見えるようにするには、それ なりの仕組みのセットをさらに行う必要がありますが、単に構内で イーサネットを繋ぐだけでしたら、これだけで何の苦労もなくイン トラネットが立ち上がってしまいます。

画面は極力 Mac に近づけるよう NeXT から見るとやや先祖返り をしています。そのため NeXT で便利だった機能がいくつか削られ ているのは残念ですが、いずれまた元の機能は戻るだろうと楽観的 に考えています。いろいろなファイルを渡り歩くブラウザーは NeXT 独特のもので Linux などでも似たものが動いたりしているほ ど、慣れると大変便利なものです。

○ MacOS 8.6 とボタン一発で行ったり来たりできる

そのようなことで私にとっては MacOS X Server だけでも、ほぼ 満足できるのですが、従来の MacOS と行ったり来たりできるの は、やはり便利です。 左上の「アップル・マーク」をクリックして現れるプルダウンメ ニューに、「MacOS」というのがあります。これを選択すると画面 が真っ白になって「ボワーン」というあの独特の音とともに見慣れ た MacOS 8.6 のオープニング画面が現れます。 そこからは従来の MacOS とまったく同じ経過をへて MacOSが立 ち上がります。MacOS の右上のツールバーをクリックして現れたメ ニューには「MacOS X Server」という項目がありますので、これを クリックすると、X Server の画面へ戻れます。

MacOS を一旦立ち上げておけば、X Server からの切替は今度は 一瞬です。X Server 上の Apache で立ち上げたホームページを裏 側の MacOS 上の InternetExproler や NetScape で見ることもで きます。OPENSTEP は開発環境としては素晴らしい性能を誇ってき ましたが、余りにも知られない OS だったので市販のソフトウエア が殆どありませんでした。MacOS X Server もしばらくはそのよう な状況だと思いますので、Mac の市販ソフトウエアも使えるという ことはとても嬉しいことです。

「これは良い」ということで、私は MacOS 側で MP3 による音楽 をかけながら、画面を X Sewrver に切り替えて WINE の開発をし てみようと思いました。さすがにそれは荷が重すぎたようです。コ ンパイルを始めると、音がプツン、プツンと切れはじめ、やがて止 まってしまいました。MacOS 側に切り替えてみると、MacOSは完全 に凍りついていました。仕方なく OS を再立ち上げしましたが、こ の場合でも MacOS X Server の方は何も問題なく動いていました。

今回リリースされた MacOS X Server は文字通りサーバですが、 来年には MacOS X がリリースされる予定です。こちらはクライア ントすなわち、従来からの MacOS と同じレベルで使うものになり ます。 MacOS X になると、MacOS 8 系列と MacOS X Server 系列が完全 にシームレスに融合され、相互に切り替える必要もなくなる予定と 聞いています。現在の MacOS の不安定さに悩まされている方々 も、もう一年足らずの辛抱です。来年の今頃になれば、安定した MacOS X の上で仕事をできるようになっているでしょう。

○ 素晴らしい開発環境

NeXT 時代からのウリは何と言っても、その卓越した開発環境で す。マイクロソフト社の VisualBasic などの操作性は、まさに NeXT の InterfaceBuilder が原点になっています。 商用の本格的なオブジェクト指向開発環境で最も長い実績を誇る もので、これが Apple 社をして吸収合併に踏みきらせた理由と言 われています。私の電子カルテ WINE は、これなくしては実現でき ませんでした。

現在は更にいくつかのセールスポイントが加えられています。 NeXT 時代からの開発環境は Objective-C という言語を使って いましたが、今度は Java でも開発できます。X Server に附属 しているテキスト・エデイターは Java で書かれたソフトです。 そのためか、立ち上げに少し時間がかかるのは難点ですが。 もうひとつ、強力な点は WebObjects というものです。これは ホームページからデータベースなどをコントロールするためのシス テムを開発するものです。

優れているのは、前述の Objective-C や Java で開発したエン ジンやパーツをそのまま使って、ユーザインタフェースだけを Web にすることができることです。このため、開発が物凄く省力化 されます。WINE でも受付のような比較的簡単な業務や参照だけの 業務には WebObjects を使って Web ブラウザーで使えるようにす る予定です。 本当に NeXT 時代からのエンジニアの経験の豊富さと、卓越した アイデアにはいつも感心させられます。

○ とんでもない性能・価格比

最後の特徴は NeXT 時代を知っているユーザから見ると、とんで もない性能・価格比です。従来 OPENSTEP という OS は開発環境を 含めて20万以上しましたし、WebObjects に至っては数百万でし た。それが全部入って何と59,000 円です。iMac の価格も性能から するとベラボーに安いと思うのですが、最近の Apple 社のこのよ うな戦略的な価格設定には心から拍手を送りたいと思います。

同時に、消費者が納得するリーズナブルな部分では十分に儲けて もらい、次の発展につなげて欲しいとも思っています。 意気ごんで書き始めた割りには、どこの雑誌にもすでに紹介され ているような内容になってしまいましたね。今後少しずつ使用した 上でのレポートなどを織り込んでいきたいと思います。

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