2003.01 理想の電子カルテをもとめて

わーくすてーしょんのあるくらし (64)

2003-01 大橋克洋

昨年の医療情報学会での発表「電子カルテのモジュール化」で、 将来の「電子カルテの理想の姿」について提言しました。 理想では「Windows、Mac、Linux など OS に依存せず」 「機種にも依存せず」「ユーザごとに設定された使い勝手の電子カルテ」を 「いつでもどこでも使えるべき」と考えます。

ある医師が他の医療施設へ行っても端末に自分の ID を入れれば、 ネットワーク上のどこかにある「電子カルテ・レイアウト・サーバ」から、 いつも自分が使い慣れた電子カルテが down load されます。 ユーザごとの電子カルテはまったく異なるもので構いません。 データは MML などの標準規格でやりとりされるので、 皆がバラバラの電子カルテを使っても全然問題ありません。

電子カルテはモジュール化され、どこかに便利な部品があれば、 それを自由に自分のカルテに簡単に組み込めます。 治療指針や診断ツールなどのまとまった機能は、 ネットワーク上に色々なツールがサーバとして存在し、 電子カルテはそれにアクセスするので、 それらの高度な機能も自分のカルテの機能であるかのように 使うことができます。

以上が私の述べた現在考える理想の電子カルテ像です。 その実現に向け進むのが 2003 年の私の目標です。 そろそろロートルとなったプログラマ ーが取り組むので進みはゆっくりと思いますが、高い理想に向かっ て進めばいつかは行き着けるでしょう。 願わくば、このような考えに共鳴した若いパワフルな仲間がこの プロジェクトを引き継いでくれることですが、まあ、あまり期待せ ずとりあえずは独力でスタートすることにしましょう。

○ 開発環境を JAVA へ移行

「OS や機種に依存せず使える」ことを実現しようとすると、 もっとも現実的な解は JAVA 言語を使うことだと思います。 幸いなことに MacOS Xは Apple 社が正式に JAVA をサポートし、 最近はJAVA でのアプリケーション開発を推奨しているようで、 またとない環境です。 一昨年あたりから NOA の開発も NeXT 時代から使い慣れた Objective-C から JAVA へ移行すべきかなあなどと迷ってきましたが、 このような目標ができたので 2003年からは きっぱりと JAVA へ切り替える決心をしました。

さっそく JAVA プログラミングに関する本を買ってきて、例によ り独学の始まりです。なるほど「Java はそもそも Objective-C など、いくつかの言語を元にして作られたので、 Objective-C からの移行はとても簡単」というのはその通りでした。 MacOS X の Cocoa と呼ばれる開発環境には とても便利なライブラリーが沢山あるのですが、 JAVA にも同じようなものがほとんど存在しました。 Class 名が違うので最初はちょっと戸惑いましたが。

○ GUI に関してはまだ JAVA は NeXT に及ばない

危惧していたように GUI に関するライブラリーは MacOS X に比 べ2歩も3歩も遅れているようです。MacOS X の Cocoa 開発環境では 簡単にできていた美しい GUI には目をつぶらねばならない面がまだ多々あるようです。

ただし MacOS X では JAVA の開発に際し Objecteive-C のライブ ラリーも利用でき、これを使えば私のやりたい ことの多くが従来通りできるはずと思います。しかし目標のひとつ が「OS に依存しない」ことなので、最初は極力 Cocoa 環境の便利で高度な機能に依存せず、あくまで pure JAVA でどこまでやれるか挑戦してみたいと考えています。

昨年の医療情報学会で、私が「JAVA に移行したいが GUI などの 面でまだ JAVA にはできないことがありそうな」と述べたところ、 A 先生から「いやそんなことはない。JAVA を使ってGUI も完璧に表 現できる」との言葉がありました。「本当なら嬉しい誤算」と思っ て挑戦していますが、やはりそんなことはないようです。

pure JAVA しか知らない人であれば、C で書くよりずっと 便利なのでそう思うのかも知れませんが、長年 Objective-C と InterfaceBuilder を使ってきたものから見ると、 GUI 構築能力に関する限り JAVA は10年以上前に登場した当時の NeXT の能力にも達 していないと感じ、歯がゆく思っているところです。

○ しかし JAVA の方が快適なところも

GUI に関してはちょっと残念でしたが、それ以外の部分について はなかなか快適です。 むしろObjectie-C より快適な部分もあります。 メモリー管理をプログラマーが考えなくて済む部分はバグの種が 減るということで有り難いですし、たいしたことではありませんが Objective-C のようにヘッダーファイルを作らなくてよい、あるい は変数宣言を文頭でなくプログラムの中間に埋め込めるのも結構便 利に感じています。

勉強がてら GUI に余り依存しない自分用のアプリケーションを2 つほど JAVA で書いてみました。おー、GUI がどうでも良いものに ついては、結構快適に書けますねえ。これは便利かも知れない。 同様に勉強がてら NOA の基本部分から作成にかかっています。 私の知るところでは Cocoa の場合のように Object そのものを XML の形でファイルへ読み書きするクラスがないようです。これは かなり不便です。 そこで XML解析クラスがあれば何とかなるのですが。

MacOS X の中を探してみると JavaXML という framework が見 つかりました。これを使えばここで悩んでいたことができそうです 、、、ところがどっこい、何とか compile は通るようになったもの の実行させると「そんなクラスは知らない」と怒られてしまいます 。うーむ、この framework を認識させる方法を探して格闘中です。 JAVA では Applet タイプで、Web 上で操作するアプリも簡単に書 けるのはありがたいです。これでプロトタイプの電子カルテを作る のを、当面の今年の目標としました。

○ ついに買ってしまった PDA、SONY の CLIE

昨年暮れ VAIO C1 を購入したことを書きましたが、それから2週 間もしないうちに秋葉原 LAOX デジタル館で CLIE(PEG NX70V)を衝 動買いしてしまいました。LAOX デジタル館は場所もよく私は愛用し ていたのですが、惜しいことに昨年いっぱいで閉館ということで多 くの商品が1割引の閉店セール中でした。

PDA は携帯電話と一体になるまで我慢して買うまいと思っていたのですが、 展示品しか残っていないCLIE がほぼ半額ということで、 「これは買うっきゃないでしょう」と購入してしまいました。 閉店セールが前からわかっていれば、VAIO C1 の方も1割引になったのになあ、 とちょっと残念でしたが、CLIE で得をしたので良しとしましょう。 それから1ヶ月ほど経た現在の感想としては、 これは結構面白いし買ってよかったと思っています。

PDA は初めてですが、今度の CLIE から CPU が新しくなり、 スピードもかなり早くなったのだそうです。 確かにネットワーク接続以外はストレスを感じません。 デジカメ、ボイスレコーダ、mp3 による音楽再生、 QuickTimeによる動画再生など、 必要な機能をほとんど搭載しているのは衝動的ですが、 決定打は、この機種から通信カード用スロット装備になったことです。

携帯しながら e-mail をPOP で取ってこられるので、 ホームで電車を待つ時間にメールを読んだりしています。 携帯電話より画面が大きく読みやすいのですが、 もう少し小さいフォントも使えると、 一画面にもっと多くの文字を表示でき便利です。 メモリーがそう大きいわけではないので、 絵や動画などのかさばるメールが一通でもあると 糞詰まりを起こしてしまいちょっと不便です。 一定サイズ以上のメールをはねる設定ができると嬉しいですね。

Web は画面が小さいので完全とは言えませんが i-mode など携帯 電話の Web よりはずっと本格的です。 Mac でキャプチャーした TV 番組を QuickTime にして CLIE へ持 っていってみました。おー、なるほどー、圧縮で画質はかなり落ち ますがこれは楽しめます。

キーボードを標準搭載しているのも便利かなと思っていましたが、 Graffiti とよばれるペンタッチ入力が素晴らしく、 日本語入力でもキーボードはまったく使っていません。 CLIE で大分触発されるところがありました。JAVA で書いている NOA プロトタイプにも、マウス操作でごく簡単な Graffiti を搭載してみました。これはなかなか便利です。

○ Mac ユーザは SONY がお好き

ある雑誌になるほどと思うことが書いてありました。「Mac ユー ザが Mac 以外の製品を買う場合は SONY 製品が多い」という内容で した。うーん、確かに。もうひとつ付け加えるなら「Mac ユーザが 車を買うなら HONDA 製品が多い」というのも、きっと言えるのでは ないかなあと思っています。

私の好きな企業、Apple, SONY, HONDAに共通するのは、「他と違 うユニークで」「楽しい」製品をどんどん生み出す「やる気のある 」企業だからです(宗一郎さんがいなくなってからの HONDA は以前 に比べエキサイテイング度が落ちてきたのはちょっと残念ですが)。 そう言えば、初代 Mac は SONY が独自に開発したフロッピーデイ スクドライブを搭載した最初のマシーンでした。それまで、フロッ ピーは文字通りペラペラのものでしたが、Mac が出てからプラスチ ックケース入りのものが常識になってしまいました。iMac が出現し て半透明のブルーなグッズがあふれたことなど、 Mac が流行を導いたものは他にいくつもありますね。

現在は Apple 社の製品に直接 SONY 製品が組み込まれているもの はないようですが、現在でも Jobs は SONY を尊敬していることを Expo の講演の中で表明しています。 現在私のところでどうしてもうまくいかず残念なのは、Mac と CLIE との Sync がだめなことです。VAIO と CLIE との Sync は問 題ないのですが。これがうまく行けばいつも使っている iCal とス ケジュールを同期できるので、CLIE の存在価値が数段上がるのです が。どうしてうまくいかないのかなあ、、、

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