1988.04 レーザプリンタの世界

わーくすてーしょんのあるくらし (16)

1988-04 大橋克洋

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今まで使っていたエプソンの VP-80 プリンターが不調 になってきた。とりあえず修理に出さなければならないが、 その間困ってしまうので、これを機会にLBP(レーザプリンター) の導入を検討することにした。

LBP も100万円以上していたのが、最近はようやく50万円 以下になってきてそろそろ踏み切り時のようでもあり、 どうしようかと迷っていたところである。

どうせなら PostScript の載るまで待とうかとも思ったが、 もし近いうちに出たとしても、当分はそう安いはずはないことに 気づいた。

○ LBP をテストする

もっとも実績があると思われるのは Canon の LASER SHOT だが、 最近発表された京セラの L-880 もコンパクトな感じで 悪くはなさそうに思っていたところへ、丁度タイミングよく 「京セラの LBP をテストしてみませんか」との電話があり、 渡りに舟で早速使わせてもらうことにした。 聞いてみると京セラのものは、すでにヨーロッパなどへ輸出の 実績のあるものなのだそうだ。

何せ本来はソフト屋でもハード屋でもない素人で、いつも UNIX へ新しいペリフェラルを接続するときはかなり苦労するのが常 なので今回も SUN-3 との相性がちょっと心配だったが、 接続はなんなく行って今までのドットインパクトタイプの プリンターに慣れたものにとって、ウイーンと微かにうなる 音とともにスルスルと音もなく紙が吐き出されてくるのは、 ちょっとした感激の一瞬だった。

○ あっけないほどの処理スピード

見ていると印刷速度はそうべらぼうに速いとは思えないのだが、 大きなドキュメントをプリントしてみると、ちょっと何かを やっている間にいつの間にか終わっている。まったく、あっけないほどである。

プリンターへ何かを出力するときは UNIX では通常 lpr コマンド を使うが、emacs の中からも読み込んだファイルの全部あるいは 一部を lpr で出力できるのは極めて便利である。

特に mail や news を読んでいるときにこれをやると大変能率的で、 これに勇気を得て今まで余りにもボリュームが多くて読むところに ならなかった JUNET の各種手引きを一気にプリントアウトしてしまった。

LBP の弊害の一つはとにかく余りにもあっけなく大量のドキュメント をプリントアウトできるものだから、ちょっとしたものでも見境なく 手軽にプリントアウトしてしまうことで、高級紙屑発行機となって しまう可能性が高い。

用紙は通常コピー用紙を使うが、したがって以前ここに書いたように 要らなくなった裏紙を A4, B5 とサイズ別にとっておき、 これをカセットにセットして使うというケチケチ作戦がますます 意味を持ってくることになった。

○ 優劣つけがたい両機種

結論をいうと、この後 Canon の LASER SHOT も借り出して比較 した結果、結局は LASER SHOT を入れることにしたのだが、 その理由にこれと言ったものはなく、単に現時点では Canon の 方が画面のダンプなどユテイリテイーがそろっているとうだけの 理由で、京セラのものもなかなか悪くないと思う。

特にゴシックのフォントは京セラのものの方がそれらしく、 スライドや OHP の原稿を作るには便利で捨てがたいところだった。 場所をとられるのはご免なので、LASER SHOT は B4 でなく A4 サイズを出力するタイプにしたが、外形のサイズはどちらも たいして変わらず、専有面積という点からすれば京セラの L-880 の方がやや小さい。

ただし私のように折り目の入った古い紙を使う場合、 京セラのものでは紙づまりを起こすことが時々あったが、 Canon ではほとんどないのはさすが複写機メーカーだけあると 感じた。

現在使っている SUN の日本ご用にインプリメントした システムである JNIX では漢字コードは EUC で扱われるが、 printcap の中で漢字変換のフィルターを設定しておくと、 lpr でプリンターにコードを送る際に、そのフィルターで JIS へ自動変換してくれる。LASER SHOT は JIS コードを 受け付けるようになっているので、これでうまく印字できる という仕掛けである。

○ 一人三役

私の仕事場には SUN と PC-98 それに Mac が置いてあるのだが、 PC-98 はセントロ、SUN は RS-232C、Mac はそれ専用の イメージライターとそれぞれ仕様の異なった3台のプリンター を置かねばならない。そこで今までは SUN の方はプリンター を我慢し、どうしてもハードコピーをとりたい場合は PC-98 のターミナルエミュレータを利用して、PC-98 の プリンターへ打ち出していた。

しかし京セラでも Canon でも PC-PR201H のエミュレートモード が使えるので、PC-98 と SUN のプリンターは1台で済むことに なった。しかも LASER SHOT ではケーブルを PC-98 と SUN に常時接続しておいて、電源を入れる際のスイッチの押し方 ひとつで、どちらでも好きな方のモードで立ち上がってくれるので 大変便利である。

ご存知のように Canon は Mac をも扱っており、最近 LASER SHOT を Mac 対応にしたものも出したようである。 しかし現状では仕様は Mac 用に固定されていて PC-98 のプリンターと兼用はできないそうだが、販売店の話では いずれカートリッジで Mac のモードをも選べるようなものも 出るらしいので、そうなれば 3台のコンピュータが1台の LBP を共有するという大変好ましい状況になる。

とにかくプリンターという代物はコンピュータ本体よりも 場所を食うし、上に物を重ねておくこともできないので 始末におえないが、これで部屋の中も整理できるというものである。

さらに欲を言わせてもらえば、LBP も縦置きにできるとか、 最近の VTR やオーデイオ機器のように箱形にして前面のみで コントロールできるようにし、上に他の機器を重ねられる ようになればもっと良い。紙づまりを起こした時それを取り除くには 引き出し式に手前にスライドできるようにすれば良いだろう。

○ LBP だけでも困る

LBP を使った印象では、一度これを使ったらまずやめられない というのが本当のところである。しかし LBP だけでは困ることも あるような気がする。

というのは、私の所でいえば給与支給の際、通常はヒサゴで 出している給与袋に明細を印刷しているのだが、この場合袋の 上に印字すると袋の表には職員の名前と日付しか印字されない のだが、複写式になっている袋の内側にはちゃんと明細が 印刷されるようになっている。これが LBP ではできない。

また途中まで印刷された紙を挿入して、その途中から印字 させるような芸当も LBP では難しい。

もちろんそれなりのソフトを作れば可能だが、 少なくともドットインパクトプリンターのように手動で 好きな位置まで紙送りをし、そこから印字させるような訳にはいかない。 LBP には LBP なりの使い方を工夫するべきかも知れない。

○ アドベンチャーゲーム

ほめてばかりいては何なのでという訳でもないのだが、 最後にひとつ Canon に苦言を呈するなら、マニュアルの整備が イマイチで、フォントの設定についてマニュアルを最初から 最後までなめるように読んでみたが、まったく記述されていない 部分があり、いつものようにアドベンチャーゲームと相成った。

それからもうひとつ Canon に注文は、できれば将来 PostScript 対応のものを出す際は、ボード交換あるいは増設程度で 従来の LASER SHOT をPostScript 対応にグレードアップできる ように是非して欲しい。

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