2005.06 Mac も Intel inside に

わーくすてーしょんのあるくらし (93)

2005-6 大橋克洋

Apple 社が毎年デベロッパー(ソフトウエア開発者)向けに開催している WWDC(World Wide Developpers Conference) が日本時間の6月7日早朝から開催されています。 このカンファレンスも以前は日本でも開催 されていたのですが、最近は米国だけの開催になっています。

会場はサンフランシスコのモスコーン・センター、 大変懐かしい所です。 ここで開催された NeXT Expo に参加したことがあります。 NeXus (日本 NeXT ユーザ会)の仲間とツアーを組んで 2年連続で行きました。冗談で「ツアー組んで行こうか」と言ったのが 実現してしまったというノリのあるユーザ会でした。 上はその時の写真で、 NeXus 代表の私から Jobs へ NeXus のロゴ入りTシャツを 渡している写真です(中央は NeXus の松野さん)。 1993年5月ですから丁度12年前ですね。 Jobs も私もまだ若いでしょ、、、

あの時もモスコーン・センター会場のドアの前に一番で座り込んで NeXT 社の CEO だった Steve Jobs によるプレゼンテーションの 始まるのを待った覚えがあります。 今は Apple 社の CEO となった Jobs のプレゼンが今年も目玉の一つです。 さて今年 Jobs は、どんなサプライズを用意したのでしょうか、、、

○ Mac も Intel inside に

WWDC 開幕前から Apple 社が IBM のチップから Intel のチップへ CPU を変更する話が流れ、真偽のほどとともに、色々な議論が湧き上がっていました。

本日の Jobs のプレゼンで正式にアナウンスがあったようです。 今後 Apple 社は2年をかけて Mac に搭載するプロセッサを徐々に Intel 製チップへ移行してゆくことを発表しました。 これに対する賛成の意見とともに、 「Mac の CPU が Intel になるなら、もう Mac は使わない」などという意見もあるようです。

MacOS X の祖先である NeXT 時代から知っている人間としては、 Mac の CPU が Intel になるという話を聞いても何も唐突な感じはありません。 すでに NeXT 時代にモトローラのチップから Intel チップへの大転換を経験しているからです (Jobs へTシャツを渡している写真の後の方にも、Intel の文字が見えますね)。 むしろ NeXT 社が Apple 社へ吸収合併になって、 NeXT の OS、NEXTSTEP の Mac への移植に当り Intel 以外のチップへ移行する時の方が心配だったりしました。

MacOSX になっても、その基盤である OS Darwin 自体は Intel の上で 問題なく動いていることを知っていましたから、 今回の方向転換はむしろ歓迎面の方が多いかも知れません。 これで Mac が Mac でなくなってしまうことはまったくありませんし、 安く高性能の CPU で動くようになるなら大歓迎ですね。

○ 昨日の敵は今日の友

これまで Apple は Intel に対し、敵対的姿勢を取り続けてきました。 同じCPUスピードでは Mac が使う PowerPC の方が圧倒的なパフォーマンスを叩き出すという実験結果を公表したり、 宇宙服のような防じん服に身を固めたインテルの工場オペレータが 熱さのために燃え出してしまうという CM を流したり。 WWDC の壇上に上がった Intel CEOの Paul Otellini氏が、 この CM を昔の笑い話として上映し会場の笑いを誘ったそうです。

壇上で抱き合う Apple の Jobs と Intel の Otelini

以前もサンマイクロシステムズ社の CEO スコット・マクネリ氏が、 「Sun と NeXT が手を組むようなことがあれば、自分の目を針で突いてやる」 と言ってから数年後 NeXT と組むようになり、 NeXT 社のイベントに呼ばれた壇上で 針で目を突く仕草をして会場を沸かせたことがありましたね。 「昨日の敵は今日の友」あるいはその逆は Jobs の得意とするところですが、 まあこれは Jobs に限らず米国 IT 業界では珍しくないことなのでしょう。

ところで NeXT 時代も含め Jobs が このように突如アーキテクチュアの大転換を行って ソフトウエアベンダーを慌てさせ、「屋根に上がったところを梯子をはずされた。 もう Jobs の仕事をするのは嫌だ」という話は何度も聞いてきました。 今回も「また仕事が増える」と頭を抱えるベンダーがあることを伝えています。 しかし、そのようなベンダーは、そもそもクソ面白くもないソフトウエアしか 作れないベンダーと私は考えています。もっとアグレッシブでなければ。 Jobs の一見気まぐれと見える このような大転換の後に待っているものは 必ず以前より良いものなので、私はまったく心配していません。

新しいアーキテクチュアにスムーズに移行できるよう Apple 社は開発者用のツール Xcode の新しいバージョンを用意しており、 PowerPC 用ソフトと Intel 用ソフトの両方を同時にコンパイルできるそうです。 この2つのアーキテクチュアを1つにまとめた Universal Binary という形式のファイルを生成します。 こうしてできたソフトウエアを起動すると、どちらの CPU でも動く仕掛けです。 これは NeXT 時代を知っている人間には懐かしいもので、 当時は Fat Binary と呼んでいました。 私も NeXT マシーンと Sun のハードどちらでも動くバイナリーを作り 動かしていた時代がありました。

○ 次期OSのコードネームは Leopard

次期バージョンのOS X は2006年後半から2007年初頭にかけてリリース する予定で、そのコードネームは Leopard だそうです。 そろそろネコ科の名前は尽きてくるのではないかと思っていたのですが、 まだありましたか。 このリリースは MS 社の次期 Windows(コードネーム Longhorn)と同じタイミングだそうです。 Tiger で Longhorn に搭載する予定の Spotlight 機能をすでに出してしまっているので、 次はどんなアドバンテージを持ってくるのでしょうか。

それはそれとして MS 社との友好関係は続き、 MS 社は Intel CPU で動く Office を出すと言っています。 CPU が Intel なら、 そのマシーンで Windows が動くかどうか気になるところですが、 どこかのベンダーが インテル Mac で Windows を動かすことは妨げない と Apple 社は言っています。 同時に Mac 以外の Intel マシーンで MacOS X を動かすことは認めないとも言っているそうです。

このあたりは NeXT 時代と異なり、 Apple のハードウエアを堅持したいということでしょうね。 確かに NeXT が普通の Intel マシーンで動くようになってから、 筋金入り NeXT ファンの私でさえも、ハードウエアに対する愛着はまったくなくなりました。 それまでの NeXT マシーンであれば、 現役を引退しても永久保存したい欲求にかられましたが、 Intel マシーン(いわゆる DOS/V マシーン)はお釈迦になると 躊躇なく廃棄しました。

○ アップル、音楽配信を日本で8月開始

ようやく日本でも待ちに待った iTMS (iTunes Music Store) による音楽配信が8月上旬に開始されるようで、 国内最大の50万から100万曲程度をそろえる予定だそうです。 米国では1曲 0.99ドル、英国ではもっと安いようで、 さて日本では1曲いくらになるかに関心がありましたが、 150円程度になりそうです。

日本でもただでさえ iPod が普及していますから、 iTMS がオープンされれば音楽のダウンロードが爆発的に広がるでしょうね。 現在アップルは音楽配信で世界最大手となっていますが、 まさかこんな方向にブレークするとは 事前にとても予想できませでした。 Jobs が CEO を兼任する映像(ピクサー社)系ならわかるのですが。

○ Office12 のファイルフォーマットは XML ベースに

WWDC の話題ではありませんが、 Microsoft 社は来年発売予定の Office 12 で、 XML ベースのファイルフォーマットを採用することを明らかにしたそうです。 従来のバイナリ形式ファイルフォーマットが オープンな標準に基づくXML形式になれば、 ユーザーが個々のファイルを開かず各種ドキュメントから直接データにアクセスし、 新たな目的に使えるようになります。 新しいXMLフォーマットはファイルサイズも最大で75%縮小されるそうで、 ウイルスや悪質なコードがファイル内に勝手に組み込まれて実行されないようになる というメリットもあると述べています。

おお MS も、たまには良いことをやってくれますね。これはとても素晴らしいことです。 このようになれば、Mac や Windows などの OS を超えたデータのやりとりが楽に行えるようになります。 まさに、MedXML コンソーシアムが「電子カルテ研究会」の頃から 実現しようとしてきた「システムを超えたデータ互換」 と同じコンセプトを実現するものですね。 医療界にとっても、MedXML にとっても、波及効果は大きいでしょう。 私が書いて来た18年にわたるこのエッセイで、 MS 社を褒めるのは初めてのことです。

MacOS においても属性ファイルなどは数年前から XML 形式をとってきました。 他のファイルフォーマットについても Windows と互換の方向へ是非進めて 欲しいものです。Apple 社のことですから、きっとやってくれるでしょう。 とてもスマートな方法で。

私は Windows を使わないので、 当たり前のようにくる Word の文書に辟易していたところです。 最近は MacOS X 標準の TextEdit などでも ある程度 Word 文書を開けるようになりましたが、 今度 XML になればもっと完全に近いフィルタリングができるので、 TextEdit への読み込みがもっとやりやすくなるでしょう。

○ 診察室の BJ Printer 遂にダウン

電子カルテの周辺機器として活躍して来たプリンター は、キヤノンのたった数万円のありふれたバブルジェット・プリンターでした。 MacOS X を使うようになり NeXTプリンターが使えなくなって、 近所の家電店頭で安いプリンターを買ってきました。 これが今まで使って来たキヤノンの BJ S600プリンターです。 MacOS X へ、あっけなくつながってしまったのには驚きで、 そんな安い製品なのに LBP と比べても遜色ない繊細で美しいフォント、 かつスピードも NeXT プリンターに遜色ない速度でさらに感激したものです。

快調に働いてきた BJ プリンターですが、 エラーランプが灯ったままプリントできなくなりました。 電源を入れ直したり、コンピュータをリブートしても駄目です。 5年近く活躍してくれましたが、 これが使えないと即、診療に支障がでてしまいます。 いさぎよくリプレースすることにしました。 急ぐ必要があるので ASKUL のカタログで適当なものを選び FAX で注文しました。

EPSON の PM A-700 です。たった19,800 円、 白いシンプルな筐体が好印象、 コピー、スキャナーを兼用できるところに目をつけました。 EPSON のプリンターは昔から定評があります。 ドットインパクト・プリンターの時代、 私も EPSON を愛用していました。

翌日宅急便で届いたプリンターは 診療の合間に簡単に接続できました、早速プリント。 ところが、「おーい、フォントが汚ねーな。スピードもちょっと遅いんじゃない?」 というのが第一印象です。 やはりバブルジェット・プリンターに関してはキヤノンの方が上の様ですね。 Web でキャノンのプリンターを調べてみると、 キヤノンにも同様の機種があります。価格は1万円少々上回っているのですが。 速攻で決定購入してちょっとしまったかな、などと、、、

○ インターネット上のタイムマシーン

地球上で公開される Web page は時々刻々増殖し、 消え去って行くページも数多く在ります。 私の Web Site も永遠に持続できるものではありません。 私の加齢とともにいつの日か消え去るのかなあなどと、 ふと、そんなことを考える年齢になってしまいました。

誰も同じことを考えるようで WayBackMachine というものを発見しました。 www.archive.org で公開されています。 ここに地球上の Web page の「その時々の姿」がコレクションされています。 現在400億ページを保存し、 毎月20テラバイトのデータを追加している 「世界最大のデータベース」だそうです。 人類共通の巨大な記憶となり将来は学術的な意義も大きくなるはず、とあります。

私が中学生の頃読んだ空想科学小説を憶いだしました。 探検隊が地中深くで発見した巨大コンピュータが、 宇宙の色々な事象を もの凄い演算スピードでシミュレートし記憶していたというものです。 こんなことも現実の世界になってくるのかも知れませんね。

早速 Ocean Web Space の過去の姿を掘り出してみました。 私の site は 1995 年から公開ですが、 WayBackMachine には 1998.11 から保存されていました。 完全なデータの収集がうまく行かなかったようで 抜けは結構ありますが、それでも昔の面影をとどめています。

途中から Ocean Web Space のレイアウトは、 閲覧しやすいようフレームを使うようになりました。 フレーム構造のページはうまく収集できないため、 表紙だけしか蓄積されていないようです。 「自らの労少なくコンテンツを何処かにアーカイブしてもらおう」 という虫の良いことを期待するなら考え直さねばならないかも 、、、と思いつつ、最近のページを見てみると、 おお、2003年頃からはちゃんとフレーム構造のページもアーカイブされています。

さすが、たいしたものですね。 アーカイブの技術が少しずつ上がっていく状況などが見えて面白いです。 世の中に初めて Web Site という仕組みが現れた時に感激したことですが、 自分の利害だけを考えるのではなく、 このように「世の中のために自分達の能力や労力を提供する」 人達がいるということは素晴らしいことです。

そもそもこのような精神がインターネットを創り育ててきたのですが、 果たしてその利用者の何パーセントがそれを理解しているのでしょうか。 私も何かお返しをしなければ、と思っています。

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