荏原医師会館 新会館建設までの経緯

2000.01 荏原医師会副会長 大橋 克洋(東京都医師会雑誌)

当医師会では、創立50周年記念事業の一環として平成11年6月に 新会館を建設した。医業の厳しい時代に会館を建て直すということ は色々な面で難しいことであるが、他地区医師会での会館改築の ご参考になればと思い、 経緯について報告いたします。

当医師会は会員数約190名。従来の会館は鉄筋3階建にプレハブ で看護学校施設の一部を1階増設した4階建である。築30年以上を経 て老朽化が目立ってきた。

そこで平成5年に「会舘ならびに関連問題検討特別委員会」が設置 され、甘利会長より以下のような説明があった。「今期は現会舘の 大規模補修を行なうが、保存療法にも限度があり建てかえを考える べきという意見は以前からある。建て直す場合は、会員になるべく 経済的負担をかけない方法を考えたい。同時に今後の医師会のあり かたについても併せて検討していただきたい」。

○ 会員意識調査のためのアンケート結果

基礎資料として、アンケート調査を実施(以下要旨)

  1. 臨床検査センター

  2. 今後も必要とする 41%

  3. 運営方法を検討すべき 38%

  4. なくても困らない 25%

  5. 医師会立看護高等専修学校

  6. 看護学校を利用している会員 15%

  7. 卒業後1年以上勤務したもの 31%

  8. 看護学生採用予定のある会員 13%

  9. 会舘建て直し

  10. 費用負担が少ないなら賛成 45%

  11. 必要 30%

  12. わからない 13%

  13. 不要 6%

◆ 平成7年1月10日 答申(要旨)

基本的考えとして、医師会は会員の負担を「なるべく有効に公 平に」還元するよう努力すべきであり、会員も「負担を公平に負 うよう努力すべき」である。

  1. 医師会諸事業の見直しと今後のあり方

    1. 臨床検査センター対人部門・健診事業・休日固定診療所は 今後も継続・充実すべき。看護高等専修学校・臨床検査セ ンター対物部門は、とりあえず現状維持。

  2. 新会舘の建設について

    1. 以上実現のため「休日固定診療所と健診事業の設備充実」 「地域住民に安心と信頼を与える診療施設」「会員研修設 備の充実」などが必要。新しい会員に魅力ある医師会を創 るた めにも新会館の建設は必要。

  1. 会舘建設にともなう資金面について

    1. ・会館建設などに備え備蓄してきたもの

    2. ・医師会事業収入によるもの

    3. ・借入金によるもの

    4. ・会員からの拠出金によるもの

    5. ・医師会所有不動産の一部売却

    6. ・行政などからの補助

    7. 年齢・診療科目・その他を勘案し不公平感を少なくするた め、これらを組み合わせることが必要であろう。

◆ 平成8年1月10日 答申(要旨)

  1. 新会館に要する施設・スペースの具体的な検討について

    1. 新会館には以下のようなものが必要

    2. ・医師会の地域活動(検診、休日診療、高額機器共同利用など)

    3. ・会員の生涯教育の場

    4. ・会員の交流親睦の場

  2. 新会館建設資金の具体的調達計画について

    1. 備蓄・会員からの拠出金・借入金が三本柱となる。拠出金につ いては、他医師会などの例も参考にして、A会員5000円 60か月、B会員1000円60か月を提案する。

◆ 平成8年4月「会舘建設準備特別委員会」

具体的検討に入るので、委員の半数を理事者で構成する。

  1. 医師会の将来のビジョンについて討議

    1. ・色々な可能性に対応できるよう会館容積には余裕が必要。

    2. ・なるべく将来の用途変更へ対応できる構造にすべき。

    3. ・MRI などの高度で高額な機器までは必要ないのではないか。

    4. この原案が元になり、最終的に以下のような構成となった。

        1. 1F: 医師会事務局、休日診療所

        2. 外来者からのアクセスが良い必要がある

        3. 2F: 診療所のレントゲン部門

        4. X 線室3、CT室1、更衣室、技師室、事務室

        5. 3F: 会議室

        6. 会長室、小会議室1、中会議室2、 書庫、休憩スペース

        7. 4F: ワンフロアーの研修スペース

        8. 2室に仕切ることができる

  2. 設計の具体的プランについて検討

    1. 各事業部より新会館に関する要望などをまとめ、11月から建築 専門家のアドバイサーに同席してもらう。レイアウトの基本を 決めてしまう部分として、駐車場とレントゲン施設があり、最 初にこれらについて検討。

◆ 平成9年4月「会舘建設実行特別委員会」

  1. 設計業者の公募(平成9年4月)

    1. 「建築設計事務所」を公募。公正を期するため、会員からの推薦 を条件とする。また「設計専門で、施工も行う企業でないこと」を 条件とした(設計、施工を一社で行う方が能率の良い面もあるという のが結果的な印象)。委員会であらかじめ決めた基準に基づき選考の 結果、久米設計事務所に決定。

  2. 建設費に関する討議

    1. 「建設費の負担は将来に対して不安。ワン・フロアー減らして は」など、出費に対する反対意見も多々あった。しかし「過去に、 予測できなかった新規事業の発生などにより何度も増改築を繰り 返してきた。長期的にトータル・コストを最小にするためには、 基本部分にはしっかり投資しておくべき」という委員会の意見に より4階建ては堅持された。

◆ 平成10年4月「会舘建設実行特別委員会」

  1. 施工業者の公募(平成10年4月)

    1. 会員からの推薦かつ以下の条件による。

      1. 大手と地元建設会社との Joint Venture の形態をとる。

      2. 建設省による一定の評価と区からの発注実績のあること。

      3. 地元業者は、区からの発注実績と地元に本社があること。

      4. 応募11社中が適宜 Joint Venture を組み見積もり提出、 もっとも低い入札価格の戸田建設、松本建設の JV に決定。 JV 形式をとった理由は、信頼できる大手の技術力・安定性 と後日のメンテナンスにおける地元の小回りの良さである。

  2. 建設資金として以下の3つをあてる

    1. 手持ち資金として、会館整備積立金・別途積立金など。

    2. 借入金として、社会福祉事業団・品川区からの借入金。

    3. 会員からの拠出金(小額であっても会員の負担は必要)。

      1. 地上4階、延約400坪の新会館の建築費は約4億である。その 他、什器備品などに約2千万を備蓄から当てることにした。 休日診療所部分などを公設民営にしてはという意見もあった が、行政の補助には必ず制約もつくので借入金の形をとり、 あくまでも基本は自前という姿勢をとった。 会員の直接負担が月5千円で済んだのは、将来のために隣接 土地を確保しておいた先人の英断があってのことである。

  1. 近隣への説明会(5月15日)

    1. 近隣からは、騒音・交通障害その他、予想以上に厳しい意見 が出たが、着工後は TV の受信障害のクレーム程度で、余り 大きなクレームはなかった。

  1. 起工式(7月28日)

    1. 着工後も毎月定例で建築業者と設備その他についての打ち合 わせ会が行われた。また、警備会社、電話業者、事務機器業 者を入札で決定した。工期約10か月で新会館が完成した。

◆ おわりに

このプロジェクトは「十分な期間をかけて広く意見を求め検討を 行い、会員の十分なコンセンサスを得て実施する」という甘利会長 の方針に基づいて遂行されました。おそらく今後も、これだけじ っくりと練られたプロジェクトはないのではないかと思われます。 今後、会館建設を検討される際の参考になれば幸いです。