2020.05 不安定だから足が前にでる

わーくすてーしょんのあるくらし ( 327 )

2020-5 大橋 克洋

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◯ 不安定だから足が前にでる

今から35年以上前のことになりますが、東京工大でロボット工学をやっておられた森政弘教授のラジオを聴いていると「歩くロボットを作ろうとするが、なかなかうまくいかない。試行錯誤をしているうち、はたと気がついた。ロボットは安定した状態では歩かない。不安定な状態でこそ一歩、また一歩と足を出すことになる。人生も同じ」。これには私も「なーるほど」といたく感心したものでした。人生においても、安定した暮らしの中から素晴らしいものは生まれない。不安定で波乱万丈の中から、苦し紛れに頭を働かせ身体を動かしているうち、結果として素晴らしいものが生み出される。

森先生はデザイナーなど異業種数人で自在研究所というグループをつくり、色々面白いことをされているとのこと。これがとても興味深く、私も一度その会に出席させて頂きたいと手紙を差し上げたことがあります。先生は気さくに快諾され、いそいそ大岡山の東工大の森教室へ伺い参加させて頂きました。会の雰囲気は予想通りとてもクリエイティブで楽しいものでしたが、残念ながら2度目のご招待はありませんでした。

すでにあの頃、森先生は髪もやや薄く白くなられていたような気がするので、その後どうされただろうかと Wikipedia で調べてみました。すると、先生は昭和2年生まれ93歳でご健在のようです。オートメーションやロボットの先駆者ということは知っていたのですが、いわゆるロボコン:ロボットコンテストの創始者でもあるんですね。小学校時代から工作を好み、寝食を忘れてもの作りに励まれたそうです。私も小学校に入る頃ロボットに夢中で、父から「ひとつのことを一生続けたら凄いものになるぞ」と言われましたが、先生の経歴を拝見し「しまったー」と思ったものです。

世界中が新型コロナウイルス:COVID-19 の惨禍に見舞われています。しかし、こんな状況だからこそ、これを逆手に生かし新たな技術や生き方が生まれるべきと思います。このように不安定な状況だからこそ、前に進むのです。

◯ 今月の歩術

先月会得した「軸足でしっかり大地を踏みしめ、腰をやや低くする気持ちで軸足に重心をおきながら、他足を自由にして前に出す歩き」は、十年以上にわたる長年の歩術の研究から初めて生まれた効果的歩法であることを実感。「疲労が少なく、登り坂も容易」ということで、まさに「歩術」と呼ぶにふさわしい成果と思っています。

これにより先月は、この調子なら月間200キロ達成は堅いと思ったのですが、思わぬ痛風発作で最後の10日間は歩くことができず、150キロ弱にとどまってしまいました。

今月1日、まだ両足の甲にかなり浮腫が残っていますが痛みも治まってきたので、10日ぶりに早朝散歩で5キロちょっと歩いてきました。今月の表紙の花は、その早朝散歩の道すがら撮影したもの。

月なかばになると歩行距離も通常にもどってきましたが、上記の軸足に重心を置く歩きでもやはり足に疲労感がでてくるようになってしまいました。痛風で歩きを休んだのはたった10日ほどだったのですが、なかなか先月の快調な歩きに戻ってきません。回復の悪いのも年齢のためなのでしょうか。今回の痛風は昨年暮れの発作より大分軽くで済んだのですが、足の浮腫が引くにはやはり3週間ほどかかりました。その間、私としては珍しい晩酌なしが続きました。

先月7日からの自粛令により「コロナ疲れ」という言葉も流れますが、私はもともと早朝散歩以外は外に余りでない生活を送ってきましたので、生活は以前と何も変わりません。

◯ コードレス・イアホン CARD20

3月にレポートしたように、コードレス・イアホンを Anker のものに換え、しばらく早朝散歩に使っていました。当初危惧していた耳からの脱落も無く使っていたところへ、大分前オーダーしたコードレス・イアホンが忘れた頃に届きました。これは2月にクラウドファンディング:MAKUAKE で注文していたもの。実際手元に届くのはいつのことやらと、待ちきれず Anker のものを買ってしまったという経緯があります。

忘れた頃に届いた今度のコードレス・イアホンは CARD20 というもの。イヤホン・ケースからして、上右のようにペッタンコの薄さで極めてコンパクト。イアホン自体もかなり薄く軽い。Anker では耳への装着方法を間違えたりしましたが、CARD20 では間違えようがない。Apple の AirPods の通称ウドンより短い足があり、それを耳朶下方の隙間にはめる。耳の穴に入る部分は耳穴を封鎖するゴムカバー付きでなく、下の写真のような金属製の本体が耳穴の入口にひっかかるような形態。ウドンと共に耳朶の凹凸にうまくひっかかり、本体重量が軽いので跳んでも跳ねても外れる心配はなさそう。

Anker のイヤホンでは耳穴に密着したゴムカバーのせいで、耳閉感のようなものが強く気になっていました。散歩で後ろから来る自動車の音が聞こえにくかったり。CARD20 は金属製で耳穴に僅かな隙間があるため、不快な耳閉感はまったくない。予想外にクリアで良い音質なのも期待していなかった喜び。ノイズキャンセラーを装備。到着直後早速使ってみたところ、1時間もしないうちバッテリーが切れるのか接続オフになってしまう。本体がコンパクトなのでバッテリー容量が小さいとしても、いくら何でもこんなに短いはずはないと寝ている間に充電しておいたところ、翌日2時間弱の早朝散歩では問題なし。付属の説明書には、ごく簡単な説明しか載っていないので、ネットで説明書を探しました。すると本体4時間、バッテリーケース16時間、併せて20時間は使えるとのこと。

本体を指で3回タップすると、Siri に問い合わせできます。本体にマイクが内蔵されていて、こちらの喋ることをちゃんと聴き取れるようで、歩きながら簡単な調べ物ができるのは便利かもしれない。他人がいるところでは躊躇されますが。当然 iPhone に接続している時だけでしょうね。ダブルタップで再び音楽再生に戻ることができる。

本体が薄いので、装着したまま枕に耳をつけ横になっても全く問題ない。こんなに薄く軽量なのに、バッテリー容量・音質・ノイズキャンセラーなど中身は充実、価格も1万円以下は素晴らしい。デザイン・センスが良いのも、とても私好み。

唯一問題はペアリング。他に bluetooth 機器がある場合そちらを掴んでしまい、なかなか思うようにペアリングできないことがあるのがちょっと悩み。

クラウドファンディングとあって、募集期間が過ぎるとオーダーできなくなってしまうのですが、本当にスグレモノなのでいずれ本格的販売を期待しましょう。

◯ ネット上の心無い言葉による痛ましいできごと

若い男女がシェアハウスで暮らす姿をただただ記録した「テラスハウス」という番組があります。「軽井沢編」を見ていたことがありますが、その後マンネリで視聴しなくなっていました。しかし「東京編」が始まり、Netflix で再び視聴しはじめました。舞台となるシェアハウスが素晴らしいのが楽しみですが、東京編最初のメンバー6人がなかなか好ましい美男美女そろい、すっかりハマって2日かけ一気に見てしまいました。若い彼らが繰り広げる息をもつかせぬ展開がどうなるのか気になり、つい続きをみてしまいエンドレスに、、

シェアハウスの情景がしばらく流れた後、6人のスタジオメンバーが、流れていたストーリーに関し色々感想を述べるのがお約束。コロナ自粛に伴い、スタジオメンバーもたった一人になってしまいました。テラハ・メンバーに22歳、女子プロレスラーの木村花さんがおり「コロナのため、試合などが一切なくなってしまった」というくだりがありました。

ここに突然予想もしなかったショッキングな出来事。1日中テラハを観ていた翌朝「テラハに出ていた女子プロレスラーの木村花、昨日死去」の報。彼女のインスタグラムに午前3時、愛猫と一緒の写真とともに「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね」というメッセージを遺し、朝早く病院で死亡が確認されたとのこと。死因は公表されていません。あんなに元気一杯、はじけるような笑顔の彼女が亡くなるなんて、とても信じられなかったのですが、ネットで検索してみるとテラハで起こった事柄に関しSNS上で心無い誹謗中傷が執拗に彼女を叩いていたようです。恐らくそれで命を断ったのではないかと。

花ちゃんはリング上では、強いレスラーそのもの。将来を嘱望されるレスラーですが、リングから降りると普通以上にナイーブな心をもつ女の子。想う男性への気持ちを身体全体で表しはにかむ姿や、想いに応えてもらえず密かに涙を流す姿がたびたび流れていました。それにしても、リング上であんなに強いレスラーが SNS 上の誹謗中傷に負けてしまうとは、、彼女がいかに純真でひたむきだったかということ。とても残念、悲しいことです。

プロレス仲間やテラハ仲間、著明アスリートなどから追悼メッセージが続々。テラハで親しく過ごした心優しく心細やかな金髪美人ビビのコメントからも、極めて強いショックがうかがえます。一時は恋の鞘当てだった愛華もテラハ卒業後花ちゃんと親しく交信していたようで、当日深夜 SNSで異変を感じ自宅に駆けつけたが留守、病院で変わり果てた姿を見たとか。「緊急車の窓へ女性が『起きろ、花!戻ってきて〜』と大声で叫んでいた」話など胸が熱くなります。駆けつけたプロレスラーで彼女のお母さんとプロレス仲間だったようです。

テラスハウスは海外でも放映され、ニュースはCNNやBBCなど、海外でも流れたそうです。彼女の死にともない、花ちゃんの出る次回とその次の回は放映中止とのこと。花ちゃんのお母さんから「花をいつまでも忘れないで愛していて欲しい」とのメッセージ。花ちゃんを惜しみ悼むためにも、放送中止回の花ちゃんの姿見たかったなあ、、

インターネットが始まった頃ネットは「性善説」そのものだったのですが、インターネットが一般化した途端「性悪説」に変わってしまったのは、インターネットの曙の頃から関わってきたものにとって、とても腹立たしく悲しいことです。特に自分の姿を隠し安全なところにいながら他人を責める匿名での仕業は、この上なく卑怯千万。

◯ 状況を補足

正しく状況を理解しない方もあると思い、詳しい状況を補足しておきます。

テラスハウスの生活で花はリョウに想いを寄せますが、リョウは気の合う金髪美人ビビと仲良くすることが多くなり、花はそれを見て密かに涙。隣に座っていたカイがそれに気づき慰めたのがきっかけで、花はカイに心を寄せるようになります。優しい面を持つカイでしたが、カイの自分勝手な面が見えてきて心は離れていくのでした。

そしてある晩、大きく泣きじゃくりながら女子部屋に入ってくる花。わけを尋ねると手には彼女がリングで身につけるコスチューム。「わたしが洗濯機にこれを入れたまま出掛けちゃったのが悪いんだけど、洗濯機に残ってるのを確かめもせず洗濯物を入れて回したヤツがいるんだよ。しかも乾燥機まで掛けやがったから、縮んじゃった上に色落ちして着られなくなっちゃった。これは私の命の次に大事なコスチュームだったんだよ。これで大事な試合に勝ってきたし、この正月に念願の東京ドームにも出られたんだよ」。コスチュームはデザイナーと打ち合わせ身体に合わせて作る一点物で、十万円以上するもの。

食堂へ行き、皆の前で経緯を説明。一張羅を台無しにされた悲しみより憤りが勝ってしまい、洗濯機を回したカイを皆の前で一方的に責めたてる。その剣幕に誰も声なし。花を心配するとともに一方的な責めに違和感を覚えたビビが翌日、花と二人で話をする。「花にも悪いとこあったんじゃないかな」というビビ。花は「100−0でカイが悪い」と言い切る。女子部屋に来た時の気持ちも、その後の憤りの爆発で吹き飛んでしまった様子。

食堂で花が怒りを爆発させたのは、その底に「命の次に大事な思い入れある一張羅の仕事着を台無しにされた」大きな悲しみがあった。しかし、食堂で怒る姿だけを見て SNS での花へのバッシングがあったのではないか、、

彼女がテラハに入居しなければ、コスチュームを洗濯機に残さなければ、残っていた洗濯物をカイが出していれば、コロナのタイミングがちょっとずれていれば、花が滅入っている時に近くで支えてあげる人がいれば、花がちょっぴりしたたかだったなら、、花が命を断つことはなかっただろうにと思われます。後から嘆いても詮無いこと、、

私なら自分をディスる言葉の溢れたSNSなど一瞥したあと開きもしませんが、SNSに浸かってしまうと自分を害すると判っていても離れられなくなるのでしょう。花ちゃんの実像はリングでの悪役レスラーとは真逆、心たおやか愛すべき女の子でした。返す返すも残念、、

◯ 心の強さについて

事件発生直前までテラスハウスを観ており、花ちゃんがとても良い子であることを実感していたところへ突然の訃報で、大騒ぎしている世間以上にショックが大きく、またもや話題を引っ張ってしまってすみません。

彼女のお母さん木村響子さんも強面の元プロレスラー、当日夜「花ちゃんが救急車の中で心肺蘇生されている窓の外で、祈るように手を合わせ地面に崩れ落ちる姿が見られた」とのこと。しかし気丈にもその後のマスコミへの対応では「お願いだから警察その他関係者への取材は控えて欲しい。忙しい方々の邪魔をしないで」「同じような連鎖を防ぐためにも(死因などの)詮索はしないで」というような主旨のコメントを述べておられます。このような時よくマスコミは死因など詳細な報道をしがちですが、これは自殺幇助にも当たり、絶対にやめるべきと私も常々感じていたところです。

将来を期待していたであろう最愛の娘を、突然失った母親の気持ちは察するに余りありますが、誰を悪いと言うこともなく、関係者への配慮を求めたり、若い子達が同様の不幸に陥らないよう配慮するなど、なかなか常人にはできない素晴らしい対応。本当に強い人、尊敬すべき人と思います(花ちゃんも当夜決行前、愛猫を友人に託すべくケージに入れ事務所前に置いたり、自室ドアに「有毒ガス発生中」の貼り紙をするなど、他への細かい配慮が見られました。この母にしてこの子あり、本当に惜しまれます)。

このような時に取り乱さず(直後は流石に動揺は大きかったと思われますが)、冷静な対応できる人は「本当に強い人」と思います。このお母さんですから、花ちゃんももうちょっと経験を積むことができればSNSの誹謗中傷などに負けることなく、テラスハウスの食堂で怒りをぶちまけることもなかったのでしょう。彼女はまだ余りにもナイーブでした。

例えとして適切でないかも知れませんが「強い犬は吠えない」という言葉があります。

◯ 今月のコロナ

上記の悲劇もコロナ禍のひとつ。コロナ自粛で stay home する中、百を越える自分への誹謗中傷を含む SNS を独りで見続けるしかなかった。コロナによりテラスハウスでの共同生活が中断されたタイミングで発生した悲劇でした。

東京はまだコロナ自粛が解けませんが、月なかばを過ぎると1日の感染者数が10人を切る日が続くようになってきたので、月末を待たずにとりあえずの解除に向かいそうです。そろそろ東京も自粛が解けそうな雰囲気になりつつあります、、と書いていたら、25日になって政府から「すべての都道府県の緊急事態宣言を解く」ことが決定されました。

自粛が解けたといっても無罪放免ではなく「感染予防に努めながら」。コロナ蔓延前の状況に戻るのではなく「コロナと共存する生活」であることが強調されました。世の中にどれだけそれが判っている人がいるんだか、ちょっと心配。リバウンドが怖いですね、、

< 2020.04 花は桜木人は武士 | 2020.06 頑張るのではなく辛抱 >

HANA, forever.

これは日々の生活で感じたことを書きとどめる私の備忘録です