2003.09 長良BOF

わーくすてーしょんのあるくらし (72) 

2003-09 大橋克洋

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9月はネタがなく、この原稿は10月になって書いています。 今月は、岐阜で開かれた全国医師会医療情報システム担当者連絡会に ついてレポートしてみましょう。 今回の第20回協議会は、2003年10月18日(土)から19日(日)の2日間、 岐阜市の長良川沿いのホテルで開催されました。

長良川の対岸右端の建物が会場となったホテルです

私は第2回目でUNIX による LAN 上の院内システムについて発表していますが、 あの頃はスポンサー付きの豪華なもので、湯河原の立派な旅館で行われました。 雪の箱根を車を運転して登ったのを思い出します。

○ 医師会IT化についてホットな議論

今回のメインメインテーマは「ブロードバンド時代の医療機関連携 -- 電子カルテ、ORCA、セキュリティ」ということでした。 全国医師会の情報担当者を中心に、ホットな議論と親密なコミュニケーションが 協議会を盛り上げました。

数年前から、特に地方都市医師会ではIT化への取り組みが熱心でしたが、 それらも地について今回は非常に実質的な発表が多く、会場も熱のこもったものでした。 日医の坪井会長代理として青井常任理事による開会の祝辞ではじまり、 厚労省医療技術情報推進室の関英一室長による基調講演が行われました。

シンポジウム「ITを活用した医療連携の現状と問題点」では、 ブロードバンドによる医療機関連携、山形県の医療連携電子カルテシステム、 岐阜県の地域医療データ標準化による病診連携などの発表がありました。 山形県鶴岡地区医師会での地域医療連携システムについては、 来年2月に東京都医師会で講演をお願いしていますが、 これをやっておられる三原先生は以前から地域医師会の IT 化 などに熱心に取り組んでおられる先生で、慈恵医大の後輩でもあります。

○ 目をひいた遠方と会場を結んでの画像会議デモ

午後のケースレポートでは、都医の医療情報検討委員会安藤委員、 川内委員長により会場と全国数ヶ所を実況で結んだ画像会議のデモがあり、 居眠りをさそう午後の時間、全員の目を覚まし注目を浴びました。 やはり、会場の大画面に日本全国の遠方の先生の顔が動画ででて、 実際に会話ができるのを見られるというのは画期的だったようです。 これからは、 このような会場と外を結んだ動画による会話というデモも珍しくなくなることでしょうが、 まだ医療情報学会でもやっていないと思います。

もうひとつ、画像を使った演題で面白いものがありました。 高画質の携帯電話を使い、救急現場から患者や事故の状況、 あるいは頭部CT画像を送って遠隔診断の援助を行うものです。 確かに事故現場から車のぶつかった状況の写真や、 患者さんの瞳孔の状態などを救急隊員が携帯電話のカメラ から転送するのは良い方法かも知れません。 簡便で安価、かつ非常に実用的で面白い利用法と思いました。

○ 盛り上がったアンオフィシャルの off line meeting

いつも東京都医師会の医療情報検討委員会では この協議会に出席すると、正式の懇親会の後、 現地で委員会と事務局での懇親会をやる習わしでした。 今回は新しい委員のメンバーから、 どうせやるなら全国の人達と会える数少ないチャンスなので、 大勢と交流できる懇親会をやりたいという意見がでました。

全国の ML で呼びかけたところ、 非常な盛り上がりで大勢が参加することになりました。 ネーミングも私が昔の楽しかった UNIX ユーザ会の BOF から「長良BOF」を提案したところ、 採用されました。BOF というのは Bird Of Feather すなわち 「同じ穴のムジナ」という意味です。

off line meeting の後、2次会、3次会と盛り上がりました。 私は 2次会まででホテルへエスケープでしたが。 全国の大勢の医師や事務局が本音を語りコミュニケ ーションをとれたことで、非常に満足感の高い試みでした。 きっと今後は恒例になるのでしょう。

○ 地方での積極的な IT 活用への取り組み

2日目のケースレポート、 岐阜の「インターネットデーターペースを利用した感染症情報システムの構築運用」は、 時々刻々と変わる感染状況をホームページで随時参照できるもので、 地区医師会の意欲的な取り組みを感じさせるものでした。

シンポジウム「ORCAの普及に向けて」の後、日医の西島常任 理事による「日医のIT戦略」の特別講演がありました。 西島常務理事は来年、退任される宮崎議員の後を受け立候補するということで、 話し方も完全に議員さん風になっていました。全国を駆け巡って遊説中ということです。

○ 電子カルテが普及しても紙カルテは残る

最後はパネルディスカッション「これからの医療ITはどうあるべきか ー電子カルテと紙カルテの連携」ということで、松岡正己先生(大阪)、 高橋徳先生(大阪)、秋山昌範先生(東京)という一騎当千の 個性的演者によるディスカッションです。

どの方も自分なりの意見をお持ちで一歩も引かないだろうから、 面白いバトルになるのではと無責任な期待もあったようです。 しかし、ディスカッションは意外と常識的な範囲におさまり、 そういう面ではちょっと残念だったとの声もあったような、なかったような。 最後の締めの中で、「電子カルテが普及しても紙のカルテもなくならない」 という全演者の共通認識は会場に感銘を与えたようです。 電子カルテを現場の道具として使ってきた人間からすれば当然の答えですが、 電子カルテというものは凄いものに違いないと思っていた人にとっては、 かなり意外な答えだったようです。

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