1987.09 システム手帳とワークステーション

システム手帳とワークステーション(9)

1987-09 大橋克洋

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最近は「ファイロファックス」や「タイムシステム」といった いわゆるシステム手帳が流行している。 事務処理に限って考えれば高価なワークステーションも、 安価な(単なる手帳としては決して安くもないようだが)システム手帳も 情報管理の道具に過ぎず、運用上何も変わらない。

○ 情報機器はなるべくコンパクトに

私も事務の合理化には大変興味があって、 このような道具には目がない方だが、 これらのシステム手帳には手を出さないでいる。 その第一の理由として、外出の際はなるべく身軽でいたいので、 かさばるものは困るのである(医師会や産婦人科関係で週5日位は 理事会・委員会などで出歩くことが多い。 都会は交通事情から車はとても不便なので専ら電車と徒歩による)。

ラップトップがワークステーションに相当するかどうかは 使いようによろうが、ここにも同様の考えがあろう。

デスクトップもマッキントッシュのように専有面積最小のものが チャーミングで、日電のN5200モデル03のように 良い点はどんどん真似して欲しい(本家の Mac に比べデザイン的に洗練されていないのは残念)。

○ 情報をいかに捨てるか

第二に、システム手帳には色々と考え抜かれたフォーマットが沢山あって 大変能率的に使えそうだが、 未消化のまま使うと情報が多くなりすぎたり、 必要なときに情報が見つからなかったりしそうである。 情報とは、ため込むことではなく、いかに不要になった情報を捨てるかにあるのだが、 このように面白そうなフォーマットが沢山あると目をごまかされてため込み、 うっかりすると本末転倒になりそうである。

ワークステーションのように高級なものになると、 設定次第で不要となったファイルを自動的に削除してくれるのはありがたい。 しかし、とにかくゴミはため込まないことが第一である。

○ 私のシステム手帳

何はともあれシステム手帳の考えはありがたく頂戴し、 自分なりの手帳を作ることにした。 手帳に備えて欲しいことを考えてみると

    1. スケジュールは最低1年分は何時も保持してほしい。

    2. データの挿入・削除・訂正が可能で、これらは出先で行うのでなるべく簡便でありたい。

    3. 内容についてはソートされた状態で保持するのが理想。

    4. 体積を最小にするために、余分な空白はカットしたい。

    5. 仕事場・自宅など何処でも、場合により他人にも参照できる必要があるが、 いちいち手帳を転記する手間はかけたくない。

    6. 手帳はワイシャツのポケットに入らなければ困る。

最近の電子手帳はほとんどを満たすように思えるが、 実務に使うには表示部分が少ないし、キーボード大好き人間の私でさえ この程度のことはペンでちょっとメモした方が断然簡単で早い。

○ 半電子手帳

解決は意外に簡単だった。まずスケジュール・メモ・住所録をコンピュータに入れてしまい、 ワンタッチで必要な情報がワークステーションに表示されるようにした。 コマンドを打ち込む際のパラメータの付け方次第で 日を先頭に1週間分のスケジュールを表示したり、 年間スケジュールを自由に上下スクロールさせて眺めることもできるし、 編集用パラメータをつけてコマンドを起動すれば エディタが立ち上がってスケジュールファイルを自由に修正できる。

1日のスケジュールは何行にわたっても構わない。 1行コマンドを打ち込むだけで済むのがミソで、UNIX の calendar コマンドでは 一日一行分の内容しか扱えないので、コマンドは自作した。 住所録を扱うコマンドはシェルスクリプトで書いたものだが、 パラメータとして何かキーになるものをつけてコマンドを叩くと そのキーに一致したものだけが画面に出てくる。

これらを紙に打ち出すと1行が本文1段分位の巾に収まるようになっているので、 ノリ付けして長い巻物状にし、 グルグルっと巻いてぺちゃんこに押しつぶし、 透明なビニール窓のついた定期入れに入れておしまいである。

○ マルチウインドウシステム

この際、本日から一週間のスケジュールの部分が窓から見えるように入れるのがミソ。 日が変わるにつれ巻物を出して手動スクロールさせる。 定期入れには表紙に一つ、内側に二つ窓があるので、 内側に「処理しなければならない事項のリスト」(システム手帳でいうところの DoIt)と 「スケジュール表」を入れ、外側の窓にはカード型の時計を収める(このカードウオッチには タイマー・ストップウオッチ・電卓・スケジュールや電話番号の記憶機能があるが、 時計とタイマー、電卓以外はまず使わない)。

これはマルチウインドウシステムの一種といえなくもなく、 スケジュールや処理事項を見るには通常は手帳をめくる必要がない。 ちょっとワイシャツのポケットから手帳をだせば、 時刻がみられるし、会議や講演の時は手帳を机の上に置いておけば時刻が見えて便利である。

○ 情報は発生源入力

情報は刻一刻と変更あるいは追加されるが、 とりあえずそれらはちょっとボールペンで記入しておく。 経験上、情報機器はいつも手元になければ本当の道具とはなりえない。

一日のうちワークステーションの前に座ることが多いので、 その時手帳の中の追加・変更された部分だけ訂正すればよい。 このシステムの特徴の一つは、原始データは電子的に管理されているので 余白は皆無にでき、かつ何処にでも自由に挿入・削除できるのでハードコピーとして 持ち歩くボリュームを最小限にできることである。

ハードコピーを取り直すのは週に1回か、面倒ならもっと少なくても支障はない。 秘書を使える身分なら1日1回秘書に手帳を渡し、 端末から更新部分を入力してもらえばさらによい。

○ 情報は一元管理

1枚ほど余分にハードコピーを取って仕事場に貼ったり、 家内に渡して今週のスケジュールを伝えるのに正確で省力化になる。 過ぎ去ったスケジュールにはコメントを追加してハードコピーし、日記帳とする。 手帳はあくまでもコピーなので惜しげなくゴチャゴチャ書き込んで構わない。 いつでも奇麗に清書されたものを打ち出すことができる。

もらった名刺も暇なときにワークステーションから打ち込んでおく。 住所リストはキー検索ができるので、持って歩く必要のないものはそのように キーを設定して入力しておけば、ハードコピーに打ち出されない。

○ 一時情報は分離して管理

一時的に必要な情報は最初からあくまでもテンポラリ・ファイルとして管理し、 不要となった時点で捨て、不要な情報を持ち歩かないようにする。 後日必要となりそうなら、スケジュール表に追加してメモしておく。

そもそも二度と使われない情報や、必要な時に出てこない情報はゴミに過ぎない。 仕事によってはとてもこのように簡便な方法では解決しきれない場合も多々あるだろうが、 本当に常時必要な情報は意外に少なくできるものである。

またシステム手帳の目的は、もっと高度な情報管理にあるのだという反論も当然あろうが、 そのように使いこなしておられる方には何も言うことはない。 私の場合、さらに高度なことは現在はまだワークステーション上で処理している状況である。

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