2010.04 まず自分の環境を整えることから

わーくすてーしょんのあるくらし ( 206 )

2010-4 大橋克洋

地球温暖化でここ数年、入学式の頃に桜は葉桜になっているのが常。 しかし今年は4月に入っても空は花曇り、空気は花冷え。寒暖の差が激しく 2日には強風が吹くなど、私の大好きな桜花の色も あまり冴えませんでした。 綺麗な桜の花を見るには、気温が上がりしっかり日が当たる必要があるようですね。そんなことで今年の低気温により、3月下旬にほころび始めた桜の花 4月10日を過ぎても眺めることができました。

今月の表紙には春の雰囲気を出したくて、 3月半ば法事の際に鎌倉の光則寺で撮影した写真を使ってみました。 若葉のつやつやした緑が綺麗ですね。 そういえば最近お目にかからない「椿もち」を想い出しました。

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色々な道の 匠たちの道具をみていると、 年季の入った職人で「お仕着せの道具」で満足する人は ほとんど居ないように見えます。 金沢の漆器職人による木工のお椀作りを見ていると、 新人はまず自分専用のノミから造り始めるとか、 「なるほどね。わかる、わかる」。

昔 UNIX のハッカー達(悪いことをするのはクラッカー)とメールで話をしてると 「新しい環境が手に入ると、仕事そっちのけでまず自分の環境作りに励むんだよねえ」 「同感、同感」というやりとりがよくありました。新しい OS を載せると、 自分専用のツール類を(必要ならネットから落としてきて)自分専用の場所に整えたり、 画面の見かけや使い勝手を整えたりと、、

彼らにとって仕事そのものも大事ですが、それより 「仕事をする環境そのもの」「自分のやり方」こそが大事なのです。 そうでないと満足できる仕事・良い仕事ができませんからね。

○ 今月の iPhone

先月は WorldCard mobile という名刺読み込みアプリを紹介しました。 今月は iPhone のカメラを文書スキャナーにする JotNot Scanner をみつけました。

iPhone のカメラだけでも文書を手軽なメモとして保存できますが、 JotNot では写真のようにレシートを斜めから大ざっぱに撮影しただけでも、 台形の歪みをちゃんと四角に調整してくれたり、 画質を調整してくれたりするので、大変読みやすいメモとなります。 似たようなアプリは他にもいくつかあるようですね。

米国では早くも iPad が発売になり、 動画などで色々な情報が入ってきています。 画面も綺麗でサクサク動くようで、楽しみですね。 さて今月中にここでレポートできるのでしょうか。 まだ Apple Japan から予約受付のメールは届きません。

、、と思っていたら 「米国での予約を今月中には さばけない可能性、、 余りにも iPad が売れすぎたあおりで 米国外での発売を1ヶ月延期」のニュース。 日本では運が良くても手に入るのは5月末のようで 「5月半ばの Seagaia meeting は iPad で」は大きく期待はずれ。

○ 今月の歩術

数年にわたる独学、まったくの自己流による中国武術のトレーニングと、 自称「歩術」の試行錯誤から会得したこととして、 「腰で歩く」「腰がすべての中心なり」があります。

神田の書店で買ってきた「古武道の本」を読み始めたところですが、 合気術の天才・佐川幸義はこう述べているそうです 「力と言うものは本質的に『腰からの力』でなければならない」 「上半身の力はかわせるが、腰からくるものはかわしにくい」 「足腰のできていない人は肩の力に頼ってしまう。 柔らかい動きをする人はうまくなる可能性があるが、 力んでかたい人はもうそこでダメになる」。

「うーむ」まさに試行錯誤から会得してきたこと そのものズバリが述べられています。 何度か書いたように、後ろから追いついてくる足音に抜かれまいとする時、 力んでは駄目で、さらに全身の力を抜くことにより引き離すことができます。 最近の研究・鍛練課題である「脚でなく腰で歩く」 「電車の揺れを下肢の伸縮ではなく、股関節を柔軟にして吸収」 などとピタリ一致します。

剣豪・宮本武蔵が述べています「人を斬るのに色々のやり方がある と思うのがそもそもの間違い。武芸の心得があろうがなかろうが、 人を斬ろうとすれば、打つ、叩く、切る、と言ったやり方しかないのだ」 「姿勢も心もまっすぐに保ち、敵がねじれ、ゆがみ、心がゆるんだところにつけ込んで勝つ」。 中国武術の達人も言います「色々な技を学んでも 実戦では技など関係ない。ガ~ンと一発やればおしまいだ」。

達人たちは、極めて簡単に述べています。しかし、このまま鵜呑みにしては大間違い。 中国武術の達人の言葉に隠れていますが、シンプルな技で相手に勝つには、 長年のたゆまぬトレーニングがなければ絶対不可能なことと思います。

○ 春というのに

異常気象は最近珍しいものではありませんが、 それにしても今年は目立ちますね。もう4月半ばを過ぎたというのに、 今朝起きてみると外気温2度。私の観測では2月の最低気温と同じ。 早朝、パラパラと窓を打つ音。外を覗いてみると、ミゾレのようです。

農作物もかなりのダメージのようで、野菜の値上がりが報道されています。 これに対し政府は「出荷を早めるよう」「規格外のものも出荷するよう」 求めているとか。規格外、つまりねじれた大根や、ひねたキュウリなど の出荷は元々大歓迎ですが、出荷を早めるという発想は何なんでしょうか。

「出荷を早めることによって、とりあえず出荷量を増やし価格を安定させる」 ということのようですが、じゃあ「早められて穴のあいた次の時期には 何もなくなるじゃない」。もしかして私の理解が間違っているのかな とも思いましたが、その後、農家の生産者へのインタビューでも 「農作物は生き物だから、出荷を早めろと言われてもねえ」。 政府責任者の「とりあえず今だけしのげれば」という 浅はかな考えには、耳を疑ってしまいます。

○ 行政ももっとしっかりして

この浅はかさが、ここ数ヶ月医療行政にもモロに響いており、 現場に無駄な労力と資金のロスを大きく背負わせています。 一例を挙げれば、この4月から(レセプト手書き以外の医療機関では) 医療行為の内容を細かく記述した診療明細書の 発行を義務づけました。もちろん、診療内容の透明性をあげるということで、 悪いことではないのですが、強制的・一律実施に大きな問題があります。 希望される方だけでよいのに、、

本当に明細書を必要な人はそう多くはないはずですが、 エコや省エネが叫ばれる時代にあって、 この4月から毎日全国で吐き出される「A4の紙くず」たるや 膨大な量になるはず。それに伴い医療機関の立場としては、 その説明に要する時間や人件費など、膨大な経費負担がかかってきます。 しかし保険医療は政府による「統制経済」で、 診療報酬にその事務手数料はまったく載せられていません。

ついでに、もう一例を挙げれば、昨年の新型インフルエンザ。 政府の対策は二転三転して医療機関をとまどわせましたが、 これは突然の新事態でしたのである程度仕方がないでしょう。 しかし、後に残したツケの始末をしようとしません。

発生がピークに向かっている時、 政府はワクチンの流通を統制しました。 そのため医療機関ではそれぞれの必要性に応じたワクチンの用意ができません。 したがって国から配給されるワクチン量は、 殺到する接種希望に応ずべく どうしても多めになります。 ところが年を越すとともに、あっという間に鎮静し 後にはワクチンの山、これまた膨大なコストになるのですが、 政府はその引き取りを頑として拒否しており、 すべては医療機関の損金となります。小泉政権以来の 度重なる医療費削減により疲弊し、 正常な医療の存続も危ぶまれているというのにです。

「経営悪化し徹底的に人員削減や経費削減をした 航空会社の飛行機には乗りたくないな」 と前々から思っているのですが、今の医療機関もまさにそれ。 つぶれかけた航空会社は国費をもって救済されますが、 きっと医療なんて多少危険でも責任は皆 医者にかぶせればよいと思っているのかも、、

そんなことを書いていたら、鳩山首相が米ワシントン・ポストに 「哀れでますます愚かな日本の首相」と書かれたことについて、 自民党谷垣総裁から見解をただされ 「ワシントン・ポストの言われるように、確かに私は愚かな首相かも知れません」 と切り出したとか、オイオイ、辞めなくていいの、、

春の異常気象から、グチへ移行してしまいました。

○ 日本医師会 会長選挙

唐澤日医会長が3期目を目指して立候補され、 地元で唐澤先生を支える東京都医師会役員は一丸となって全国の代議員の方々をまわり、 ご理解を得るよう努めました。今回は、茨城から民主党との太いパイプをウリにする原中先生、 京都から森、金丸先生と、合計4名が立候補。従来のキャビネット選挙への批判に応え キャビネット制を廃したため、副会長定数3名のところ8名、 常任理事定数10名のところ19名と候補者が乱立しました。 従来は選挙にあたり各ブロックごと意見をまとめていましたが、 今回は多くの地区で代議員夫々の意思に任せた投票となったようです。

4月1日に日本医師会館で選挙実施。 会員500名あたり1名の割合で 各都道府県から選出された357名の代議員の投票により選挙が行われます。 まず会長選挙から。固唾を呑んで見守る中、結果が発表されました。 原中先生が131票で当選。森先生118票、唐澤先生107票でした。 唐澤先生を支えるべく頑張った都医役員としては、 予想外の結果に皆がっかり。昼食の会場はひっそりと誰もしゃべるものがおらず、まるで お通夜のようでした。オバマ大統領のチェンジに始まり、 昨年の民主党政権誕生など、 代議員の中に「何か変えてみたい」という意思が強く働いたのだろうと思います。

キャビネット制を廃したため、 副会長、常任理事には唐澤執行部の役員がかなり入りました。 予想外に低い得票数や高い得票数に、会場からは「ほおーっ」という驚きの声も。 候補者について、よく知らないままの投票もかなりあったように思います。 新聞の報道では対立候補の推薦する副会長、常任理事が当選したため、 原中会長はやりにくいだろうとの報道が多く見られました。 しかし2日目の事業計画・予算の代議員会では、 副会長・常任理事とも新しい会長を支えるべく、 和をもってやって行こうという雰囲気が強く感じられ 「唐澤先生の DNA が残って良かったな」というのが、 私の感想です。

この1ヶ月間、日医会長選挙のため NOA の開発も余り進みませんでしたが、 これで再び本腰を入れることができそうです。

○ 今月の NOA

電子カルテ NOA は「ユーザごと専用レイアウト」 を設定できるのが特徴のひとつです。 そして医療のプロたるドクターの使う「カルテ」は 冒頭で述べたように 「自分専用であるべき」と思うものです。もちろん、 お仕着せの道具で そつなく仕事をこなす人もあるでしょうが、、

NOA へログインすると、 そのユーザ専用のレイアウト・使い勝手の電子カルテが立ち上がります。 従来の NOA ではレイアウトをファイルとして保存していましたが、 今度は DB に保存し、レイアウト編集ツール NOADesigner も作り直しました。使い勝手は まだやや玄人好みではありますが、以前よりは「誰でも使える」 に近づいたのではないかと思います。 この仕様変更が意外に広範な影響を及ぼし、 改修工事は予想外の大工事となりました。

それもようやく一段落、 さて新バージョンをリリースしようとした矢先、 診療報酬の改訂がありました。今回は点数改訂だけでなく、 アルゴリズムに関連する改訂があったため、 医事計算システムも改修を必要とします。 自分専用だった1年前なら改修もそこそこに、 点数マスターを手でシコシコと変更していました。 しかしオープンソースとして配布となると、 いくら「医事計算はあくまでも、おまけ」とは言っても そうも行きません。以前から「厚労省マスターを読み込めないか」 という要望もあり、思い切って「厚労省マスター読み込み機能」 も追加することにしました。やー、ここでまたしばし「泥沼との格闘」。

何とか、大改修を済ませたバージョンを 4月上旬リリースに漕ぎ着けました。泥沼との格闘や会長選で 前回リリースから2ヶ月ほども経ており、 あせって出したので今回のバージョンはバグの潜む可能性大、 ちょっとビクビクものです。

○ Web ブラウザーによる違い

「電子カルテは OS やハードウエアなど超越して使えるべき」というのが、 NOA 開発コンセプトのひとつ。 その実現のため Web アプリケーションへと大変針したわけですが、 Web ブラウザーにより微妙な違いがあります。

Google Chrome はサクサク動き快適ですが、幾つか問題が、、 Safari では comand + option + E で「キャッシュをクリア」できますが、Chrome では初期設定パネルの奥の奥にあり、 キー・バインドが用意されていません。 FireFox も似たようなもの。最近のブラウザーは動作をきびきびさせるため、 一旦表示した画面はキャッシュに記憶、 サーバへ再度取りに行くことをしません。 ソースを書直し再表示しようとすると 「ブラウザーが以前の画面を掴んでいて、変更が反映されない」ことがよくあります。 Safari ならキーを叩くだけで変更を反映できるのに、、

次は NOA の使い勝手にかかわる 「ポップアップメニューの挙動」。Safari や FireFox では、 ポップアップメニューのクリックで命令を発行できます。 Chrome ではメニュー内容の変更時のみしか受け付けません。そこで ポップアップメニューに空白を表示しておき、 他の項目を選択して はじめてトリガーが引かれるようにしました。 これで一動作余計になってしまいます。

処方箋などは PDF 出力、それを印刷して患者さんへ交付します。 Safari では(プラグインにより)PDF が表示され、 ただちにプリントできます。 FireFox も似たようなもの。ただ、解像度が微妙に違うため、 印刷サイズが違ってしまいます。Google Chrome では 一旦ダウンロードするなどの一手間が入り、とても使いにくい。 ただしこれは Chrome のプラグインの工夫で改善されるのかも、、 と思って Web 上を探していますが、現在のところ解決されません。

周辺ツールなどを補助ウインドーとして開く場合があります。 Safari では以前開いた補助ウインドーがメインウインドーの裏に隠れていても、 ちゃんと前面に現われてくれます。しかし FireFox や Chrome では裏に隠れたまま。 ボタンを何度たたいても 補助ウインドーが現われず「あれえ~」と思ってしまうことが、、

電車に乗っていて思いつきました「回避する方法があるはず」と。 帰宅して早速 Web で検索。 開いたウインドーに focus() メソッドを与えることで いつも前面に表示されるようになりました。 Safari では黙っていてもやってくれるので気がつきませんでした。 これで「めでたし、めでたし」と思ったのも束の間 FireFox では解決されても Google Chrome は駄目のようです。

処方箋などのプリントが実用的でないということで、 現状では Google Chrome で診療するところまで行きません。 Google のこと、いずれ解消されるでしょう。 FierFox はほぼ問題なさそうですが、 今のところ NOA は Safari で使うのが一番快適です。 「Safari が優れたユーザ・エクスペリエンスを提供している」ということでしょう。 どのブラウザーでも Flash なら同じ挙動と思いますが、 Flash はどうもいまいちピンと来ない。何故かと聞かれても うまく答えられません 「ちょっとなあ」と、、 そう思っていたら「 iPad では( iPhone も)Flash を搭載しない」 というのが Apple 社の方針のようです。「HTML-5 で Flash の機能を代替できる」 「Flash はもうレガシーな技術」というのが Jobs の言葉。こんなところでも Jobs と共通の感性があるのかなと、、

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