2001.02 MacOS X に住みよいきざし

わーくすてーしょんのあるくらし (38)

2001-02 大橋克洋

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MacOS X public beta(以後 OS X と略)で過ごすようになって2ヵ 月近くになり大分慣れてきました。私が Classic 環境をほとんど使 わないことや、後で述べるように最近は標準のファインダーを使わ なくなったせいもあって、おかしな挙動に悩まされることもなく OPENSTEP の頃と同様 OS X は大変安定して動いています。 PowerMac G3 にインストールしたものを持ち歩いていますが、デ ユアルバッテリーにすると6時間はもつのでとても便利です。

PHS カードをさして Classic 環境で立ち上げれば、Web もE-mai l も PowerBook 単体で使えるという快適な環境を、ようやく私も享 受できるようになりました。この原稿が載るころはもう年が明けて いるはずですが、2001年はワイヤレスの時代になってくるので はないかと思っています。 以前、これからは液晶デイスプレイの時代と書きましたが、これ については価格などの問題でまだ完全とは言えないものの、かなり普 及してきたと言えるでしょう。

2001年はパソコンだけでなく、Palm などの携帯文具や、もち ろん電話も含め、かなりワイヤレス環境が一般化するであろうと思 っています。

○ MacOS 立上後に外部デイスプレー接続時の問題

まず先月号のフォローです。Windows マシーンなら途中から外部 デイスプレーを接続してもそのまま表示できますが、Mac では立ち 上げ時に外部デイスプレーを認識する仕様なので、必ず一旦電源を 落しプロジェクターを接続してから電源を上げねばなりません。こ れが大変不便なので、何とか対応して欲しいと先月書きました。 これを NeXus(MacOS X のユーザ会)で話したところ、メンバーの 一人が、早速仕掛けを作って送ってくれました。小さなソケット状 のもので、それを PowerBook の外部デイスプレーの口に接続して電 源を立ち上げると、Mac は外部デイスプレーが繋がっていると思っ て立ち上がります。

そのまま、デモの準備などいろいろな操作をスタンドアローンで やっておいて、必要な時にそのソケットを外して外部デイスプレー ケーブルを繋いでやればよいのです。 XGA 以外の解像度では画面が乱れるなど、多少の問題はあります が、これでデモの時は大部楽になりそうです。感謝、感謝。 考えてみると、要するに立ち上げ時に外部デイスプレーの信号線 を接続されているようにダマしてやるだけなので、Windows と同様 に立ち上がった後で切り替えることは難しくないようにも思えるの ですが、どうなのでしょうか。

現状での問題点はいくつかあります。外部デイスプレイのコネク ターを抜き差ししたら、絶対にノートブックの蓋を閉めないこと。 スリーブに入った後はキーボードが死んでしまい、キーを受け付け なくなります。マウスは大丈夫ですが。 もうひとつ、外部デイスプレイをメイン画面の設定としたまま電 源を落すと、それが記憶されています。次に立ち上げる時にこのダ ミーのコネクターを繋いで立ち上げると、メイン画面がダミーの方 へ行ったまま立ち上がるので、ノートブックの方では何も見えず設 定操作ができません。これらはデモの際、結構不便です。

OS X でも手元の画面と外部デイスプレーの画面に同じものを 表示する「ミラーリング」が実装されれば言うことなしなのですが 。これは MacOS や MacOS X Server では実装されていたので、正式 リリースに期待することにしましょう。

○ ファインダーあれこれ

OS X のファインダーには大分慣れてきましたが、それでも不便な ことは結構あります。いっそのこと OPENSTEP の頃のような便利な ものを自分で作ってしまおうかとも思っていたのですが、誰も同じ ようなことを考えるようです。OS X の ML のメンバーでも二人くら いの方が自作のファイダーを作って公開しました。 同様のもので RBrowser というのがあることを知りました。米国 のサイトへ行って Web で落してきました。おー、これは見掛けは MacOS X Server のものに近いですが、OPENSTEP時代の shelf 機能 がついています。使ってみるとかなりのもので、私の不満はほぼ解 消されました。OPENSTEP の時代から存在し、開発が進められてきた もののようです。道理でこなれているはずだ。

shelf はファインダーの上の方にある余白スペースとして実現さ れています。ここにファイルのアイコンを置くことができます。従 来からのMacOS のデスクトップに置くのと同じようなものですが、 OS X ではデスクトップに置くと実体が移動してしまうことがあ ったりして、気楽に使えないのが不便でした。 得に不便なのはファイルのコピーです。このようなことで OS X では、ファインダーを二つ開いて片方のファイルをもう片方の ファインダー中のフォルダーへコピーしたりしていました。今度は shelf が復活したので、コピーしたいファイルを shelf 上に 一時的に置いておいて、コピー先のフォルダーへ落すことができる ようになりました。

いつも使うファイルやアプリケーションのアイコンを shelf に置 いておけば、それをダブルクリックして起動できますので、アプリ のランチャーとして使えるのも便利です。この辺はデスクトップに 置くのと余り変わりはないのですが、私は複数のウインドーを開い て作業することが多く、デスクトップ上に置くと、いちいちウイン ドーをどけて探さねばならず、shelf の方がありがたいです。 RBrowser を使うようになって思うのですが、OS X のファインダ ーのおかしな挙動は、旧来の MacOS で使われる Carbon 環境と、新 しい Cocoa 環境の両方をシームレスに面倒みようという涙ぐまし い努力の副作用だということがわかりました。

RBrowser は Classic 環境の面倒をほとんど見ませんので、私のよ うに Cocoa 環境だけで使っている分にはとても安定していて使い やすいです。むしろ割り切って、Carbon は Carbon のファインダー 、Cocoa は Cocoa のファインダーと使い分ける方が無理がないよう にも思いました。

○ そろそろ手に入りはじめた MacOS X 用ソフトウエア

従来から MacOS で人気のある Jedit が Carbon 化されて、OSX でも動くようになったとのことで、早速 Web で落してきました。 カスタマイズの巾もかなりあるようで、Emacs キーマッピングや シンプルな外見など私好みに設定して使ってみています。 ここ10年ほど NeXT や OPENSTEP ばかり使ってきて、商品版ソ フトウエアのほとんどない世界に(否応なしに)慣れていたのですが 、私の住む世界もそろそろ便利な商品版も使える時代に入ってきた ことを肌に感じます。 まだ OS X では周辺機器のドライバーがほとんどないので、いろ いろな周辺機器を接続できないのが不便ですが、もう一年もすると これも解消されてきて、一般の人々も大分住みやすくなるのでしょ う。

Mac のデベロッパーの中にはかなり旧来のものに固執する人が 多いように感じていましたが、最近開かれた Mac の開発者の 勉強会に NeXus のメンバーが数人呼ばれてプログラミングの話 をしてきたそうです。その結果、かなりの方に Cocoa による プログラミングがはるかに少ない労力でより高い機能のアプリケーション を実現できることを理解してもらい、これからは Cocoa の開発 環境を使ってみようという雰囲気があったそうです。

これは大変よい傾向で、完全な Object 指向開発環境として 長い歴史をもつ Cocoa 環境でのプログラミングが増えてくれば、 質の高いソフトウエアがどんどん増えてくるでしょう。 多いに楽しみにしたいところです。

○ 医療の IT 化へそなえて

本日の朝刊に、ある病院でコンピュータによる投薬指示を出した ところ、副腎皮質ホルモンのサクシゾンを指示するところを誤って 筋弛緩剤のサクシンを選択指示してしまい、指示を受けた看護婦も おかしいと思いつつそのまま打ったため患者が呼吸停止を起こし、 数日後死亡したとの記事がありました。 大変怖いことですね。ペンで紙に書く場合は、それなりのフィー ドバックが頭へあるのですが、マウスやキーでの選択の場合はそれ が少なく、さらに画面での確認も頭へのフィードバックが弱いため と思います。

このように使い方により危険を伴う薬剤は、選択した時に何度か 警告を発するようにすべきと思いますが、有効な警告を出すことは 結構難しいと思います。サクシンのように明らかに危険なものはま だ警告を出しやすいですが、病状によってあるいは個体差により危 険のあるものなどの警告はとても出しにくいものです。 とりあえずそのようなものは一律に警告を発するというのも手で すが、「狼と少年」のように余り警告を頻発すると、まったく意味 をなさなくなるのも怖いことです。

「人間はそもそも間違いをするものである」ということが、まず 前提になければならないと思います。コンピュータ以前の問題とし て、サクシンとサクシゾンのようにまったく違う効能のものに似た 名前がつくこと自体、前々から問題と思っていたところです。たと えば危険な薬剤には頭に「危」をつけるとか、まず名称だけで脳へ 警告を送っておくことも大変重要ではないでしょうか。 このあたりが電子カルテ実用化において、ひとひねり工夫を要す るところでしょう。

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