電子カルテのモジュール化

2-F-4-1 電子カルテ / 一般口演セッション: 電子カルテ(4)

○大橋克洋 大橋産科婦人科

抄録:

Module structure of Electronic Health Record System

Katsuhiro Ohashi

Ohashi Obst/Gyne Clinic

Abstract: Medical treatment is very complicated, it is irrational that everyone uses the same electronic Karte, and it is not comfortable. Everyone has to be able to use it of his favorite layout or user-friendliness.

However, if a part of those functions are taken by one side, there are many common portions, and there is also big futility in developing the same thing in various places.

As for the software which constitutes Electronic Karte 'NOA', the database layer, the logic layer, and the user interface layer serve as rough combination. A logic layer is the server group of the settled processing, plug in, etc.It consists of parts.

Keywords: electronic health record, module structure, network, WINE, NOA

1. はじめに

医療の現場は極めて複雑多岐で、誰もが同じ電子カルテを使うことは不合理であり、快適な作業環境を与えない。誰もが自分の好みのレイアウト・使い勝手の電子カルテを使え、かつ完全なデータ互換が理想である。しかし一方でそれらの機能の一部をとってみれば共通部分は沢山あり、同じようなものを色々なところで開発することには大きな無駄もある。

従って電子カルテをパーツに分けレゴブロックのように組み合わせられれば、少ないコストで理想的な道具を手に入れることができる。同じ目的でありながら異なるアイデアのパーツがあってよい。

また大勢のユーザが使用することにより細かいバグもとれ、新しいアイデアが盛り込まれるチャンスも増える。このように大勢でシェアし磨きあげることにより、それらのパーツを良質で優れたものへと速やかに進化させる大きなメリットもある。

ネットワークによるグローバルな時代に入り、重要なことはいろいろなリソースを大勢でシェアし皆で磨き上げることにある。と同時にその中で個性を保つことも必要であろう。

2. いろいろな角度からの部品化

電子カルテWINEの開発をはじめたのは1985年1)で、その後WINE Project として高橋究らとの共同研究となった。WINE Project から生まれた電子カルテNOA2)3)は、このようなコンセプトのもとに色々な角度からモジュール(部品)化をはかってきた。

2.1 プログラムの3層構造

電子カルテNOA を構成するソフトウエアは、データベース層、ロジック層、ユーザインタフェース層が粗結合となっており(図1)、ネットワーク上に分散して機能する。それぞれが独立しているので、それらの一部を別のパーツと簡単にすげかることができ、パーツが独立しているため開発効率も高い。

2.2 汎用データベース・サーバの利用

データを蓄積・管理する部分として、データベースはOpenBase を使っているが、世界で広く使われているOracleなどにすげ替えることもできる。

2.3 ロジック部分の部品化

処理の一部をネットワーク上のまったく別のサーバに任せる。病院の検査部門や給食部門を外注に委託するアウトソーシングと同じようなものと考えればよい。例えば現状では医事計算を自前の計算サーバで行っているが、いずれORCA を計算サーバとしてすげかえる予定である。このように、柔軟性、メンテナンス性、経済性が飛躍的に高まる。

2.4 ユーザインタフェースの部品化

電子カルテNOAの基本インタフェースは特定の診療科に依存しない。この基本インタフェースの中に必要な機能を組み込み、色々な診療科に特化したシステムを組み上げることができる(図2)。自動車にオーデイオやランプ類をオプションで組み込むようなものであるが、ユーザが現場で極めて容易に組み込んだり外したりできる。

2.5 データの標準化

このように電子カルテのレイアウトや使い勝手はまったく自由なものを使えるべきであるが、他の電子カルテとの間でデータ互換性がなくては使い物にならない。

外部との通信にはMML(Medical Markup Language)4)や医事計算サーバとの通信にMMLのモジュールであるCLAIM(Clinica l Accounting InforMation)を用いることにより、高いデータ互換性を実現する。

3. 将来へ向けて

ここで必要となるのは、モジュール同士を接続するためのプロトコルである。世の中でなるべく広く使われているものを使うべきであり、XML のようなものを介して接続し、XML 上でやりとりするメッセージも極力少ないものに絞り込むべきと考えている。現状ではNOA はMacOS X 上でObject をやりとりしているが、更に普遍的なものへの移行を模索している。

こような考えを実用化している例がWeb browser である。それ自体は動画や音声などを扱う機能を持たなくても、まったく別のプラグインがそれを肩代わりしているため、あたかもbrowser が処理しているように見える。

電子カルテに組み込んで利用するいろいろなツール(文書作成、処方箋発行などいろいろある)を標準化された接続方法でOS の種類を問わず、どの電子カルテにも組み込める仕組みができ、これらのツールを皆でシェアできるような世界がくれば理想と考える。

参考文献

[1] 大橋克洋、UNIX による診療所統合情報システム、医療情報学、5:142、1985.

[2] 大橋克洋、電子カルテNOA、http://www.ocean.shinagawa.tokyo.jp/

[3] 大橋克洋、電子カルテが診療を変える、電子カルテってどんなもの?、p.31,p.222、2002.

[4] MedXML コンソーシアム、MML CLAIM、http://www.medxml.net/

図1 プログラムの3層構造

図2 電子カルテシステムをプラグイン、処理サーバ、DBなどのモジュールで構成

第22回医療情報学連合大会 22th JCMI (Nov., 2002) / 医療情報学 22 (Suppl.), 2002 / pp. 388-389