2006.09 シンプルなものは頑丈だ

わーくすてーしょんのあるくらし ( 163 )

2006-9 大橋克洋

7月のコラムで「腰で歩くことを会得した」と書きました。 これは「歩術」の中核となる重要なポイントであることを再認識しています。 まったく別の角度から表現してみましょう。 「重心バランスを全身に分散させ」「全身のパーツを使って歩く」です。 普通人間が歩くとき、 どうしても身体の一部を動かそうとしてしまいます。 「かかと」「ふくらはぎ」や「ふともも」などが最たるものでしょう。 そうすると長時間歩いた後、それらがとても痛んだり強ばったりしますね。

ところが、全身のパーツを使った運動では、 いくら長時間運動してもそのようなことが極めて少ないのです。 これは昨年、横浜の「みなとみらい」から自宅まで 20km を歩いた翌日、 不思議なことに身体のどこにも痛みや疲れがなかったことから、よくわかります。

「重心のバランスを全身に分散させて」「常に安定した状態を保つようこころがけ」 「全身のパーツを使おう」と意識すると、 身体の一部に局所的な力が入ることが少なくなります。 したがって自然にとても柔軟な身体になるのです (柔らかい餅を複雑な形状の物の上に置くと、 重量が分散され自然とその形状に馴染んでしまいます)。

これは武術でも基本だろうと思います。 おそらく武術だけでなく「人生における基本的な心構え」でもあるべきなのでしょう (人生への応用については、まだ修行も検証も足りません)。 ここで、「全身のパーツを使う」と言っておきながら、 「腰で歩く」というのは矛盾しますね。うん、確かに、、 そこで自問してみました。 そうか、全身のパーツを使うようにしているのですが、 歩きの場合、その中核となるのが「腰」ということのようです。

○ 腰で歩く

「腰で歩く」について今さらながらですが、 いわゆる「ナンバ歩き」の本質の一部を、先月やっと会得したようです (日々進歩しており、あくまでも現時点で会得したものですが、、)。 体感しやすいのが階段の登りです。 「登る時に左右の膝に左右の掌を当てて登ってみると、 ナンバの歩きがわかりやすい」と書物にあります。 これはわかるものの、今イチ、ナンバ歩きのコツがつかめませんでした。

すでに会得したひとつに、 「階段を登る時は上半身を前傾し、階段を踏むと同時にその足に重心を乗せる」 「前傾したまま、上下動のリズムなく、 すーっと登る」というのがあります。これにより、 かなり早くスムースに階段を上がれるのですが、 疲れているとこれでもキツいのです。 先月、右足で階段を踏みしめる時は右肩がその上に乗るように、 左足を踏みしめる時は左肩が乗るような気持ちで登ってみました。 「これだ!!」疲れていても、階段の登りが随分楽になります。

別の表現をしてみましょう。 油絵のキャンバスを張る「口の字をした木の枠」を考えてください。 上左右の角が両肩、下左右の角を両足と考えます。 普通の人は口の字を捻りながら歩くので左右垂直方向の木枠が 相互に反対方向へ傾きます。 ナンバ歩きでは、左右垂直方向の木枠がほぼ垂直のまま、 つまり右肩と右足、左肩と左足が前に出るのです。 ただし「このような気持ちで歩く」ということであって、 見てわかるほどの変化はなくて構いません。

三船敏郎の演じた侍「椿三十郎」などの歩き方ですね。 坂道でなくこれで平地を歩いてみると、 まさに「腰で歩く」になります。 さて、現在の私の歩き方は「椿三十郎」でしょうか。 そこまで明らかな歩き方ではないと、自分では思っているのですが、、 少なくとも手の振れは自然に任せていますが、 従来通り足と反対方向に振れています(現在のところどうしても、 こうなってしまいます)。

○ 側対歩

考えてみると私の場合ナンバ歩きを知る前から、 その動きはよく知っているのでした。 私は学生時代「馬術」に入れ込んでいまして、 慈恵医大卒業ではなく、慈恵医大馬術部卒業と思っています。 その馬の歩き方に「側対歩(そくたいほ)」というものがあります。

これは、戦国時代の軍馬などの歩き方です。 右の前肢と後肢、左の前肢と後肢が同じ動きをするものです(普通は 現代人の歩きと同様、同側ではなく交差した足の動きですよね)。 「甲冑に身を固めた武士が乗る軍馬は、 重さを背負って動き回るため、自然とそういう歩き方になる」 と、ものの本にありました。

馬術をやっている時、馬が自然と側対歩をとってしまうことがあるのですが、 西洋馬術ではそれを嫌います。馬場馬術競技などでは、明らかな減点対象となります。 しかし重量物を背負って歩くには、合理的な動きということなのですね。 私が MacBook の入った比較的重いスーツケースを 片手にさげて毎日通勤するため、 ナンバ歩き(このネーミングを私は好きでありません) は合理的な歩きとも言えるのでしょう。

ただし、これも多少矛盾したことになるかも知れませんが、 全ての歩きにおいて側対歩がベストという訳ではありません。 「体重を任せる位置はケースバイケースである」 というのが現時点での私の感覚です。 考えるに、動きのベクトルによって それらは異なるのだと思います。

○ なぜナンバ歩きの方が楽なのか

階段を登る話がわかりやすいので、そちらに話を戻しましょう。 通常の登り方では、体重をわずかでも後肢に残したまま前肢を出します。 その後「体重を前肢に移動」するわけですね。 この2番目の動作が余計な負担となるのだと思います。 最初から前肢へ完全に体重を移しておけば、 後の動作が不要なので疲れも少ないのではないかと思います。

考えてみると「ナンバ歩き」が合理的なのは、 そのように不要な動作をショートカットしていくからでしょう。 最近の「健康ウオーキング」などの説明を見ると、 (ナントカのひとつ覚えのように)同じ説明、同じ絵です。 「つま先で元気よく蹴り、カカトから着きましょう。肘を曲げて元気よく振る。呼吸は手足の動きと同調して一定のリズムで」。

前にも書いたように、これは「ブレーキとアクセルを交互に踏む」 非常に効率の悪い歩き方です。 エネルギーを消耗するには結構な歩き方とは思いますが、 利点はただそれだけです。 車でもブレーキとアクセルを交互に踏んで走っていたら、 燃費が最悪だけでなく、間違いなく車の傷みは早くなります。 同様に、このような無理な歩き方で 「膝や踵その他の関節を痛める可能性が高い」ことも間違いありません。 おそらく中高年の方で、これで身体を傷めた方は結構いるのではないかと想像します。 誰が提唱しはじめたのか知りませんが、 「ちょっと、これは違うんじゃないの?」という人がいないのを、 とても不思議に思っています。

いわゆるナンバ歩きでは、 このように「前え後ろ、前え後ろ」と区切った動きではなく、 単に前へ進むスムースな動きです。 したがって、無理に手を振って補助する必要はありませんし、 呼吸も通常の平静な呼吸となります。 水が前に流れるのも、ボールが前に転がるのも、 つま先で蹴っているわけではありませんよね。 ナンバ歩きもまったく同じです。単に身体が前に進んでゆくだけですから、 呼吸が荒くなることもないわけです。 面白いのは、ベンチプレスのように重量物を挙げる時、 従来は呼吸を止めて力んでいましたが、ナンバの要領で 普通の呼吸をしながら挙げるようにしてみると、 こちらの方が疲れも少ないようです。

○ 歩き方で履物にも大きな違いが、、

そうそう、いわゆる「健康ウオーキング」と、 いわゆる「ナンバ歩き」では靴も大きく違います。 前者は当然のことながら踵などへの強い衝撃を受けますので、 踵の厚い靴が必須になります。 しかし後者では、なまじ踵の厚い靴はかえって邪魔かも知れません。 まあ、私は普通の靴で歩いてはいますが、 足裏全体で重量を受け止め、 しかもあまり強い衝撃を受けないので平底の靴で十分です。

このように「重装備の靴を必要とする」というところからも、 現代の歩きがいかに「エネルギーを無駄にする」「非効率な歩き方」か わかりますね。重戦車と自転車の違いまではいかないんでしょうけれど。

それで思い当たりました「なーるほどね、だからインディアンのモカシンの靴とか、 ワラジや草履なんだ。 ブルースリーなど中国武術家の履いている靴も平底だよな」と、、 逆を言えば、昔はそのような履物しかなかったので、 いわゆる健康ウオーキング的な「エネルギーを無駄に使う歩きはできなかった」 とも言えるのでしょう。 「ナンバ歩きってどういうの?」と、わからない人は、 踵のない平底の履物で町中を歩いてみるのが、 感じを掴むには一番早いのかも知れません。

余談ですが、馬術では長靴(ちょうか)を履きます。 長靴で颯爽と歩くには、まさに西洋的歩き方です。 膝と背中をすっと伸ばし、踵で「カッ、カッ、カッ」と歩くのです。 ナチスドイツの将校みたいにですね。 われわれ馬術部時代には、長靴で歩く姿を見ただけで「あいつはデキるな」 とか「あいつは大したことがないな」とか、馬術の年季がわかったものです。 馬術の巧い人間は長靴姿もキマっていますが、 膝を曲げ腰を落として歩くようではサマになりません(そんなことで、 街なかで若い女の子が膝を曲げて歩く長靴姿を見ると、 「あれま、、折角の長靴姿がだいなしだわ」と、つい思ってしまうのです)。

○ うっ やられた、iMac 24インチがでちまった

先月 iMac 20インチを買ったばかりなのに、 24インチが発表されてしまいました。 うーむ、世の中ではよくあることですが、 私は比較的このようなタイミングが少なかったのに、、 ちょっと残念。 そろそろ出る周期だったのかな。

Windoz と違って めちゃ美しい Mac では、 画面に関して「大きいことは良いことだ」ですからね。 CPU 速度も 1.83GHz から 2.33GHz へ上がったようです。

さらに Apple 社は、記者やアナリスト向けに Apple のプレスイベント 「Special Event」の招待状を発送しているそうです。 今月12日にそれが発表されるようですが、 「It's Showtime」という言葉が添えられていることから、 「Steve Jobs がハリウッドへ向かっていることを匂わせる」 というコメントがありました。 Movie を表示できる iPod 関連の発表ではないかと推測されています。

○ iPod に加わった新たな展開

さて12日(日本時間13日朝)となり、 プレスイベントの結果は ほぼ予想されていた内容のようでした。 iTunes7 で、新たに「iPod で視聴できる DVD に近い品質の映画」 が購入可能になるに伴い、 iTunes Music Store (iTMS) も iTunes Store (iTS) に名称変更になりました。 残念ながら日本ではまだ映画は発売されないようですが、 これは楽しみです。

Pixer を買収した Disney の映画を主体として、まず提供されるようです。 売れるでしょうねえ、、 これでますます映画館に足を運ぶ人が少なくなるということはあるのでしょうが、 逆に映画館の起死回生をはかれる可能性もあるかも知れません。

つまり DVD でダウンロードできる映画は「サブセット版」としておき、 「映画館に行くと、この映像をもっと迫力のある画面・音響で、 フルスペックの映画を見られる」という、 つまり映画のプロモーション・ビデオのような使い方です。 これにより、映画館における Disney 映画の視聴率がグンと伸びれば、 他の映画会社も iTS へ追従するという 嬉しい効果になるはずです。ぜひやって欲しいですね。

新しい iPod nano は以前の iPod mini と同様、筐体がアルミニュームになってカラー版をそろえてきましたね。 カラーの iPod は女性にかなり人気があったので、 これは販売促進効果を上げることになるでしょう。 白いプラスチックの iPod nano も清楚でよかったので、これがなくなったのは残念な気もします。

私が歩行時に愛用している iPod shuffle は上の写真のように さらに小さくなり形状が変わって、大分印象が変わりました。 どこかに簡単に止められるクリップがついているのは良いですね。 あとは、いつも悩みのイヤホーンのコードが何とかなれば 言う事なし。こいつの取り回しがいつもやっかいです。

iPod で使えるゲームが日本でもダウンロードできるようになりましたが、 これについて私は余り興味ありません(だって、 本当に面白いゲームって滅多にないんだもの)。 来年発売予定の iTV は良いかもね。 映画や楽曲を無線で飛ばし、テレビで視聴可能にするための 弁当箱程度の大きさの装置のようです。 これは、きっと出たら買うことになるのでしょう。

話は飛びますが、TVのデジタル化に備え数ヶ月前、 うちのケーブルテレビの受像装置をデジタル対応にしました。 画像が良くなったのと引き換えに、 TV の映像を録画できなくなってしまったのはとても痛いです。 一度は録画できるようなのですが、 私の書斎の装置には HD がついていません。 DVD に直接録画はできないのだそうです。 こんなことをしていれば iTunes のビデオストアがますます栄えることになりますね。

○ カラシニコフ、ビートルそしてスーパーカブ

2004年11月のコラムで、 紛争国で膨大な量が使われている ロシア製の機関銃カラシニコフ AK47 について書きました。 AK47 の設計者カラシニコフは、 ナチスドイツから自国を守りたいという願いでそれを作ったそうです。

奇しくもビートル(フォルクスワーゲン)は、 ヒットラーの構想で生まれた製品です。 ビートルが過去最大の販売数と寿命を記録したのは、 カラシニコフ突撃銃と同様 「構造が極めてシンプルで、壊れにくい」ということです。 私の弟からビートルを借りて乗り回したことがあります。 タイヤは細くエンジンはバタバタやかましいですが、 東名高速で加速がついてしまえば、 ウソのように快適に走るのに「さすがポルシェの創った車」と感激しました。 今でも「ビートルなら欲しい」です。

ディスカバリーチャンネル「世界のスーパーバイク」で、 ナンバー3に入ったのが HONDA スーパーカブでした。 どんな粗悪な油を入れても走ってくれ、頑丈ということです (足で踏みつぶした薬莢を入れても、発射するカラシニコフなみ)。 ビル3階から落とされたスーパーカブが、ひどく歪んだボディーにもかかわらず、 ちゃんとエンジンがかかり走り去っていきました。 つい最近でも「砂漠の耐久レースでスーパーカブ完走」のニュースがありました。

これは私がこだわる「シンプル・イズ・ベスト」 「シンプルなものは頑丈だ」を補強する事例です。 私の「電子カルテ NOA」ニュー・バージョン も、 「古典的だけれど、シンプルで頑丈」 「こんな昔のソフトウエアなのに、現在でも十分実用で使える」 ものとして遺せれるといいなと思っています。

○ PHP で遊んでみる

電子カルテ NOA のサーバの主要な部品である WebObjects 最新版と MacOSX の最新 OS との組み合わせが完全に機能しない部分があり、 ここ2年以上悩んでいます。現在はサーバのみ古い OS で動かしているのですが、 これを何とかしなければいけません。

トレーニングの効果が明らかになり頭の方も復活してきて、 プログラミングに本格的に取り組めそうな意欲もわいてきました。 そこでちょっと発想を転換してみようかと、PHP をいじってみることにしました。 たまたま、書店で MAMP という MacOSX 上で動く PHP と MySQL を使ったパッケージの解説書をみつけたのがきっかけです。

「PHP が現在の Web Application 開発の主流のようだ」 ということは知っていたのですが、 さてどんなものなんでしょう。これからまた少しずつ勉強してみたいと思います。

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広島市「縮景園」の庭園の片隅を流れる小川のせせらぎ