2005.02 マシーン・トラブルは伝染する?

わーくすてーしょんのあるくらし (89)

2005-2 大橋克洋

最近は今まで見慣れない「介護予防」という言葉が目につくようになりました。 これこそ私が今までの福祉行政を見ていて 「何かその他にも、もっとやるべきことことがあるのでは」 と考えてきたこと、そのものです。

自立できなくなってからそれを支えるのは良いのですが、 自然の仕組みとして そうなってからでは支えの必要性はどんどん増加していきます。 一旦寄りかかれば自立する力はどんどん減退してゆくのが、 自然の成り行きだからです。それよりも、 その前に「なるべく介護が必要にならないよう努力する」ことこそが大切で、 全体としてお金もかからないはずと考えてきました。 考えてみると、私自身がここ数年前から始めた「筋トレとダイエット」は、 まさに「介護予防」以外の何ものでもないことに思い当たりました。

「予防」ですから、 すでに介護が必要になってから始めたのでは全然手遅れです。 「なるべく早くから」そして「一生にわたって継続する」ことが大切なことです。

現在は「他人様にご迷惑をかけまい」と努力をして一生を終えた人には 何も還元されるものはありません。 これは極端なことを言えば逆差別と言えるかも知れません。 そうした人達に何らかの還元あるいは 社会的評価があれば、「悪循環」が減り「良循」が増えるはずです。 「正直者がばかをみる」ようなことをなくして行くことこそが、 良い社会を作るにはとても大切なことと思います。

さて、先月は久々のマシーン・トラブルについて書きました。 マシーン・トラブルが伝染するということはないのでしょうが、 往々にしてトラブルは連続して発生することがあるようです。 コンピュータ・システムにも介護予防が必要ですね。

○ またもや マシーン・トラブル

先月はインターネット・サーバのダウンで2週間ほど格闘した話を書きました。 ようやく復旧し、やれやれと思ったのも束の間、 今月初めのある朝、外来を開始しようと診療デスク上の端末を立ち上げようとしたところ、 いつまで経っても立ち上がりません。 強制終了して何度もやりなおしたのですが、どうしても立ち上がりません。

とにかく外来診療を始めなければなりません。 都医への通勤に持ち歩く PowerBook を急いで自宅からとってきて、 とりあえずこれで診療を始めました。 なにしろ電子カルテがないと、とてつもなく不便で仕事になりませんから。 PowerBook には電子カルテのクライアントをインストールしていなかったので、 ネット上で自宅のサーバからダウンロードしてインストールします。 電子カルテ・サーバの方は、 もともと自宅サーバ・マシーン上で動いていますので大丈夫です。

診療と並行して、外来のトラブったマシーンの手当もしなければなりません。 あるいはハードディスクの再構築をしているのかなと、 立ち上げ操作のまましばらく放置してみましたがそれでも駄目です。 この外来で使っているマシーンは、 2002年12月に「純白のクラゲ、液晶 iMac がやってきた」 と書いた「電気スタンド型」の iMac です。 実際に購入したのは2002年8月でしたので、 2年半ほど使ってきたことになります。

毎日使っているのですが、液晶もさして劣化せず 筐体も純白の美しい姿のままです。 普通、白いプラスチックは長年の間に空気中のススが 付着して部分的に黒くなったりするものですが、 おワン型の真っ白な筐体のプラスチックはススを寄せ付けない性質を 持っているようです。これも Jobs のこだわりは流石だな、と感心させられる一例です。

PowerBook にインストールした電子カルテ・クライアントは、 電子カルテ・サーバとバージョンが合っていないのか、 どうも動きに不都合がありますが、 幸いこの日は患者さんが少なかったので助かりました。 明日までには何とかしなければいけませんが、 まとまった時間がとれそうもないのでちょっと不安です。

外来終了とともに白いクラゲをかかえて自宅に帰り、 東京都医師会から帰り夕食後、 とりあえず OS を再インストールすることにします。 幸い別パーティションを切ってあったので、 そちらに OS をインストールし、 何度か電子カルテ・クライアントの調整を試みて、 ようやく翌朝の診療に間に合いました。やれやれです。 こちらも OS だけでなく開発環境や WebObjects の インストール、そしてそれらの network update を行いましたが、 先月のインターネット・サーバのように、 通信関係の沢山の環境設定をする必要がなかったので ずっと容易な復旧作業でした。

○ 久々に使えるようになった日本語 Emacs

私が1989年に実現した最初の電子カルテ WINE は UNIX の上で動くテキスト・エディター Emacs を日本語化した NEmacs の中に Lisp 言語で実現したものでした。 当時はまだマウスやウインドーを使う いわゆる GUI が一般には実現されておらず キャラクター(文字)だけでコンピュータを扱う CUI の時代でした。

Emacs が素晴らしいエディターであることを UNIX ユーザ会などで聞き憧れていたのですが、 使い方が難しそうで何度か挑戦してはメゲて、 vi を使っていました。 しかしある日、一念発起して「よし、 一週間だけ石にかじりついてでも我慢して使ってみよう」 と始めたのがきっかけで使えるようになりました。

使えるようになってみると、 確かにこれは素晴らしいエディターで、 単に文章を作るだけでなく、 その中に組み込まれた Lisp 言語で いかようにも機能を追加することができます。 メールからニュースからその中で読めますし、 Shell も動くので別個にターミナルを開く必要もありません。 Emacs の中で、コンピュータ上のすべての仕事ができてしまうのです。

ヌーは Emacs のシンボル・マスコットで、 Emacs の開発をサポートしている GNUプロジェクト がこの動物の名前と似ていることから使っているそうです。アメリカン・バッファローに似ていますが、 アフリカのサバンナに大群を作って移動します。ちなみに GNU は GNU is Not UNIX という再帰頭字語です。 UNIX の連中らしくユーモアのあるオシャレなネーミングですね。 ある ML を見ていたら「Linux は Linux Is Not UNIX」じゃないかとか、 「GCC も GCC is not C Compiler」じゃないとか言う JOKE がありました。うーむ、なるほど、座布団2枚!!

ATT社内の開発者達が自分のツールとして創った UNIX は、 当初売り物にする気はなく大学などに無償で配布されていました。しかし、 UNIX が大学内のハッカー達により改良され機能追加されて 実力をつけるとともにATTはそれを商品にしました。 これに抵抗したグループが「それなら UNIX でないフリーの UNIX を自分たちで作ってしまえ」と始めたのが GNUプロジェクトです。

GNU からのUNIX like OS 達成は成りませんでしたが、 その精神を受け継いで実現されたのが Linux です。 このような文化の中にどっぷり漬かって過ごした1980年代は、 私にとってとてもエキサイティングで楽しい時代でした。 今も充分楽しく過ごしてはいますが、 コンピュータの世界が今のように「性悪説」ではなく「性善説」で動いていた あの良き時代は、私の生きている間には取り戻せないのでしょう。

WINE の開発をはじめた頃から、本格的 GUI を実現した Macintosh が出現し、さらに Mac on UNIX である NeXT の出現、 さらにはそれらを模倣した Windows などが現れて、 キャラクター主体の CUI から GUI の時代へと移っていきました。 それ以後も現在に至るまで、私はテキスト・エディターとしては Emacs を使い続けてきたのですが、 日本語の扱える Emacs が手に入らず(根性入れてインストールすれば 無いことは無いのですが、次第にその根性がなくなって) 以前のように「Emacs の中に棲む」ことはなくなりました。

しかし文章を作る時などは Emacs の方が便利なことも多いので、 日本語を扱える Emacs が欲しいとは思ってきました。 そろそろ MacOS X も世の中に根付いてきたので、 そのようなものが出現するはずと期待していたところ、 ついに Apple の web site で見つけました。 実体は ATT Japan のサイト に置いてあるようです。 以前もみつけ down loadしてみたのですが、 日本語がうまく使えずあきらめていたのです。

今回のものを使ってみると、 何とちゃんと日本語変換しても文字化けすることなく、 使えるではありませんか。 日本語ファイル名などもちゃんと表示されるのには、 感心しました。かなりしっかりと日本語対応がされていて感激です。 Emacs のコマンドは大分忘れてしまったものも多いのですが、 これから時々は また Emacs の中に棲んでみようと思っています。

○ ビル解体(その後)

12月から書き始めたビル解体ですが、 写真のようにとうとうビル解体は終焉を迎えようとしています。 最初は進行がゆっくりだったのですが、 3F あたりから急に解体速度が上がりました。 ユンボが床を踏み抜かないよう恐る恐るだったのが、 地面に近づくにつれ大胆になったように見えますが、 プロがやることですからそんなこともないのでしょう。

しかし1Fまで下ると2台だったユンボが3台に増えて、 勇気りんりん働いているように見えます。 ユンボがどうやって一階下のフロアーへ移行するのか、 とうとう決定的瞬間は捕まえられないまま終わってしまいました。残念。 この跡地にどんな建物が建つのか知りませんが、 いずれにせよ以前のものより高いはずです。 当初は360度見晴らしが良かった私の住まいも、 どんどん高層化ビルに囲まれ眺めが悪くなりつつあります。

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