2000.06 ネットワーク設定に必要な気力・体力

わーくすてーしょんのあるくらし (30)

2000-06 大橋克洋

< 2000.05 コンピュータと文化 | 2000.07 ネットワーク設定に必要な気力・体力(その2) >

先月はネットワークまわりの設定に、だいぶ時間を費してしまい しました。ネットワークというのはなかなかのクセもので、乗りこ なすのに結構苦労しますし、やっと乗りこなせたと思っても、しば らくすると違うシステムが標準になってきて、また新しい知識を勉 強しなければならなくなります。

「うまく動いているものは、そのままそっとして触らない」とい うコンピュータ利用上の鉄則を守るのはよいのですが、数年もする と「以前どうやって設定したんだっけ」ということで、わけがわか らなくなります。そんなことで、新しく何かを設定した場合は忘れ ないうちに必ず自分なりのインストール・マニュアルを書いておく ことにしているのですが、これが数年するとシステムが変わって役 に立たなくなるのは困りものです。 今月は MacOS X Server によるネットワークまわりの設定に ついて触れてみたいと思います。

○ 堅牢な NeXT マシーン

わたしのところのネットワーク・システムはもう10年ほどNeXT をサーバ・マシーンとして管理してきました。NeXT システムには 初期の頃から NetInfo というシステムがあって、これは DNS(Doma inName Server)その他を兼ねた大変よくできたシステムです。 十年以上前までは Sun の上で、いかにも UNIX 的にテキスト・エ デイターを駆使してネットワークの管理を行ってきました。

これに対していかにも NeXT らしいのは、それらの設定をすべて GUI を使った管理ツールでできてしまうことです。このため、NeXT になってからはネットワークまわりの管理が大変楽になりました。 NetInfo を使えば、ネットワーク上のいろいろなマシーンやプリ ンター、あるいはユーザの管理をサーバ上でまとめて行うことがで きます。お蔭で昔いじっていた UNIX流のコマンド類をすっかり忘れ てしまったのは弊害といえば弊害かも知れません。

外来の受付の端末として使っていた NeXTcube が10年ほど第一戦 で働いていたことを以前お伝えしましたが、現在のサーバをつとめ る NeXTstation もなかなか堅牢です。もう8年もほとんど電源を落 すことなく常時稼働しています。何も手入れもしないのに黙々と元 気に働いていてくれますが、そろそろ突然の終りがきてもおかしく ない寿命となっています。ちょっと心配になってきました。

○ PowerMac G3 をネットワークサーバに

MacPower G3 に載せた MacOS X Server も約半年ほど 使って、ハード・ソフトともに安定性が確認できてきましたので、 そろそろ NetInfo サーバを G3 に移したいと考えました。 たまたま、テスト用に使える中古 G3 マシーンがもう一台手に 入ったのも、その気にさせた原因ではあります。

MacOS X Serverは、その名が示す通りサーバとして位置づけられ た OS であるはずですが、現在の Apple 社のスタンスとしては、あ くまでもMacOS のサーバとしてしか考えていないようで、NeXT から 継承された MacOS X Server そのもののサーバ機能について、役に 立ちそうなドキュメントなどがほとんど見当たらないのです。 現在、この OS に関する日本語の本は2冊ほどでてはいるのです が、本当につっこんだ解説は載っていないので、実際にやろうとす るとこれだけではなかなか理解しにくい面があります。

基本的には NEXTSTEP や OPENSTEP の機能を継承しています ので、同じに設定すればよいと軽く考えたのですが、ちょっとした 変更が加わっていたのが、時間のかかった原因です。 わかってしまえば基本はほとんど従来と変わらず、セキュリテイ ーなどの面で更にしっかりしたシステムになったようです。

ネットワークまわりの設定のほとんどは NetworkManager と NetInfoManager というツールで行います。これらの見掛けが従来か らの MacOS に合わせて NeXT 時代とはデザインが変わったことも、 ちょっと調子が狂った原因かも知れません。以下に、その具体的な 顛末記を書きます。技術的にちょっとつっこんだ内容になりますので、 チンプンカンプンだったらご免なさい。

○ NFS でつまづく

NeXT や OPENSTEP マシーンで構成されるわが連合艦隊に、半年ほ ど前から MacOS X Server マシーンが加わりました。NeXT や OPENSTEP は今となっては古い OS で、「接続する HD 容量を 2GB までしか認識してくれない」という障壁がありました。そこで、そ の障壁のなくなった G3マシーンの HD をファイルサーバとして使い たいと、まず考えたのです。

旗艦 NeXTstation に搭載した NetInfoサーバーの元に MacOS X Server を接続することは、何の苦労もありませんでした。接続した いクライアント・マシーンの IP アドレスと Ether アドレスをNeXT のNetInfo サーバに登録するだけで、PowerMac G3 の方からNeXT マシーンが見えるようになり、NeXT や OPENSTEP マシーン側で export されていたファイルの読み書きができるようになりました。 ところが「逆は真ならず」。MacOS X Server 側のファイルを export しても NeXT 側から見えるようにならないのです。

「さあーて」これで悩むこと数週間。最終的には成功しましたが 、原因のひとつは、NeXT の頃にはなかったセキュリテイー機能の強 化でした。X Server の NetInfo 設定には trusted_networksという パラメータが増えています。default ではここに何も値が設定され ていないのですが、ここに公開を許す IP アドレスの範囲を設定す るか、このパラメータ自体を削除しないと、このマシーンはネット ワーク上から参照できないマシーンということになるので、いくら ファイルを export しておいても NeXT 側からは見えるようになり ません。

日本語のドキュメントでもあれば、何ということもない問題だっ たのですが、わかってしまえば一言で済むことも、わかるまではと ても苦労するのが、コンピュータとのつき合いで頻繁に起こること なのです。

これで G3 マシーンの HD を全ネットワーク上から使えるように なったので、NFS で他のマシーンから接続できます。早速、G3マシ ーンの HD を、ファイル全てを集積しファイルサーバとして運用で きるようになりました。これまでは NeXT マシーンの HD を何台か 使っても容量がアップアップしていたのですが、これで安心です。

○ 一難去ってまた一難

何とか念願の NFS が成功したので、今度は NetInfo サーバ を NeXT マシーンから G3 へ変更したいところです。 NeXT の場合、NetInfo サーバへの設定は設定ツールのパネルから ボタン一発です。外見がまったく違っていたので最初はわかりませ んでしたが、X Server の NetInfoManager というツールにも同じよ うなものがありました。

わかってしまった後になれば、NeXT の頃と基本は変わらず シンプルにできているのですが、ちょっと使い勝手が違うばかり に最初は結構悩みました。 英文ではありますが、Web で NetInfo サーバの設定マニュアルを みつけました。その通りに設定して「これで完璧!!」と思って、 reboot しますが、「あれ?」クライアントからサーバを認識できま せん。何度やっても同じです。これでまた1日半悩みました。

試行錯誤の末、何の気なしにサーバとクライアントを接続する Hub を別の Hub に替えてみました。すると「やったあー!!」、繋 がるではありませんか。以前も経験したことではありますが、Hub にも相性があるのでした。 しかし、苦労した後に成功を見たときの喜びは何ものにも替えが たいものでクセになります。

○ 残るは Web と Mail サーバ

あとは Mail サーバと Web のサーバを動かすことができれば、完 全に NeXT マシーンを G3 にすげ替えることができます。Web につ いては MacOS X Server には元もとApache(現在世の中でもっとも広 く使われている Web サーバ)が載っていて、起動させる設定もパネ ルのボタン一発ですから、とても簡単です。うちの環境に合わせる よう、設定ファイルをほんの少し修正するだけで済みました。

さて、残るはメール・サーバです。sendmail をうちの環境に合わ せて動かすための sendmail.cf という設定ファイルを作らねばなり ません。とりあえず現在動いている NeXT のsendmail.cf を持って きて動かせば何とかなるのではないかと、甘い期待もしました。し かし、やはり世の中そう甘くはありませんね。 おそらく sendmail のバージョンが新しくなっているためだと思 いますが、そのままではうまく動作しないようです。ここからは現 在進行型ですので、また後日レポートすることとしましょう。

○ NeXT マシーンより蔭の薄い DOS/V 互換機

MacOS X Server が入るまで、あんなに活躍していた OPENSTEPを 搭載した Intel(DOS/V)マシーン2台は、今では大変蔭の薄い存在と なってしまいました。Intel マシーンを主力として使うようになっ ても、たまたま NetInfo サーバが NeXT マシーンのままで済んでい た、というのも私のところで現在 NeXT が脚光を浴びている原因か も知れませんが、ハードウエアとしての NeXT マシーンの安定度の 高さは、さすが高価なマシーンだっただけのことはあるようです。

安いマシーンと比べると、やはり愛着度にかなりの差があること も実感として感じます。これは単に価格が高いということではなく 、芸術品のように考え抜かれ磨き上げられたハードウエアと、あり あわせの部品を組み合わせただけのハードウエアとの違いと言って よいでしょう。 夏にリリースされる Acua を搭載した MacOS X と PowerMac G4 の組み合わせも、きっと長年の愛着を産むことは間違いないでしょ う。

< 2000.05 コンピュータと文化 | 2000.07 ネットワーク設定に必要な気力・体力(その2) >