「アトピーのチャンピョン」
2歳
2歳
これは、以前通院していた総合病院の先生が、我が家の次男(次男)につけたニックネームです。そうです。それほどひどかったのです。 第一子の長女は肌に何のトラブルもありませんでした。第二子の長男は生後 3 ヶ月の頃から口の横がただれ、その時医者からもらった薬をつけると嘘みたいにツルツルになるのですが、またすぐただれ薬をつけることの繰り返しでした。1 歳を過ぎた頃に体全身に爆発的に湿疹が増え、これはどうしたのかとアトピーの本を読みあさり、情報を集め、人の教えてもらい、入浴剤を入れてみたり、厳しい食事療法をしたり、良いと言われることは片っ端から試してみました。その効果は特になく、費用ばかりかかりました。1 歳半頃から徐々に徐々に治まってきたのですが、掻きむしった傷跡は長男の体に痛々しく残ったままです。子供の産まれる前から安全なものを求め、生産地や生産者の分かる無農薬野菜を食し、人一倍食品に関しては気を付けていたつもりだったのに、「何でアトピーになったんだろう、何が悪かったんだろう。」と自問自答を繰り返し、自分自身を責め、何度も何度も涙しました。 この様な経過があるので、次男の妊娠中は特に気を付けて、食べたいものを我慢し、魚・野菜・海藻を多く取り出産の日に備えました。出産後、次男を見て「弱そうな肌だな。」と思ったのですが、その予感は的中していました。生後 2~3 ヶ月の頃から耳切れがし、顔にポツポツと湿疹が出てきました。近くの薬局を訪ね、「これはよく効くよ。」とある薬を差し出されたので「ステロイドが入っているのですか?」と聞いたところ、「入っていない。」との返事でした。安心して使うと、塗った翌日にはツルツルしており、あとからこの薬にはステロイドが入っていることを知りました。 4ヶ月検診の時に医者から「アトピーですね。離乳食の前に一度アレルゲンを調べてみては?」と言われ、頭をガーンと殴られたようなひどいショックを受けました。(やっぱりそうなのかあ、ああやっぱり・・・。)私は高校時代にアレルギー性鼻炎と言われたことがあり、また主人も子供の頃喘息の発作がひどく、打てば 3 分ほどで治まる注射を何度も何度も受けていたそうです。夫婦二人がアレルギー体質では、次男のアトピーもどうしようもないのかと悲しくなりました。顔だけだったのが、あっという間に全身に広がりました。この位の月齢の赤ちゃんは、思わず頬ずりしたくなるようなプリンプリンの肌に、甘酸っぱいおっぱいやミルクに匂いがするものですが、この頃の次男は抱っこすると血なまぐさい匂いがし、とても頬ずりできる状態ではありませんでした。6 ヶ月頃からますますひどくなり、病院でステロイドを何本かもらいました。しかし、ステロイドの怖さを充分に知っていたので、使いたくありませんでした。
そんなとき、強酸性水を知ったのです。<電気分解した特殊な水をかけるだけでアトピーが治ります。>そのようなうたい文句で、黄色ブドウ球菌を退治することで古い皮膚をはがし、新しい皮膚をつくるという仕組みでした。ポリタンクに入った水を購入し、朝晩入浴し強酸性水を噴霧し続けました。すると、おもしろいように皮膚がはがれてきました。服を脱がす度に、まるでフケのような皮膚がパッと粉をふったように飛び散るのですが、特に何の進展もなく、数ヶ月も経つと費用と根気がいるのに疲れてきました。そして仕方なくステロイドを使い始めました。 次男が 1 歳の夏頃、どうしたことか、アトピーがどんどん良くなってきたのです。ステロイドをすぐに止めて様子を見ることにしました。医者も驚き、アトピーは改善したかのように見えました。しかし、秋の気配が感じられる頃、坂道を転がるようにものすごいスピードで悪化していったのです。ツルツルの肌は手の甲と足の裏だけという状態で、もうどうしようもなく、またステロイドを塗り始めました。体全体につけるのが怖く、特にひどいところにチョンチョンとつけていました。アトピーの定期検診に行く度に医者に「ひとつも良くならないなあ。情けないなあ。」と言われました。全身の肌からジュクジュクした汁が出ていました。暇さえあれば掻いている次男を見て、医者に「余り掻かないように。」と言われていた私は(掻く=悪化する)という図式が頭に浮かび、つい怒ったり、掻いている手を叩いたりしていました。(掻く→怒る→掻く→叩く→泣きわめいて、掻く掻く掻く)の悪循環でした。「どうしてそんなに掻くの?」とこっちが泣きたい気分でした。顔や手足などの肌の出ている部分はもちろん、服の中に手を突っ込んで、幼児とは思えない力で必死になって掻くので、衣類やシーツは血塗れ、日に数回洗濯し、我が家の物干しにパジャマやシーツ・タオルケットのかかっていない日はありませんでした。特に眠たいときは体温が上昇するのか、痒いところを布団にこすりつけるので 5 分もしないうちに血塗れ、次男も自分で付けた血の痕を指さして「チーチー(血のこと)」という言葉を早くから覚えて使っていました。寝かしつけるのに 1~2 時間かかり、やっと寝たと思ったら 10 分か 15 分で起き、泣きながら掻く、また寝かしつけるの繰り返し、この頃私は睡眠不足と疲れで夕方になると目がかすんで見えない状態でした。次男が必死になって掻くのを見て、怒る気も失せボーっと見ていたことも度々ありました。
外に出ると好奇の目で見られ、指さされたり、振り向かれたりはしょっちゅう、小さい子供は「その子どうしたの?怪我したの?血でてるよ。」、5 歳くらいの子になると「その子アトピーなの?」と聞いてきました。だんだん外に出るのが億劫になり、出かける用事のある時は、なるべく手足の出ない服を着せ、目深に帽子をかぶせていました。
次男が掻くとイライラする自分→怒る自分→手を出す自分→上の二人にあたる自分。このままでは次男も私もおかしくなってしまって、真っ暗な闇の中に吸い込まれていきそうな気がしました。
この頃です。松本漢方クリニックのことを知ったのは。その時は「漢方のお医者さんが高槻にいらっしゃる。」くらいにしか思いませんでした。
12 月のある日、次男が 1 歳 4 ヶ月の時、それは突然やってきました。喘息の発作です。大阪の地下街に子供を連れていった私もバカだったのですが・・・。急いで帰宅し、しばらく自宅で様子を見ていたのですが、どんどん速くなる呼吸に、初めての体験に、もう頭の中はパニック状態でした。明け方だったせいか、救急病院では「時間外です。」、他の病院では「小児科の当直がいない。」等の理由で断られ、個人病院に無理を言って診てもらうことになりました。先生は次男の呼吸音に「えらい、にぎやかだなあ。」と言いながら聴診器を当て「長いこと喘息の患者は診てないなあ。」と言いながら薬を処方してくれました。薬を飲ませると嘘のように呼吸が落ち着いていき、その影響か肌がツルツルになってきたのです。そして、私の精神状態も落ち着いてきました。しかし数日も経つと、もとのジュクジュクの肌に戻っていきました。そしてイライラしている私も戻ってきたのです。そうこうしている内に年が明けて 2 月のある日、2 回目の発作が起きました。夜中にかかわらず主治医に診ていただけることになり、病院まで車をとばしました。自宅で上の二人が目を覚まして泣き出さないように「クレヨンしんちゃん」のビデオをつけっぱなしにして・・・。病院で吸入してもらい帰宅したのですが、ひどいアトピーに加えて、喘息の発作が度々起こるようになったことに私はとてもショックでした。しかしその反面、喘息の発作が起きるようになって、アトピーが徐々に改善していった子供を身近に知っていたので、密かに期待していたのですが、息子の肌は一行に良くなりませんでした。 松本漢方クリニックに通っていた近所の1 歳の女の子が、会う度にきれいな肌になっていくのを見て気にはなっていたのですが、本当にツルツルになったその女の子を目の当たりにして、何の迷いもなく「行こう!」と決めました。自転車で 20 分とかからない距離にあるのも幸いでした。 平成 9 年 3 月 4 日、初めて松本漢方クリニックを訪ねました。一歩中にはいると漢方の独特の匂いがしました。しかし、芳香剤などの人工の香料のように、鼻にツーンとくる感じはありませんでした。松本先生に初めてお会いしたとき、「随分、元気な先生だな。このパワーはどこから来るのだろうか?」と思いました。機関銃のようにしゃべりまくり、自信に満ちあふれている。「わあ、ひどいなあ。」と顔をしかめる先生は何人もいましたが、こともなげに「絶対治るから、治してあげるから。」と断言する先生に私は今まで会ったことがありませんでした。「この先生を信じよう。ついて行ってみよう。」と思いました。
初回に頂いたもの
飲み薬 抗生物質・煎じ薬
お風呂に入れる煎じ薬
消毒薬 ネオヨジン(茶色)
塗り薬 真っ赤なもの(乾燥を防ぐと共に皮膚を早く作るためだそうです。)
抗生物質(テラマイシン)
<1 日目>
煎じ薬を入れたお風呂に朝晩 2 回入れて下さいとのこと、以前強酸性水を使っていたときに 2回入れていたのでこれは何の苦にもなりませんでした。初めて煎じ薬を入れた茶色いお湯を見たときには家族全員驚きました。「これはカイカイの治るお風呂なんだよ。」と子供達に言い聞かせ、「治るといいねえ。」などと言いながら、先生に言われたとおり、なるべく長くつかりました。その後、今まで見たこともない赤い塗り薬と抗生物質を塗っていると、次男がウトウトしだしたので慌ててパジャマを着せ、お布団に連れていきました。すると 5 分もしない内に眠りについたのです。今まで 1~2 時間かけて寝かしつけていたのが嘘のようでした。そして、もう一つ驚いたことに、そのまま朝まで一度も起きずに 10 時間も眠り続けたのです。こんなことは次男が生まれて以来、初めてのことでした。一晩に何回も起きて泣いていたのに、私の方が夜中に目が開き、次男の顔をのぞき込んでしまいました。長い時間おふろに入って疲れたのか、こんなに驚くほど早く効果があらわれるとは思ってもみませんでした。 (長男にも同じようにお風呂に入れ、塗り薬を塗ってみることにしました。)
<2 日目>
起きてからいつもと何かが違っていました。そうです。掻かないのです。全く掻かないのです。痒みはどこに行ったのでしょう?とにかくゴキゲンでニコニコ、ニコニコしているのです。お昼を過ぎて眠たくなるとやっと手が動き出しました。首にあたりを掻きはじめました。いつもの次男の姿です。でも明らかに、掻く回数が今までと違いました。初日は寝てしまったので、2日目から煎じ薬を与えてみることにしました。まず私が味見したところ、独特の匂いと苦み、そしてほのかな甘みがしました。次男に飲ませてみると、一口飲んだだけでベーッと舌を出しました。「ああ、これは困難かもしれない。」と心配になりました。熱を計って連絡するように先生から言われていたので、松本漢方クリニックに電話を入れました。「何も心配することはない。そのまま続けて下さい。」とのことでした。
<3 日目>
この日は煎じ薬をお茶で薄めたものしか出しませんでした。朝お風呂上がりでのどが渇いていたのか、ストローでチューッと飲んだときは「やったー!」と思いました。相変わらずゴキゲンさんでニコニコ笑っています。親にとって子供の笑顔は何物にも代え難いものです。今までにこれほど機嫌の良かったことがあったでしょうか。アルバムを開いてみても次男は笑顔が少ないように思います。実家の母にも「笑わない子やねえ。」と言われたことがあります。今、心の底から笑っている次男を見て、「何か分からないけど、何かが彼の体の中で起こっている。目に見えない何かが。」と思いました。そして、今まで使っていたステロイドを引き出しの奥にしまい込みました。
<4 日目>
この日は朝から、やたら掻く。体からジュクジュクした液が出てくる。食欲は旺盛。
<5 日目>
炎症を起こして腫れてボコボコになっていた肌が、少し平坦になってきているような気がする。ほとんど掻かずゴキゲン。
<6 日目>
発熱、嘔吐、下痢。小児科で受診し"腸炎"とのこと。入浴してもすぐ下痢便が出るので短時間しかお風呂に入れず。(この状態が 10 日間ほど続く。)
<1 ヶ月半目>
顔、お腹、背中が随分良くなる。
<2 ヶ月目>
会う人ごとに「あれ、何かすごくきれいになってきたね。」と言われる。夜中に起きることはほとんど無い。引き出しの奥にしまっていたステロイドを何の迷いもなくゴミ箱に放り込む。
<5 ヶ月目>
手足も随分良くなる。プールに入って思いっきり遊ぶまでに改善。いつの間にか長男のカサカサしていた肌に艶が出てきたように思う。
<6 ヶ月目>
高槻から京都に引越。環境が変わったせいか、泣きっぱなしの掻きっぱなし。
<7 ヶ月目>
ツルツルだったほっぺがまた荒れてくる。先生にお聞きすると、「引越で新しいアレルゲンに出会ったから、一時的なもの。」とのこと。
<8 ヶ月目~現在>
「えっ、そんなにひどいアトピーだったの?」と人に驚かれるくらいに改善。
掻かしてもかまわない。こんな自然な治し方があるでしょうか?漢方にかかるまで私は掻かしてはいけないと思っていました。でも痒いものは痒いのです。痒みは我慢できません。「掻かしても良い、どんどん掻かせなさい。」と松本先生に言われてから次男が掻いているのを見ても、「痒いの?もうすぐ治してあげるからね。もう少し頑張ろうね。」と語りかける心の余裕が出てきました。以前の私なら、掻いてる次男を見て「何やってるの。」とつい手をあげていたことでしょう。
私は一つだけ後悔していることがあります。それは「何故もっと早く松本先生のもとを訪れなかったのか。」ということです。私はもっと漢方のことを知るべきでした。知ろうとするべきでした。漢方は自然の草根木皮から成り立っています。化学的なものは一切使われていません。漢方には 2000 年以上の歴史があるそうです。たった十数年しか歴史のないステロイドの何倍も何十倍もおじいさんなんです。疑問を感じながらもステロイドを使い続けている方は随分いるはずです。でも、ステロイドをホイホイ出す医者がいたら、疑ってみることも必要かも知れません。医者はたとえ自分の子供がアトピーだったとしても、患者にはだすはずのステロイドを処方しないと思います。農家の人も出荷用と自宅用の農作物は分けて作っていると聞いたことがあります。農薬の量が違うのです。でもそうしないと売れない、買ってもらえない現状があるのです。まっすぐなキュウリ、均一化したトマト、あれは梱包しやすいように作り上げた個性のないお化けです。私は自宅の猫の額ほどの庭で野菜を作ったことがあります。もちろん無農薬で、太陽と土と水、油粕等の肥料だけで育てました。キュウリも大根も人参もまっすぐには育ちません。自分の曲がりたいように曲がるのです。自分の向きたい方向に向くのです。2 つとして同じキュウリはありません。個性があるのです。
人間は自然の中で生かされています。それなのに便利さだけを追求し、様々なものを作り出してきました。高度成長期で、人間は急ぎすぎたのかもしれません。空気を汚し、水を汚し、食べ物は農薬で汚染し、おまけにオゾン層まで破壊しています。人間はなんと愚かな生き物でしょう。
自転車で 20 分足らずの距離に医院があったことと、なにより松本先生に出会えたことを感謝します。また、薬の使用法を詳しく、丁寧におしえてくださった看護婦さん、松本漢方クリニックのことを教えて下さった近所の奥さん、通うために二人の子供を預かって下さった友人にも感謝の気持ちでいっぱいです。もし先生に出会えていなかったら、次男と私はアトピー地獄の中で精神的にも肉体的にも息絶え絶えで、もがき苦しんでいたことでしょう。この様な治療法に行き着くまでには、様々な紆余曲折があった事と思います。先生の適切な指導、治療のお陰で今の私達の家族の暮らしがあります。本当に有り難うございました。完治に向けて後しばらくお世話になります。