南紀旅行 day2

朝6時にFが起床。「仙人風呂に行こう」という声を布団の中で聞く。まじで? いや無理無理。寒いし、だいいちまだ暗いじゃないか。と思うけれども、昨晩も暗くて寒い中、行った実績があるのだった。気合いで起き、出かけることにする。屋外で服を脱ぐまでが苦痛だが、いったん風呂に入ってしまえば気持ちいい。 ちょうどよい湯加減にするために、毎日決まった時刻に温度を調整する人がいるのだと、宿の娘さんが言っていた。

帰りに吊り橋のロープの上にふくろうが止まっていた。Fが「だるまさんが転んだ」のようにゆっくりと近づいて観察する。

泊 まった民宿は食事もおいしく、感じの良い宿だった。おみやげもいただいたうえに、娘さんがバス停で出発を見送ってくれた。川湯から路線バスで1時間かけて新宮まで行く。途中の熊野川は水が青くきれいだったが、大きな崖崩れや、水が道路や家屋の方まで流れ込んだ痕跡が多く、台風の被害を見せつけられる。この熊野川の広い川幅 が水でいっぱいになるのが想像できない。山がぱかっと半分に割れるように崩れているところもあった。これが深層崩壊と呼ばれる現象だろうか。新宮はいい町だ。天気がよいからか、人もなんだか穏やかな気がする。Fが金物屋で蒸し器を買う。もともと欲しかったところに、安く売られていたそうだ。速玉神社に参ったあと、山の上にある神倉神社に行く。石段から下りてきた野球部員があい さつをしてくれた。その次にすれ違った女の子も。いい感じだ。ここの石段はかなりラフで傾斜もきつく、登るのがけっこう怖い。この石段を火をかついで駆け下りる祭りが毎年あるという。山の上の神社からは新宮の町が一望できた。熊野川の河口に広がる町がきれい。東北で津波に巻き込まれた町もちょうどこんな感じ

の町だったのだろう。この大きな町全体が波に飲み込まれる様子を想像してしまう。那智までの電車のなかで、おにぎりを食べる。座席のほとんどは地元の高校生で占められていて、彼らのバックに一面の太平洋がきらきら光っていた。男子学生が「◯◯ちゃんは絶対落とせる」みたいな話をしている。品はないが、そのくらいが健康的ということでよし。那智駅ではバスまで時間が空く。「便利な乗り物あるでー」というタクシーのおっちゃんの売り込みをさりげなくかわし、駅のすぐ裏の砂浜をぶらぶら。Fは貝殻を拾い集める。那智といえば山の中の滝のイメージで、こんなに海沿いにある町だとは思っていなかった。自分はとくにすることがないので、流木で素振りしたりして時間をつぶした。バスで那智大社に向かう。那智川沿いのこの地域も洪水の被害が大きい。JRの鉄橋も流された。大滝と神社と寺を見て、バスに間に合うよう階段を駆け下り、次は勝浦に向かう。ぶらっと町を歩いて、無人販売のマグロ売り場で200円の刺身を買う。こういうのを見つけるのは、Fの得意とするところだ。コンビニで醤油を買い、駅のホームで食べた。和歌山方面行きの電車に乗り、太地の駅で降りる。駅の人に「バスが出ますよ」と言われ、あわてて町営の循環バスに乗り込み、くじら博物館の方に行く。バスの 運転手さんが親切。でも一部話が通じなかったりもした。

くじら博物館ではイルカショーが催されていたが中には入らず、そこから少し歩くと、見覚えのある場所に出た。映画「ザ・コーヴ」で撮影されていた海

岸。きれいな海だ。夏は海水浴場になるそうだ。映画からはもっと奥まった、おどろおどろしい場所のような印象を持っていたが、 観光客を集めるくじら博物館のすぐ近くだった。問題の入り江に近づくだろう小道は柵で封鎖され、「落石のため立ち入り禁止」という看板が掲げられている。英語表記もされていた。帰りは徒歩で、半島をぐるっと回って駅に戻る。目の前は山かと思って手前を見ると、海の上に浮かぶ船がそこにあったりして、太地は 入り組んだ独特な地形がおもしろい。くじらを売る店にも行きたかったが、電車の時刻が迫っている。早歩きで駅へ。早歩きばかりしている気がする。勝浦の駅に戻り、夕食にうどんを食べる。夫婦でやっているらしいお店。おいしいうどんだった。奥さんの表情にやや力がないのが気になった。勝浦からスーパーくろしお号で帰阪。再び通った太地の駅からは、靴ひもがほどけたままの若い女性が息を切らせて乗り込んできた。今日はクリスマスイブ。それと何か関係があるのだろうか。