「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」

新しいレイヤーを旅しよう

「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」 坂口恭平 (2010年)


坂口恭平から目が離せない。震災による原発事故のあと、彼はすぐさま東京から出身地の熊本に移住。そして「新政府」を立ち上げて、さまざまな活動を始めようとしている。大地震が起こる直前に、原発問題のインターネット番組を企画し出演していたりもした。アーティスト的な直観と、それをすぐに行動に結びつけるフットワークの軽さに目を奪われてしまう。

この本は、いわゆる路上生活者の人々の暮らしを追ったものである。といっても、なぜ路上生活者になってしまったのかというような人生の話ではなくて、彼らの「生きる技術」にスポットを当てたものだ。ゼロから家を建てる方法、衣服を得る方法、食糧を得る方法、お金を得る方法……。紹介されている人たちが、いかに知恵を使って「人間的」な暮らしをしているか、ということに驚かされる。エコでスローで自分らしい暮らしを、いち早く実践しているのは彼らだった。

そして、同じ都市に暮らしていても、その世界がまったく見えていなかった自分に気づかされる。それを著者は「レイヤー」と表現している。たしかに自分は、普段の生活では薄い層の中を行き来しているだけなのかもしれない。その外側にある多層的な世界のことを意識すれば、世の中の見え方が変わってくるのだろう。ある種、旅のようなものかもしれない。なんてことを考えながら横断歩道で信号待ちをしていると、アルミ缶を自転車に満載にしたおじさんが目の前を通り過ぎるのが見えた。

ソーラーパネルと車用バッテリーの応用は、今すぐにでも実践してみたい。

そう、この本が提供してくれているのは、「仕事をなくしても家をなくしても、人間らしく生きていける」という耳寄りな情報である。それがレイヤーを突き破る風穴を開けてくれる。自分で発電だってできるし、家だって建てられる。単なる思想ではなくて実践的な情報として持つことで、「そうだ、何だってありなんだ」という気分にさせられるのだった。(T)

2011.05.27