宮田珠己さんの本

実感からくる発見がおもしろい


宮田珠己さんの本はおもしろい。自分の中でそれはもう間違いないんだけれど、何がどうおもしろいのか、説明するのがむずかしい。とりあえず、おもしろいポイントを思いつくまま挙げていくと…

(1)文体がおもしろい。まじめに語るかと見せてかけて、ヒラリとかわしたりガクッと落としたり。何が出てくるかわからない予測不能な文章に、目が離せなくなる。たとえば「東南アジア四次元日記

」では、冒頭の「10年勤めた会社を辞めて旅に出た」の次の文章でいきなり吹き出してしまった。サラリーマン時代の自分に対する突っ込みや、格好つけたものに対するウイットのある笑いに満ちていて、読んでいて心が軽くなる。

(2)テーマがおもしろい。有名な遺跡じゃなくて奇妙な四次元スポットをめぐり、ダイビングじゃなくてシュノーケリングにはまり、なぜかジェットコースターに乗りまくり、巨大な仏像やホンノンボ

という不思議なベトナムの盆栽に注目する。最近では「迷路みたいな温泉旅館」の連載もあったりして、やっぱり目のつけどころが普通の人とはちょっと違っている。

(3)エピソードがおもしろい。会社を辞めて念願の放浪の旅に出たときの最初のエピソードが「滞在先の友人宅の子供がやたら絡んできて困った」みたいな話だったり、本題と全然関係ないようなエピソードがなんかリアルだ。

(4)本のタイトルもおもしろい。「ウはウミウシのウ

」「晴れた日は巨大仏を見に」「ジェットコースターにもほどがある」「ときどき意味もなくずんずん歩く

とか、いい具合に力が抜けて絶妙。

(5)ていうか、宮田さん自身がおもしろい。結局はこれに尽きるのだろう。たぶん、どの話もテーマも宮田さんの「実感」からスタートしているのだと思う。だからネタや文体のおもしろさもさることながら、ものの見方や感じ方について、新しさを感じたり納得させられたりするのだ。

そんな宮田珠己さんの最新作が、お遍路の旅を綴った「だいたい四国八十八ヶ所」。そのなかに、太平洋の海の美しい青さについて書かれている箇所がある。お遍路のことを記した紀行文は古くからあるけれど、こんなに青い海のことに言及してないのはどういうわけだろう?と海岸沿いの遍路道を歩きながら宮田さんは思う。たしかにお遍路と聞いてイメージするのはどちらかというと苦行で、すかっとした自然の美しさについては想像できない。そういう宮田さん自身の実感から来る発見が、読者にとって新鮮でおもしろいのだ。

と、こんなふうに宮田さんの本からは、新しいものの見方をたくさんもらえる。それだけで世界が広がるような気がする。読書のおもしろさってそういうことなんじゃないかなあと思ったりするのだった。(T)

2011.7