まず宿からタクシーで、ラクダステーションと呼ばれる砂漠に入り口に移動。ラクダステーションはその名前からして、ラクダがたくさんいるのかと思ったら、誰も何もいない。と、どこからか3頭のラクダとおじさんが現れ、タクシーに同乗してきたツアー会社の兄ちゃんと言葉をかわす。そのラクダで行くようだ。流しのラクダを捕まえました、という雰囲気だったけど、普通に考えたら、あらかじめ手配してたラクダだろう。鞍とかちゃんと装備されていたし。我々はラクダに乗せられ、おじさんが手綱を引いて先導する。
キャンプ地まで2時間の道のり。途中、砂丘がきれいな場所で、1度休憩した。おじさんは手をつないで「ベドウィーン!」とか言ったりして意味不明だが、悪い人ではなさそうだ。ベドウィンは砂漠に住む民族のひとつで、おじさんもそのベドウィンらしい。なんとなく、というか明らかに、Fへのボディタッチが多いような気がする。こっちとしても対応に困る。それはそうと、ラクダのしゃがみ方にはいつも驚かされる。
キャンプ地についたのは夕暮れ時。常駐しているベドウィンの青年がいた。今日泊まる客は我々だけのようだ。砂の上で横になって、広々とした空を見たりする。ロマンチックな気分に浸ろうとしたところが、ハエが多く、ぶんぶんとうるさい。しかし目を閉じ、心身を統一し、自然と一体化するように心がけると、 不思議なことにいつの間にかハエがいなくなるのである。ほんとうである。自分の体が自然の一部になることにより、ハエが寄り付かなくなるのだ。
……って、目を開けると、無数のハエはすべて自分の体にとまっているのだった。
ヤシの木でできた家があったが今は使われていないようで、プレハブ小屋のような建物で食事となった。ショルバ(スープ)とパンで終わりかと思ったら、山盛りのクスクスが出てきた。これがメインだったのか。そのまえにパンをたらふく食べてしまった。でもクスクスもおいしく、結局食べきってしまった。ただクスクスには、どこか食べ飽きさせるものがある。味なのかにおいなのか食感なのかはわからないけど。なんてことを思ったけれども、そもそもこんだけ食ったら、何だってもういいやという気分になるだろう。デザートの梨もおいしかった。
常設されているテントで眠る。ドア部分がぴったり閉まるようになっておらず、マットレスを立てかけて外気を防いだ。
23時半ごろ、同行人に起こされて、外に出る。ちょうど月が沈むところだった。細くて赤い月が沈んでいく。月が地平線に沈むところを初めて見た。雲がかかっていて、星はよく見えない。
フィルムカメラを取り出して、バルブモードで撮影してみた。寝る前に月の写真を長時間露光で撮ればよかった、と後悔していたからだ。写真は撮ったものより、撮り逃したもののほうが気になってしまう。いっそ撮らなくていいとなれば楽なのにと思う。(結局、このとき使っていたフィルムに不備があり、なにも写っていなかった)
もう一度、深夜2時ごろトイレに行きたくなって起きる。見上げると、今度は満点の星空だった。砂漠の夜空はすごい、ということよりも、都会にいるとこの星が見えないということのほうが、不思議に思えた。
朝、 明るさを感じて起床。付近を散歩すると、ふんころがしの足跡がいたるところにあった。ベドウィン青年がたき火をしている。見に行くと、ちょうどパンを焼こうとしているところだった。小麦粉と水をこねて成形し、灰の中に入れて焼く。パンをいれる前に、慎重に灰をならしていたのが印象的だった。
焼き上がるまで時間がかかりそうだったので、付近を歩いたり写真を撮ったりしていると、「パンパンパン」とパンを叩く音がする。あわてて戻ったが、パンはすでに灰から取り出された後だった。取り出すところも見たかったのだけど。
この焼きたてパンとデーツのジャムとコーヒーで朝食をとったあと、帰路につく。その前に甲子園球児のように砂漠の砂をフィルムケースに詰めた。
このツアーでひとり35ディナールは安い。これが経済の格差か…と帰りのラクダに揺られながら考えようとしたが、そんなことより尻が痛い。なんかわざと揺すってないか、おれのラクダ!