「移動したい」を解決してくれるテクノロジー
「脱『ひとり勝ち』文明論」 清水浩 (2009年)
いくら省エネルギーを迫られても、すべての便利さを放棄してしまうわけにはいかない。とくに移動は必要だ。ぼくが「旅行」を手放せないのも、移動したいという欲望
からかもしれない。移動が制限されてしまうなら、そんなエコはちょっと遠慮したい。
電気自動車の研究開発を進めるこの本の著者は、「人間は進化の過程で移動のスピードを失ってしまった。だから、速く移動したいという欲望はなくならならず、自動車は不可欠だ」と考える。なるほど。環境に負荷をかけず、かつ自由に移動できることに解決策を示してくれるなら、ぼくも電気自動車を応援したいと思う。
日本の技術と資金をもって、太陽光電池と電気自動車の開発に力を入れれば、日本は世界のリーダーになり得る。でも早くしないと他国に先を越されてしまう。そんな状況を広く伝えなければということが、著者がこの本を書く動機となったそうだ。出版されたのは2009年で、もちろん東北の震災より前だけれど、原発の事故がなくても太陽光エネルギーは重要なテーマだったということがわかる。
太陽光は、石油みたいに権利を握った国だけが勝ち組になるのではなくて、すべての人に広く行き渡るエネルギーである。しかも地球環境全体が良くなる。それが「脱ひとり勝ち」の意味するところ。つまり太陽光エネルギーの技術は、「みながラクになる技術」なのだと著者は言う。
自分のことを考えてみても、今はダウンサイジングしなければ、我慢しなければ、という空気になっているように感じる。科学技術に頼りすぎたからこんなことになったのだ、と結論づけたい気にもなる。でも技術によっては、状況を打破して、問題を一気に解決するような可能性もある。それが太陽光と電気自動車なのかもしれない。
最近の若者は「クルマ離れ」とか言われている。でも逆に言うと、車へのこだわりがなくなっている世代。だからこれまでとはテイストが違う電気自動車のような車でも、広く受け入れられるんじゃないだろうか。気軽に乗れる安価で小型の電気自動車が出て来て欲しい。
著者は大学教授だけれど、聞き書きというスタイルで書かれていて、読みやすくわかりやすい本。グラフや表が手描きなのも気が和んだ。(T)
(2011.6.8)