一瞬ブレードランナーな街

ブレードランナーという映画がある。冒頭の場面、ハリソン・フォードが雨の中華街の屋台で、うどんか何かを注文する。いきなり4杯注文するのだが、店主にいや2杯で十分ですよと返され、でも、いや4杯だ、とハリソン・フォードは頑固に譲らない。そのシーンが特に好きだった。

何が言いたいのかと言うと、到着したクチンの町は雨に濡れており、宿もオールドチャイナタウンにあって、とてもブレードランナー的だったということだ。とくに看板がエキゾチックだった。マレー語、中国語、英語が同等に溢れていて、なんか羨ましくなってしまった。そんな看板があるくらいだから、もちろん人もいろいろいるわけで、日本はそういう混沌度ではなんか負けてるよな、と。ま、だからこそ旅行に出るのだけど。

宿は、懇意にしている(!)ガイドブック、ロンリープラネットのオススメ宿にした。ここのオーナーはスウェーデン人の若い女性で、クチンの街が気に入って、イバン族のタトゥー職人と結婚したのだそうだ。どうりでタトゥーテイストな一風変わった内装だ。スタッフの一人は中華系の親切で愛嬌のある女の子。ただ、虫を殺す強力何とかジェットスプレーを宿中にくまなく(ドアの隙間から私達の部屋の中まで)スプレーしまくっていたのを目撃してショックだったが、親切でやってくれているのでやめてくれとはいえず。初日にしか見かけなかったもう一人の男性スタッフは何系の人かわからないが、ものすごい丁寧に案内してくれるおかまちゃんだった。

クチンへ来てから、夕方には雨がぱらつくようになった。そろそろ雨期に入るらしい。これまでの行程ではまったく雨知らずだったこともあり、適当な格好で遠くまで散歩していたら、雨に降られてしまった。そして濡れた格好で雨宿りにショッピングモールに入ったら、冷房でしゃれにならんくらい寒かった。モールに行くときは上着を持参すべし。

旅の最後にということで行ったおしゃれレストランでも、クーラーが効きすぎて寒いからという理由でテラスで食べた。このTribal Stoveというお店は、ジャングルで採れる蕨やその他見たことのない食材を使った民族料理を出していて、米や塩もBarioという高地でとれた伝統的なものを使っている。ふつうのマレー料理とは違ってオリジナリティーに溢れている。これまで食べてきた食堂のプラスチックの食器とは違って、きちんとデザインされた陶器の食器と丈夫なカトラリーでサーブされ、雰囲気も抜群で、この旅行一番のレストランだった。

両替するためにこれまたロンリープラネット(頼りすぎ!)で、レートがいいという店を訪ねていったら、インド人が経営する本屋さんを兼ねた店だった。入っていったらなんだか剣呑な雰囲気で、私たちが両替するかしないか迷っている時に、インド人同士でつかみ合いの喧嘩が始まりそうだった。実際、食って掛かられている両替屋の男は強化プラスチックで囲まれたブースに入っていたので、つかまれることはなかった。と思ったら、男はブースを素手で突き破り、実は彼はルトガー・ハウアーだった、ってことはもちろんなかったけど、なんか雰囲気のある町なのであった。