「この地球を受け継ぐ者へ」

冒険したくなる旅日記

「この地球を受け継ぐ者へ」 石川直樹 (2001年)


北極から南極までを人力で旅するP2P(Pole to Pole)というプロジェクトが2000年に行われた。世界各国から8人の若者が参加メンバーとして選ばれ、日本代表として参加したのが石川直樹。この本は、おもにその旅の様子をつづった日記から構成されている。日記がそのまま書かれているだけだと飽きてしまうかもなあ、と思ったけれど、それは杞憂。最後まで一気に読んでしまった。

本の中にも書いてあるように、著者にとってこのプロジェクトは、冒険としてはそれほどハードなものではなかった。北極圏と南極圏の旅は、過酷な体験をしているけれど、それ以外の北米大陸から南米大陸を自転車で南下する行程は、どちらかというと、いかにチームで旅をするかということがテーマになっている。

日記も、各地の風土にも眼を向けつつ、仲間内の恋愛や衝突など人間関係にもスポットを当てていて、そこが飽きずに読ませるポイントになっている。また、P2Pは大々的なプロジェクトかと思いきや、実は資金的にも綱渡りの状態であることなども判明。リーダーが資金繰りに奔走したり、国を代表するヒーローのつもりで乗り込んできたメンバーがその落差に反発したり、そんな中、各地で自然環境についてのプレゼンテーションを行うため、ハードなスケジュールをこなさなければならなかったり…。なかなか一筋縄ではいかない「チーム旅行」となる。

そんな旅を、著者はつとめて冷静な視線で観察し、若いながら(当時、著者は23歳くらいだろう)落ち着いた日記をまとめている。実際の日記に書かれた手描きの文字が表紙のデザインに使われているのだけど、本文の内容とほとんど違わないことにも驚いた。旅の道中、リアルタイムでこれほど落ち着いた文章をまとめているとは。

同時に、普通の若者らしい感覚も持ち合わせている。自らの考えや好みも、さらりと書きこまれている。地味だけどすごいやつ。そんな印象を持つ。地味なんて言ったら失礼だけど、奇をてらうわけでなく、できるだけ自分の感覚で物事を見つめて、できるだけ自分の言葉で文章にする。そんな旅行記を読むと、読んでるほうも旅に出たくなる。それはたぶん、その旅を追体験したいというのではなくて、自分の感覚で世界を見てみたい、自分ならではの発見をしてみたい。そんな気持ちが刺激されるからなのだろう。

ちなみに、Fは冒険心のほうに刺激を受けたようだ。「厳しい自然の中にいると、人間の本来の感覚が呼び起こされる」そんなふうに書いてあった文章に共感し、自分も冒険がしたくなったという。もっともメンバー同士の恋の行方も気になっているみたいだけど。(T)

(2011.6.25)