シュノーケリング

その2 ピジョンアイランド

トリンコマリーに行った理由のひとつは、ピジョンアイランドという島でシュノーケルリングをしたかったからだった。

朝、トリンコの街からバスに乗って約40分、ニラベリという村に向かう。ここのビーチから対岸にあるピジョンアイランドへボートが出ているのだ。

バスの進みが遅く、ようやくビーチに着いたのは10時半。この日の夕方には夜行列車に乗って、コロンボに戻る予定にしていた。列車の予約の確認、宿のチェックアウト、シャワーも浴びたい、などを考えると、昼にはトリンコマリーに戻らなければならない。ピジョンアイランドまではボートで10分とかからない。向こうで1時間遊んだとして、ここに戻ってくるのが12時、すぐバスに乗って帰って13時前。うーん、これでぎりぎり間に合うくらいだ。そこへきて国立公園になっているこの島への入域料と、ボート代を合わせて2人で4000円弱かかる。1時間のレジャーとしてどうなんだろうか‥‥。と、しばらく悩んでいたが、ここまで来て行かない手はないし、悩んでる時間もない。

とりあえずこれから渡る島を双眼鏡で見てみた

ビーチにあるブースで入域料を払い、ボートを頼む。「ちょっと押しとくれ」と言う船頭のおじさんといっしょに、砂浜に乗り上げているボートを、それが浮かぶくらいの水深の場所まで押していってから乗りこむ。海は青くてきれいだ。船頭のおじさんは、もうおじいさんと言っていいほどの歳かもしれないけど、その渋い顔にはいかにも海の男という感じのしわが刻まれている。モーターボートでグィーンと島に着き、ボートに積んであったフィンだけ借りると、「じゃ1時間後くらいね」と、おじさんはまた別のお客さんを乗せて帰っていった。

この小さな島には、けっこうな数の人が来ていたが、ほとんどはスリランカ人のようで外国人は少ない。さっそく潜ってみると、まだ腰くらいの水深なのに、すぐに珊瑚礁が広がっている。こんなふうにたくさんの生きている珊瑚を見たのは初めてかもしれない。空からの光が差し込んで珊瑚を照らしていて美しい。顔をつけてシュノーケリングしていると、ピチピチピチという小さな音が耳元でずっと鳴っている。これは珊瑚から発せられる音なのだろうか。

鮮やかな青い色をした小ぶりのノコギリザメがいた。先にこの島に行った人に、小さなサメがいると聞いていたから驚かなかったが、何も知らずあれを見たら怖くなって泳げなかったかもしれない。岸からすぐのほんの浅瀬なのに、いろんな魚や生き物がいて、とても楽しい。これじゃ1時間なんて少なすぎるかも‥‥と思ったが、結果的には1時間くらい浮かんでいると、疲れてきたし、体も冷えたしで、ちょうどこのくらいの時間でよかった。満足。懸念していた「貴重品どこに置いておくんだ問題」も、そのへんに置いておくということで解決した。

迎えのおじさんもいいタイミングで来ていたので、ボートに乗ったら、現地人の若者が3人ほど乗り込んできた。あれ?一緒に行くの?だったらボート代、シェアできるんじゃない?と思っていたら、近くにいた人が「彼らは政府の役人で視察に来ているんだ(だからボートに乗せていく必要がある)」と有無を言わさない状況っぽかったので、まぁしょうがない、私たちのボートにただ乗りさせてやるかと思いつつ、一緒のボートでビーチに戻った。

このふたり、政府の役人には見えないが、果たしてそうだった

ビーチにあったポリスステーションに頼んで、その裏で着替えと軽く水浴びをさせてもらい、急がなきゃとバス停に向かって歩き出そうとしたら、プップッとクラクションが鳴った。見ると車の窓から、さっきの政府の役人だという若者が顔を出した。「トリンコに戻るんだったら送るよ、乗らない?」これはきっとさっきボートに乗せてあげた恩返しであろう(違うかもしれないけど)。とにかくラッキー。遠慮なく乗せてもらうことにする。

車内で話をしたところ、彼らが環境保全局に勤めていて、今日は土曜だがこのピジョンアイランドの視察があり、今から家に帰るところだとわかった。隣に座ったその中の1人の若い女性が言うには、数年前まで続いていた内戦のときと比べたら今は平和で交通もスムーズになり、そのとき破壊された道路が今どんどん復旧工事されているらしい。「あそこに見える建物は何?」と訊ねると、あれは津波で家を失った人のための集合住宅だという。このあたりも津波で大きな被害を受けた。ちなみに彼女は今30歳で家族と暮らしているらしい。結婚は?「Not Yet」とのこと。