エキストラバージンの嘘と真実(その2)

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テイスティング経験ありです

(T)Fは昔テイスティングしたことあるんやろ。

(F)うん。B社の普通のエキストラバージンって書いてあるオリーブオイルと、NGOが作ってる有機のパレスチナの手作りって感じの高級オリーブオイル。日本の援助で作ったやつ。このふたつをブラインドテストした。

(T)それで?

(F)どっちがおいしい?って訊かれて、私はきつい香りのしない、まろやかなほうがおいしいに違いにないってと思って選んだら、それがB社のやつやった。

(T)なるほど。

(F)でもこの本を読んでわかったのは、高品質なオイルは刺激が強いっていうこと。苦味とか胡椒のようなぴりっとした刺激があるほうがいいって。

(T)しかも有効成分、体にいいとされる成分の量と、そういう刺激の味は比例するって言われてたな。

(F)オリーブオイルは健康にいいんですよ、っていうのを信じて使ってる人にとって、もしかしたら自分の使ってるオイルにはもうそんな効果はなくて、ただ油を摂ってるだけになってるかもしれんってことやな。どばどばサラダにかけて動脈硬化を防いでるつもりが、動脈硬化になりやすくなってるかもしれん。

(T)そう思うと、フレッシュな、ほんまもんのやつは味わったことはないかもしれんな。日本に来るころには時間もたってるし。

(F)絞ったはしから酸化していくって書いてあった。

(T)テイスティングもな、ストラバッジョやったっけ。具体的にどうするんかよくわからんけど、音を立てて吸い込むねんな。

(F)シュルッって。

(T)うまいな。

(F)シュルッ。で、咳き込むねんてな。

(T)それはわざとじゃなくて…

(F)シュルッ。って器官に入ってしまうってことやな。

(T)え、そういうこと? 刺激があるからちゃうん、強い香りで。それで咳き込むくらいがいいオイルやと。

(F)わからんけど。でもそのやり方がいいって言う人と、そうじゃないって言う人とがいたな。

EUの基準

(T)ちなみにさっき出たエキストラバージンの基準やけど、ヨーロッパでは遊離化したオレイン酸が0.8パーセント以下、過酸化物価が1キログラム中20ミリグラム以下。

(F)オレイン酸はいい成分やから、遊離化してないほうがいいオイル。

(T)そう。

(F)で、過酸化物価が高いやつは、要は酸化してるってことやな。

(T)そういう基準があるけど、かなり低い品質のものでもパスする基準やから、これをクリアしたからすばらしいっていう話ではないらしい。

(F)それはどこ? EU?

(T)そうEU。で、その基準かつ、テイスティングパネルによる官能試験がある。

(F)うん。

(T)ちなみに、エキストラじゃない普通のバージンオイルと認められるためには、化学的に精製されたものではなく、機械的、物理的に絞って得られたオイルじゃないとあかん。

(F)化学物質で溶解させたらあかんねんな。って基準があるけど、みんなそれ守るん?って話やな。

(T)守ってないにしろ、もう日本で売ってるオリーブオイルにはそこまでのデータが書いてないもんな。

(F)しかもそれはEUの決まりやしな、日本もいちおうIOCの…

(T)国際オリーブ委員会。

(F)それ。

(T)その基準に則ったくらいの感じでやってるっていう。でも別に罰則があるわけじゃないし、健康被害が出るようなもんじゃないから、アメリカのFDAみたいなとこも本気で調査はせえへん。

(F)言い分として、もっと危ないものがあるから優先順位が低い。

(T)名前だけの問題やろって。

(F)でもそれでオリーブオイルを生産してる良心的な農家がつぶれていくってのは、ほんまにそれ優先順位低くて大丈夫?って気ががするけどな。

メイドインイタリーの真実

(T)油の需要が高まってるから、昔は食べてなかったような油もどんどん食用にされて。

(F)綿実油とか。

(T)少しでも安い油を世界中から集めて、オリーブオイルちょっと混ぜて、イタリアに持ってきて、メイドインイタリーっていうはんこを押して輸出してる。

(F)すごいよな。マフィアも絡んでるみたいやった。あのアルパチーノの映画…

(T)ゴッドファーザー?

(F)そう、ゴッドファーザーも…

(T)オリーブオイル会社をモデルにしてるって書いてあったな。儲かるからって。それこそラベルを貼り替えて。

(F)だって食用じゃないやつのラベルを貼り替えて、食用として売ったらそら高く売れる。

(T)問題は自分の舌で気づかれへんってことやな。

(F)もうほんまに知ってる人とか、この農家は大丈夫とか、そういう基準で買うしかないってことや。

(T)うーん。

(F)大手やからって良心的なもん作ってるとは思えへん。けっこう大手でもそういうことをしてるって書いてあったし。

(T)しかも何段階も中間業者がいるから、わからへん。

(F)みんななすり付け合いやったな、うちは知らなかったって。

(T)良心的な業者が、基準に満たないとか、怪しいとかではじいてしまったオイル、その会社が却下したオイルも、結局どっかの会社に渡っていって流通していく。結局はどこかからは世の中に出てるって話で。

(F)うん。すごい世界やな。しかもコンテナに防腐剤がかけられてるっていう話もあった。防腐剤が入れものを通してしみ込んで、オイルが防腐剤の味になるみたいなことが。

(T)運び方も、ワインは樽で厳重に運ぶのに、オリーブオイルになったら急にタンカーみたいなんで運んで。同じくらい繊細なもんやのに。

(F)ワインはかなり基準が厳しくて、しっかり罰則もあるんや。

(T)そうなったのは…

(F)事件があったから。

(T)イタリアでメチルアルコールを添加して、人がいっぱい死んでんな。

(F)そう。

(T)そこから厳しくなって、おかげで品質が上がったっていう話や。オリーブオイルはその事件が起こる前のワイン業界みたいなもんだって。

オリーブの産地に行ってみたい

(T)っていう話はあるけれど、オリーブの産地はちょっと行ってみたくなった。

(F)わりと行ってるつもりやけどな。

(T)どこ行った?

(F)チュニジア、スペイン、トルコ…

(T)トルコはあんまり出てこんかったな。消費はしてるけど生産はどうなんやろ。

(F)作ってると思うで。日本にもトルコのオイルけっこう入っとった。

(T)そっか。

(F)賞も取ってたし。

(T)トルコ産も結局イタリアに持っていかれて、メイドインイタリーになってるんかもしれんけど。

(F)マグレブの方とか、スペインのやつとかは、どうしてもレベルでいうと低いってレッテルを貼られてる。

(T)うん。

(F)ランパンテ用だろ、みたいな。でもそれはこっそりイタリアに運ばれてメイドインイタリーのエキストラバージンオリーブオイルとして売られているっていう。

(T)イタリアはそのブランドでかなり稼いでるよな。

(F)そやな。

(T)パスタもなあ、おかしいと思ってたんや。日本の片隅のスーパーに、イタリア産スパゲッティがどかどか積まれてるのってどうなってるの?って。あれも小麦はイタリア製じゃないねんな。

(F)そうなってくると、作ってるのもイタリアかどうか信じられなくなってくる。