思いつき日帰り伊勢・鳥羽電車旅行(その2)

(その1はこちら)

橋を渡って内宮に入る。内宮とは天皇家の祖先と言われる天照大神(あまてらすおおみかみ)を祀っている神社。ちなみにさっき行った外宮は豊受大神(とようけおおみかみ)を祀っていて、こちらは衣食住の神だという。

そういえば外宮の敷地内を歩いているとき、四角くロープで囲まれた石に人だかりができていた。なんの説明書きもなく単なる石?に見えるのだが、周りの人の話を盗み聞きするところによると、どうやらそれがパワースポット的なものなんだそうだ。女の子がよくある神社の線香のように、そのへんの空気を頭に手で扇ぎ寄せている姿がおもしろかった。伊勢神宮には大勢の人が来ていたが、たぶんほとんどの人が一度は「パワースポット」という言葉を発するのだろうなと思った。

内宮の敷地内には杉かヒノキだろうか大木が多くてなかなかのものだ。アラスカの森とはまた一味違った神聖な感じがした。この場所にある限りこれらの木は大事にされて切られたりすることはないんだろう。ひとまわりしたら日も落ちて薄暗くなってきた。もうすぐ閉まるというのにまだまだ向かってくる人を見ながら、内宮を後にする。

さて、行きとは打って変わって、9割以上店じまいしてしまったおかげ横丁を通り抜け、最寄り駅である近鉄五十鈴川駅へと歩く。

中村町と書いてある分岐を「この辺は中村さんが多いのかなぁー。さっきも中村病院かなんかあったし、友達も中村さんやしな‥」とぼんやり通り過ぎたあと、地図を確認したら、おっと、今の分岐は左のほうに進むんだった。危ない危ない。駅は思ったより遠くあたりも暗くなってしまって、月読宮の脇を通ったときにはちょうど入り口にバリケードが置かれようとしていてこちらも店じまい。

駅に着く直前、銀河鉄道のような電車がパーッと通り過ぎ、果たしてそれが私たちの乗りたい電車であったため、コンビニすらない小さな駅で2〜30分待つことになった。暇だったのでこれから行くつもりの牡蠣の食べられるお店が開いてるかどうか、電話帳で電話番号を調べて問い合わせてみた。そしたら、「やってます」とのお返事。嬉しくなって、ここはあとで会うんやから丁寧に!と「そちらへお伺いしたいのですが、どのように行ったらよろしいでしょうか?」となんかへんなおばはんみたいな口調で聞いてしまった。お店は鳥羽駅の建物の中にあるので、電車でくればわかります、ということだった。そのあと、お店の人が「ただの小さい田舎の食堂ですけどね」と付け加えたのが気がかりだったが、それは私が丁寧すぎる口調で聞いたからあんまり高級店を期待されても困るという謙遜であろう、とそうこうしている間に電車がやってきた。

鳥羽駅では、すぐそのお店が見つかった。友達から海鮮居酒屋風と聞いていたが、それ以外に言いようがないほど、その通りの雰囲気の店であった。しかもそこ以外の店はすべて閉まっていたので、選択の余地なし。ということで迷わず入店。席に座って「牡蠣はまだありますか?」と思わずすぐ聞いてしまったのだが、「あります」との答えにほっとし、お酒の熱燗を二合頼んで、お刺身の盛り合わせと蒸し牡蠣を堪能したのだった。

ここからの選択肢は二つあり、ひとつは食事を早めに切り上げて、直通の電車で何の心配もなく乗りっぱなしで鶴橋まで帰るというもので、もうひとつは、お店でゆっくりするかわりに、終電ぎりぎりかもしれない乗り換えのある電車で帰るというものだった。ちょっと迷ったが、今いい感じにお刺身と牡蠣を食べ終えたところだし、あとはくいいいいーっと残りのお酒を飲みほして店を出れば、特急と見まごうボックスシートでラクに帰れる電車に間に合いそうだ。

それがいいよね、ということで、さっとお会計をしてお店を後にし、駅で電光掲示板をみた。が、あれ? ない。思っていた電車が表示されていない。ほろ酔いのぼんやりした頭で、駅員さんにダイヤグラムで調べてもらったところ「えーと直通は40分後くらいにしかないですよ」と言われる。ガビーン。私たちは平日のダイヤを見ていたようだった。お酒をあわてて飲み干したのはなんだったのか。

時間をつぶすため駅員さんにお願いしてもう一度改札から出してもらい、鳥羽駅前をうろつくが何もなく、目の前にあるはずの海すら真っ暗で見えず、そしてめちゃ寒い。すぐに駅に戻り、作戦会議。よく考えたらさっきの店で食べたのは蒸し牡蠣とお刺身だけで、なんだかまだお腹がすいている。あと30分あるから、恥を忍んでもう一度さっきの店に戻って、またちょっとした一品とご飯とか頼んで、ってできるよな、うーんでも恥ずかしいな、というのを行ったりきたり。結局恥を忍べず、待合室(広くて暖房が効いていたのが救い)で次の電車を待つことになったのだった。

ようやくやってきた特急と見まごうはずの電車に乗ったら、外からえらく冷風が吹いていて、窓側の席に座ることが出来ないくらい寒い。仲が悪い夫婦のように別々の席の通路側に座り、ひたすら鶴橋まで震えていた。私が思うにあれは隙間風、近鉄の普通電車は立て付けが悪いのだろう。Tが言うには、いやそうじゃなくて、この路線は外がめちゃめちゃ寒いからその冷気が入ってくんねんでとのこと。そうかなあ、と寒さのあまり反論したりして、若干険悪になりながら、最後は散々な日帰り旅行だった。

(おわり)