曜日市と写真のこと(Sousse)

朝、 雨の音で目が覚めた。激しく降っている。今日は曜日市に行こうと思っていたが、この雨ではきっと中止だろう。雨は止みそうもない。けど、このまま宿にいても時間がもったいない。次の街に移動しよう、と小降りになったときを見計らって、外に出た。路線バスでバスターミナルに向かう。道はところどころ冠水していた。バスターミナルに着くころには雨は上がっていた。そのターミナルのすぐそばが曜日市の会場で、ちらりと覗いたところ、店は出ている雰囲気だった。マーケットは開催されているみたいだ。マーケットを見て回りたいところだけど、リュックが重い。どうしよう。同行の妻が、バスターミナルの窓口で「荷物を置かせてもらえませんか」と訊ねたところ、あっさり 「いいよ」と言って、中に入れてくれた。そこには他の人の荷物も置かれており、料金は1ディナールとのこと。こういうシステムがちゃんとあるみたいだ。無理なんちゃうかと思ったけど、訊いてみるものだ。

こういうとき同行人は、躊躇がない。自分の場合だと、人に訊く前にいったいどうしたものかとひとしきり考え込んでしまう。同行人こういうことを難なくやるので助かる。と思う半面、これでは自分の感覚が刺激されないんじゃないか、ということが気になったりもする。ああどうしよっかなあ、と悩んだり途方に暮れたりする時間が、自分の感性になにか影響を与えるんじゃないだろうか。それが1人旅と2人旅の違いかもしれない。

とか、思っているうちに、同行人はさっさと荷物を預け、マーケットに向かって進む。マーケットが楽しみな彼女にとっては、そんな些細なことに躊躇してる暇はないのだ。

マーケットでは、山盛りの古着や古靴が売られていた。Made in ItaryとかFranceとか、ヨーロッパ各地から来ているものが多い。掘り出し物がないか、まさに山を掘り返すようにして探す。セーター2枚にスニーカー1足を購入。ユーズドの靴下もあって、いいのないかなと探していると、「靴下はやめとき」と同行人。人が履いた靴下は抵抗があるようだ。洗えば同じじゃないの、と個人的には思うけど。あと、下着も売られていた。うーん、これはちょっと抵抗あるかもしれない。

このマーケットの様子をフィルムカメラで写真に撮ろうとする。が、持ってる荷物が中途半端に多くて邪魔だったり、ついつい掘り出し物がないかと探してしまったりで、なかなか満足いく撮影ができない。シャッターを切っても、どこか不満が残ってしまう。

手早くシャッターを切ってしまいたいという気持ちも影響している。できるだけ自然な様子を撮りたいから、カメラを構えているこちらのことを気づかれたくない。場の空気を壊さず、いま目の前にある「この感じ」を写真に収めたい。だから素早く撮影を済まさなきゃと思う。デジカメでさっと撮って、すぐカメラをしまうという手がひとつ。でもそれだと何か礼儀正しくないような気がする。

デジカメで無限に撮ることができるというのは、フェアじゃない。その1枚にコストがかかっているということが、案外、大切だという気がしてきた。フィルムのコスト、限られたチャンスを使うというコスト、うまく撮れているかわからないというリスク、そういうものはあった方がいいように思う。高いカメラを使っているからコストがかかっている、というのはちょっと違う。撮影する1枚1枚について、コストがかかりリスクがあることが重要なのだ。撮る人と、撮られる人や物が対等であるかどうか。それが気になっている。

ひととおりマーケットを巡ると、ちょっと疲れてしまった。しかし、同行人は買い物になると疲れ知らず。カップでお湯を沸かせる電熱コイルを探してるのに見つからないと言う。宿でお茶を飲みたいのだそうだ。一緒に探すが、結局、見つからなかった。ある所にはいくらでも売っている物なのに。ユダヤ教徒だろうかひげを生やした男性が、ワゴン車の中で何かを焼いて売っている。パニーニのようなものだ。人気なのか行列ができている。あとでまた来ようと思って、いったん離れ、マーケットをひと回りする。他にも同じような店は出ていたが、どうしても気になってその店に戻ると、まだ行列していた。並んで待つことにする。同じ列に並んでいたアニメーションの仕事をしているという若者と話す。今は仕事がないから、この市場で働いているのだそうだ。イギリス人の妻がいて、自分はイギリスで暮らすためのパーミットが下りるのを待っていると言う。ほんとうなのだろか。なかなか順番が回ってこない。黒い雲が迫ってきた。また雨が降り出しそうだ。やっと順番が来て2つ受け取る。先に待っていた人が、外国人だからと順番を譲ってくれたのかもしれない。この食べものは「チャパティ」と呼ばれていた。チーズ入りもできるよと言われたが、なしでいいと言うと「チュニジアンスタイルだね」とのこと。チーズなど乳製品は、チュニジアではあまりメジャーではないようだ。

雨が降る前に、急いでバスターミナルに戻る。つもりが、途中でフルーツに目が止まり、いくつか買う。チュニジアのみかんはおいしい。それらをかかえて、次の街ケロアン行きのバスに乗った。