いざ出発
翌朝、5時。私たちに加え、2人の男がジープに乗り込んできた。1人はアダムという名のオーストラリア人で、もう1人は彼の専属ガイド兼ドライバーとのこと。アダムによれば「期間が限られているから、車を貸しきって旅行しているんだ」そうだ。この4人にジープのドライバーの男の子を入れて、合計5人を乗せたジープが、まだ暗い中、宿を出発。
ヤッラ国立公園に到着すると、私たち以外にもたくさんのジープが集まっている。あたりが明るくなった午前6時ごろ、開門と同時にみな公園内を走り始めた。レオパード(豹)がいるという情報がどこから入り、そのポイントに着くと、すでにジープが殺到して渋滞していた。たしかに少し離れた岩の上に、豹がのんびりと寝そべっている。しばらくすると豹はどこかに行ってしまったので、各ジープはドライバーのセンスで思い思いの場所を目指してふたたび移動を始める。
また別の場所で、今度はかなり近くに豹を発見。その距離20メートルくらいだろうか。わがジープはいい位置をキープしよく見える。豹を目当てにやってきたというアダムも望遠レンズで写真を取りまくっている。他のジープもまたわらわらと集まってきた。ふと、もし、いま豹がこっちに突進してきたりしたらどうなるんだろう?と思う。車は前がつかえてすぐに発進できないし、危ないんじゃないの?と心配になったけれど、豹はのんびりと寝そべっていて、狩りをする様子もない。「レオパードは2週間何も食べなくても生きられるんだよ」とアダムのガイドが言う。
その他、たくさんの孔雀(日本にもいっぱいいるとかは言いづらい)、水牛、ワニ、シカ、野豚、カメレオンやオオトカゲ、スリランカ大リス、サル、オウム、トゥーカンなど、まあまあいろんな動物を見ることができた。ジープはオフロードを走るため砂埃が舞い上がり、髪はあっという間にバッサバサのボッサボサになる。そのうえ車の振動のせいか、だんだんトイレに行きたくなってきてしまった。
「トイレ行きたい」とドライバーの男の子に告げると、しばらく走ってある地点で停まり、行って来いという。基本的に公園内では、決められた場所以外で車を降りることは許されていない。が、緊急ということで停めてくれたようだった。とはいえ、そこは見る限り何のへんてつもない場所。すなわち動物にとってもフリーな場所である。さきほど豹を見たところですが、その点大丈夫でしょうか‥‥って聞いたところでわかるはずもなく、こちらとしてもけっこう緊急なわけで、すばやく茂みに走っていって用を足す。この姿勢で襲われたらどうしよう‥‥とか考えると、出るものも出なくなりそうなので、何も考えないようにして自然の一員になった。車の方へ戻ると、私が戻ってくるのが想像以上に遅かったようで、早く、早く乗って、と皆に手招きされた。
海辺のエリアで休憩。ここにはかつてレストランなどの施設があったらしいが、津波で流されてしまったという。サファリに来ていた日本人の旅行者も17人が犠牲になったそうだ。日本人が建てたという津波の高さをモチーフにしたモニュメントが置かれていた。「津波では、動物は1匹も死ななかった」とアダムのガイドが言う。
津波で残った土台と若きドライバー君
海辺だと言うことはすっかり忘れていた
午前中いっぱいのツアーもだんだん架橋に入ってきた。でもまだ象を1匹も見ていない。「象って見られないのかなぁ、私たちは象が見たいと思っていたんだけど‥‥」と話すと、アダムとガイドが「この公園にも象はいるけど、午前中は見るのが難しい」と言う。へ? 朝と夕の2回くらい水場へやってくるその時を逃すと、なかなか見られないのだそうだ。なんと、そうだったのか。スリランカと言えば象、と思っていたのでちょっとがっかりしてしまった。うーむ、そんなこと宿の主人は一言も言っていなかったぞ。
このヤッラ国立公園の他に、もうひとつブンドゥラという小ぶりな国立公園があり、実はそっちが穴場的にけっこういいと旅行書には書かれていた。そのことを昨日宿の主人に言ってみたのだが、彼がヤッラの方が断然いいと勧めるので、こっちにしたのだった。しかし象が見れないなら、それを先に言って欲しかった。もしかしたらブンドゥラのほうが確実に象を見られたのかもしれない。「キャンディの寺には象がいるから、そこで見たらいい」とかアダムは言うけど、それとこれとは全然違う気がする。「ちなみにスリランカ人はシカを見にサファリに来るんだぜ」とガイドが言う。シカが珍しい?
ていうか、そんなこと言われても残念さは癒されない。と、訪れた水場でドライバーが指す方向を見ると、なんと、茂みの奥から象の群れが歩いてくるではないか! ドライバーの男の子は、さっきすれ違う車のドライバーとなにやら言葉を交わしていたが、象の居場所を探してくれていたらしい。ドライバーの腕のおかげか私たちがラッキーなのかはわからないが、緑に囲まれた池に向かって、象がゆっくりと歩みを進める姿は感動的だった。鳥や水牛その他の動物も勢ぞろいし、水面がきらきら輝いて美しい。そのあともう1箇所、別の水場でも、象の親子が水浴びをしている場所にも連れて行ってくれた。
このドライバーの男の子はめちゃくちゃ目がよく、ジープを走らせながら、さっと車を停めては、木の上にいる鳥や、地面を這うトカゲなどを指差して教えてくれた。まだこの仕事を始めて8ヶ月だそうだが、なかなかの腕前だ。サファリを終了し、満足して宿に戻る。チップをやれと偉そうに言う例のサイババ似の主人には閉口したが、それはさておきドライバーの男の子はチップをはずんであげるに値するグッドジョブだった。