鉄道と腹痛

「それか、鉄道で行くかやな」

Tがガイドブックを見ながら言った。その島に鉄道が通ってないなら諦めがつくが、少しでもローカル列車が走っていると乗りたくなってしまうのが、鉄ちゃん(なのか?)というもの。ちょっと情報が少ないためトリッキーなルートにはなるが、それこそ旅の醍醐味というやつだろう。

朝7時にコタキナバルの宿を出て、バスターミナルへ行き、ミニバンに乗って駅へ向かう。駅にはすでに列車が入っていた。乗りこむと、一両の真ん中半分ずつで、席の向きが違っている。見回すと先に座っているお客さんたちは、ほぼ全員同じ向きに座っている。私も列車の進行方向向きに座りたい派なので、大勢にしたがって座ろうとしたら、Tが「進行方向は逆のはずや」という。私が「でもみんなこっち向きに座ってるやん」と反論すると、「こっちの人は(進む)向きなんて気にしてないで」と問題発言。疑いながらも、誰も座っていない、みんなと逆向きの席に座って出発を待った。

結果、やはりみなさんが正解。郷に入れば郷に従えというか、マレーシア人だって、空いてるなら進行方向向きに座りたいでしょやっぱ、っていうか、Tのやたら自信満々はどっから来たのか。

列車はローカル色が薄く、新しい車両であり、窓が大きくガラスが入ってないみたいに透明で、冷房がガンガンに効いていた。途中の駅でも物売りなんかは誰も来ず、ただなめらかに静かに線路を滑っていった。駅舎や車窓も、とりたててどうってこともなく、ただ寒かった。そしておなかが痛くなってきた。

先に私がトイレに入り(トイレもきれいなのはよかった)、続いてTが入り……。目的地のビューフォート駅に着いたら、私はすぐさま駅のトイレに駆けこもうとしたのだが、「男」と「女」のマレー語を覚えていなかったため、どっちに入っていいかわからない。Tにガイドブックで調べてもらっているうちに女性が1人入っていったので、こっちが女子かと飛び込んだのはよかったが、その女性が先に入ってしまったために再び待つはめになってしまった。

何はともあれ、わりと持ち直して、Tの元へ戻ると、めちゃめちゃ調子悪そうな様子で「俺もトイレ行ってくるわ」。そしてトイレから戻ると顔面蒼白……あらららー。昨日の夜、市場で買って食べたカットフルーツがあかんかったかもな~、とベンチに倒れこむように横になっているTを見ながら思う。駅には少しだけ日本語ができる駅員さんがおり、心配して薬を買ってきてくれたのだが、そこはなんかへんなこだわりのあるT、「いや、こういう時は薬飲まん方がいい」、とか言ってせっかくの好意を無にするのだった。