思いつき伊勢・鳥羽日帰り電車旅行(その1)

(その2はこちら)

知人がフェイスブックに殻付き牡蠣を食べている写真を載せていた。鳥羽の牡蠣とのことで、おいしそうなのはもちろん、値段を聞くとやたら安い。やっぱり産地は安いのか、と思うと、すっかり食べに行きたくなってしまった。その写真の牡蠣を食べた場所を聞き、インターネットでも調べてたぶんここだろう、という店の名前もチェックしておいた。

しばらく風邪を引いて寝込んでいたのが治った週末の朝、伊勢・鳥羽まで日帰りで行くことを決めた。電車で行く。片道のみ半額になる近鉄特急のカップルプランっていう切符があって、今思えばそれが途中下車も出来て良かったんだけれども、始発~朝7時台の特急限定とあってすでに遅いし、そもそも前日までに予約しなければならない。行き当たりばったりユニットの私たちには無理な相談だった。出来ることといえば、金券ショップで株主優待乗車券を買うことくらい。これだと普通電車にしか乗れないし、定価とそれほど値段が違うわけではないけど、まぁいいだろう。

近鉄電車に乗るべく、鶴橋でJRから乗り換え。と、目的の直通快速急行はちょうど出たところだった。次の乗り換えが多くあまり嬉しくない電車までに、まだ20分くらい時間あったので、昼食に駅のうどんを食べてみることにする。冬はこういう楽しみがある。たかだか220円のかけうどんで、なんかほっこりして、まだ近場にいるのに「あぁ旅行だなぁ」としみじみ感じ入ったりする。この店は、うどんもそばも麺にコシがあって、出汁も化学調味料の味が前面に出ておらず、薄味でおいしかった。近鉄はほんとにめったに乗らないので、この駅ナカ麺どころに出会えたのは貴重な体験だったといえよう。

一本で行ける快速急行を逃してしまったので、急行や普通電車を乗り換えながら大阪、奈良、三重へと進む。そもそもこの路線は伊勢参りのために作られた鉄道なのだろう。途中、県境の峠で雪が降ってきてなんだか遠くへ来た気がする。でも山を越えるとまたぽかぽか陽気になったりもした。名張のあたりは広い盆地に田んぼが広がっている。内陸にぽっかりと町があると、桃源郷とまではいかないけど、外の世界から独立しているようなそんな雰囲気がある。向かいの席に座っていたおじいさんはオシャレなスーツで決めていて、同窓会にでも行くのだろうか。補聴器を外すと、途中の駅で降りていった。

近鉄伊勢市駅に14時半くらいに到着。

今回の目的は第1に牡蠣、第2に生赤福、第3に伊勢神宮。思いつきで決めたため出発時刻が遅く、そのうえ日帰りなので時間的に制約がある。牡蠣についてはその店が夜もやっているかどうかは定かでなく、赤福本店の営業時間は17時まで、伊勢神宮は18時まで。

着いた時間がすでに14時半くらいだったので、牡蠣は夜に回すとして、伊勢神宮(外宮、内宮)と赤福との優先順位のせめぎ合いとなる。外宮と内宮は5kmほど離れていてバスが出ているらしいが、たった5kmの距離に足元見価格?の410円とのことだったから、ここは歩いて移動するとして1時間はかかる。赤福本店のある内宮の方だけでいっか……

と思って、近鉄伊勢市駅の改札で駅員のおじさんに、内宮はここから行けないんですか?と聞いたら「まぁほんまは、まず外宮、次に内宮という参拝の順番があるんやけどね」と言われ、外宮も行かないとバチあたりな気がしてきた。Tも、どちらかといえば見たいのは外宮やな、とか横で言い出して、ここは赤福食べたい一点張りでは格好がつかない。

ということで、外宮から参ることにする。

敷地に入ってすぐのところに、ぴかぴかの建物「せんぐう館」があった。ここは何を展示してるんですか?と受付の人に聞くと、つまりは20年に一度の遷宮を記念してみんなもっと勉強しようよ、遷宮ってなにかってこと、をモットーにしたかどうかはわからんけど、まあそういう博物館みたいなところだということだった。遷宮とは、要は神社の建て替えである、っていうことも、ここに来て初めて知った。

この「せんぐう館」での圧巻は、原寸大の正殿の一部が間近に見られることだろうか。実際の正殿は一般人は立ち入り出来ない場所に建てられていて、ほとんど見えないことから、ここでじっくり観察できて得した感があった。職員の人による説明トークによると、これはレプリカではなく、技術を後世に残す目的で、実際の宮大工が実際と同じ工法で作ったものだそうだ。遷宮は、今の社と同じ物をそっくりそのまま隣の敷地に立て直すのだが、古くなった社は取り壊され、その材料は他の神社にリユースされるのだそうだ。

外宮をお参りしたあと、内宮に向かって歩き始める。地図上で最短距離の大通りを行く。細い道のほうが面白そうだが、むやみにルートが膨らんでしまう。今は赤福のため、もとい内宮参拝のため、最短距離をとった。確かに面白い道でもなかったが、歩道があって歩きやすかった。途中で唐突にインドネパール料理屋があったのが唯一の見どころ。

小1時間歩いたところで、観光客の姿が急に増え出した。ここまでの外宮から内宮への道では、人っ子一人歩いてなかったのに。みんな車やバスで来ているということだろう。時計を見るともう16時を回っていて、人々はおかげ横丁と呼ばれる内宮までの参道(嵐山と馬籠を足して2で割らなかったような通り)を、これでもかという数の赤福の箱をぶらさげて歩いていらっしゃる。

私たちはその波に逆らう方向に、ひたすら赤福を目指して歩いていた。……はずだったのだが「今は雨水です」という風流な張り紙に心惹かれて、ふらふらと1軒の茶屋に入ってしまった。美味しそうな季節のお菓子とお茶がセットで500円。お菓子の選択肢にはなんと赤福もあったのだが、ふと「赤福は大阪でも買えるのでは?」と悪魔のささやきが聞こえ、それならばここでしか味わえなそうな、この「菜の花」という名前の和菓子がどうしても食べたい気がしてきた。もうひとつ食べたいと思った「椿餅」はTに推奨してシェアすることに。和菓子はふつうにおいしかった。でも、あぁ‥ここは三重県の観光地、煎茶がそんなに美味しいと期待した私が悪うございました。せめて抹茶にしておけばよかった‥と後悔先に立たず‥。

なんか無駄な買い物をした気がして、がっくりと店を出たら、なんと、隣が赤福本店だった。すぐそこまで来ていたのに、と2度がっくり。でもここで食べないとせっかく来た意味がない、とにぎわう店内へ。さすがに今隣で和菓子を食べたばかりなので、ここは一皿を二人で分けようということになった。しかし赤福はえらい。そんな二人で一皿、なんて器の小さい私たちにもおいしいほうじ茶を2杯ずつもくだすったのです!! 人はこうやって宗教にはまっていくのかもしれない。そして赤福は作りたてに限る。お餅の柔らかさが尋常じゃない、って褒めすぎかな? 誰かのお土産にもらった赤福は、やっぱり時間が経っているのでお餅が硬いのだ。ふとさっき私たちが入った隣の茶屋と、ここ赤福で働いている人の制服がうりふたつなことに気がつく。っていうか庭もつながってない? これってどういうこと…かは謎だった。