夜の語り部(その2)

アメリカで後ろから声がかからない話

(T)その人の話、おもしろかったな。

(F)アメリカ行った人? それかな、私もおもしろいって思った人……そやわ、値切るっていう話よな。

(T)そうそう。アメリカに行っても値切ろうとしてんな。

(F)値切ったんや、実際。

(T)「アメリカのバザールは一つの家に入ってるんだ」

(F)デパートのこと?

(T)そう。そのデパートでジャケット買おうとして、店のお姉さんにこれはいくら?って聞く。「50ドル」って言われたから、「わかった、じゃあ20ドルでどうだ」

(F)でも当たり前やけど、アメリカではそんなことしてくれへんから、この人はあほなんちゃうかと思われて「5と0で50よ」みたいなこと言われて。

(T)「ゴ。ゼロ。」ってゆっくり言うように。

(F)それでもまだ彼は信じられず。

(T)「じゃあわかった、30ドル」「これで最後だ35ドル」とか言って。

(F)そう。

(T)そこまで言って、背を向けて帰ろうとする。で、普通やったら店の人が呼び止めてくれるはずやけど、誰も呼び止めてくれへんかってんな。

(F)彼はそういうやり方をお父さんからの教えられてた。交渉して帰ろうとするとき、振り向いてはいけない。

(T)振り向かずに帰ろうとしたら、自然と後ろから声がかかるはずだ。

(F)それは聖書にも書いてあるだろ、っていうお父さんからの忠告で。書いてるわけないよな、聖書には。いや書いてるんかな。キリストの聖書ってことよな?

(T)うーん、そこまで深い意味じゃないかもしれんけど。でも向こうの人もそういうことを教わるねんなあと思った。

(F)うん、筋金入りよな。

(T)そう。

(F)帰るふりをするのは普通やねんなー。自分も現地で買い物をするとき、今まではなんかすごくこう良心が痛む感じで、「私ってひどいよな」とか思いながらもそういうことやってたけど。ええんやあれは。マナーになってるくらいやな。

(T)代々お父さんから教わるようなことで、向こうの人にとっては普通のことなんやろな。

その人自身の人生の話がおもしろい

(T)この人は自分のリアルな話をしたんやな。他の人は聞いた物語を話す人もいたり、いろいろやったけど。

(F)うん。

(T)結局その人のリアルな話がおもしろいのかもしれん。誰かが作り話を話そうとしてたら、「それよりお前さん自身の話がおもしろいじゃないか」みたいなこと言われて、その人の人生の話をすることになったシーンもあった。

(F)みんな話好きよな。

(T)せやな。いきなり話してって言われて、あれだけの話をできるわけやから。

(F)みんな持ちネタがある。

(T)周りもわりと厳しいしな、その話はもう知ってるよとか。

(F)話長い人は、聞いてる人が寝てしまったり。

(T)ラジオが出始めた時代やってんな。

(F)そのラジオからは政治的な演説とかが流れて。

(T)ラジオができたら、みんなそんなことを聞くようになってしまったって書いてあった。

(F)なんか古き良き時代やねんな。クーデターとかいっぱいあったと言ってたけど。

(T)それでも普通の生活には影響なかったんかもしれんな。

字が消えてた?

(F)あとは字が消えてたのがびっくりした。

(T)ああ、本の状態が。印刷のときに失敗したんやろな。何かがはさがったんちゃう?

(F)はさがった? はさまった?

(T)はさまった。

(F)字が消えてるとか、そういうのあんまり見たことがなかった。

(T)珍しいな。乱丁はお取り替えします、に該当しそう。

(F)自分の本やったらよろこんで送り返しとったけど、図書館のやから。

(T)それ、おばちゃんと一緒やんか。

(F)うれしいやん、なんか。当たるみたいで。

(T)落語のつかみの話にあったよ。○○さん、何か入ってる!ラッキーやん!替えてもらえるやん!みたいな。

(F)なにそれ?

(T)レストランで、料理に髪の毛が入ってることに気がついて「よかったなー!」って。

(F)そんなん、ちゃう。

(T)「しっかり食べてから替えてもらい!」

(F)私も全部読んでから替えてもらえって?

(T)(笑)

話すことと、聞くことの大切さ

(T)まあこの本のメッセージとしては、話すことの大事さと同時に、聞くことの大切さや。

(F)うーん。

(T)問題はサリムはわざとやったのか、ほんとにしゃべれなくなったのか。

(F)そら、ほんまにしゃべれんくなったんやろ。……え、わざとやと思ったん?

(T)どうかな。

(F)えー、なにその「おれ知ってる」みたいな口ぶり。

(T)少年がちょっとほのめかしてなかった? サリムがほんとにそうなったのかはどうかはわからない。サリムが言ってた話をそのまま真に受けただけだから。みたいなことが書いとったやん。

(F)うーん。

(T)サリムはこれまでずっと自分は話をしてきたけど、仲間からの話は聞いてこなかった訳やん。

(F)うん。

(T)このまま自分がずっとしゃべり手やとしたら、彼らはずっと自分の話をしないまま終わってしまうっていうか、一生語らないままかもしれん。

(F)そうやな。

(T)だから、もしサリム自身がしゃべれなくなったことにしたら、みんながしゃべらなあかんくなるわけやん。で、実際、みんなしゃべってくれて、みんなそれぞれおもしろい話を持ってたと。

(F)そんなこと全然思わんかった。

(T)それが合ってるかはわからんけど、そういうことじゃないかなーと思って。

(F)私は最後サリムが「こんな話を聞いたのは初めてだ」って、ついに口を開いたところを3回くらい読んでから「え、ああ!しゃべってる」と思って。そのしゃべったところの下りが地味に書かれてるのが好きやった。

(T)ああ。

(F)一瞬見逃しそうなくらい。

(T)最後は女の人が話してんな。

(F)誰かの奥さん。

(T)最初はみんなわりと、「女なんて」みたいな感じやったけど、話しだすと、奥さんの話はなかなかすごかった。

(F)その人のお母さんが魔女みたいな変わった人やという話。お母さん最後はいなくなってしまった。

(T)実話としての話やった。

(F)旦那も知らなかった話。

装丁もアラブの雰囲気

(F)装丁もすごくいいよな。

(T)そうやな。

(F)かわいい。ビブリオバトルでこの本を紹介しはった人も言うとったけど、この本を読んで語りみたいなことにすごく興味を持ったって。

(T)うん。

(F)声で話を聞かせることに興味を持って、これからやっていきたいって。それも語り部みたいに話すってことに影響を受けてるんかな。本を目で読むだけじゃなくて。

(T)そうやな。でも、この本の中には、それを書物で残すってことも大事だとも書いてあった。「書物は声の影ではなくて、跡なのだ」「ある人の声が時代を超えて流れる、神々のように永遠に生きられるようにしてくれるのは書物だけだ」

(F)うーん。ラフィクシャミえらい。

(T)ケバブ屋の呼び込みの声とかも書いてあっておもしろかった。「ウチの肉は歯がなくても食べられるよ」

(F)ああ、せやな。

(T)肉が柔かいことをそんな言い方で言ってて。呼び込みでああいうこと言ってるねんな。

(F)私ら観光客として行くと、呼び込みうるさいなとか思うけど、ふつうに誰に対してでも言ってるんやな。でも、なんかサリムは食欲なくしとったよな。

(T)肉がおいしくなかったんやった? 新鮮じゃなかった?

(F)その店で何かを見たんや。頭?羊の頭がごろんと転がしてあったんやった?

(T)不衛生やったんやろな。そういうのも店によって違うねんな。きれいにしてる店もあればきたない店もあったりして。

(F)現地の人もそう思うねんな。

(T)ここはあかんみたいな。

(F)その店では、無理矢理食べたって書いてあったもんな。

(T)本には茄子の料理も出てきたよな。

(F)あれどうやってでてきたんやっけ?奥さんが作る茄子のなんとかが最高にうまいみたいな話やった?

(T)アメリカに移民してた人の奥さんは集まりにはなんか持っていかなあかんやろみたいなこと言って。それが茄子やったかな。

これ読んでたらシリアに行ってみたかもしれん

(F)シリアの話やねんな。

(T)いま戦争してるシリア。

(F)行ってみたかったな。これ読んどったら行ってみたかもしれん。

(T)前に?

(F)うん。印象がなかったから、シリアって。

(T)なかったな。

(F)もうちょっと胡散臭いかなと思ってたけど、あんな雰囲気があるところとはなあ。

(終わります)