愛と憎しみの豚(その2)
ドバイの塔はいくらするんかな?
(F)で、イスラエル。
(T)の前に、ドバイの塔もおれは気になった。
(F)ほんまー? どこらへんが?
(T)やっぱ、ああいう高いところは上った方がいいんかなあと思って。
(F)あの話自体は豚と関係なかったよなあ。
(T)なかった。トランジットで行ったっていうことやな。
(F)わりと行ったところ全部入れる(笑)
(T)この前台湾に行ったとき、やっぱり「台北101」上ったらよかったかなと思って。
(F)えー。ドバイの塔はいくらするんやろな。1500円以上する?
(T)するんちゃう。もっとしそうやで。
(F)3000円とかするんかな?
(T)どうやろ。
(F)でもここは世界一のタワーやろ。台北101は別に何にも世界一じゃないやろ?
(T)えー、世界一のナントカちゃうん?
(F)世界一かなあ?
(T)アベノハルカスは日本一のビルやろ。そういう感じで。あ、世界一のビルなんちゃう?101は。
(F)わからん。
(T)じゃあアジアで一番かもしれん。
(F)もしそういうナントカで一番やったら上ってもよかったかなと思うけど。
(T)ちゃう、そういういう問題じゃない。
(F)ちゃうの?
(T)体験としてや。
(F)ふーん……
発見が置いてある
(T)まあいいや。それを体験させてもらったということや、この本で。
(F)もう塔は上らんでいいってこと?
(T)うん、まあ……いや、でもおれが行ったらどう思うかなっていうのはある。それがあーさんの文章の特徴でさ、自分が行ったらどうなんかな?っていうのがだんだん気になってきて。
(F)うん。
(T)旅行に行きたくなる感じがする。
(F)ああー、そうやな。そういうふうに仕向けてるわけじゃないんやろけどなあ。
(T)いや、仕向けてるとも言えるかもしれん。
(F)なんか、余白を残すってこと?
(T)そうそう。自分で何かを見つけたとか発見したとかいうことを、わざわざ「発見した」とは書いてないねん。
(F)うん。
(T)そうだったのか!わかった!みたいなことは書いてなくて、それをそのまま置いてあるというか。
(F)うーん。
(T)だから読んでいく人は自分でそれを見つけていくことができる、読みながら。
(F)ふーん、深いね。
(T)そう。
(F)私すぐ言っちゃうわ、答えを。
(T)おれもすぐ発見を書いたりしてしまうけど。あーさんは違うなと。
(F)なるほどな。
シャクシューカの謎が解けた!
(F)ほんで、ドバイからイスラエル?
(T)まずチュニジアに行ったんやったかな。……まあもう時系列忘れて、印象に残ったことからしゃべりーや(笑)
(F)イスラエルで、友達が作ったシャクシューカを食べとったやろ。
(T)ああ、イスラエル料理やってんな、あれ。
(F)なあ! うちらチュニジアで食べたやん。で「これ何の料理?」って聞いたら「シャクシューカ」みたいに言われて、シャクシューカ? でもそんな料理、チュニジアの本に載ってないよなって思っててんな。
(T)そうやった。
(F)だからこの本ではっきり文字で「シャクシューカ」って書いてあるのを見て、まさにこれや!って思って。どんな料理かもちゃんと書いてあったし。
(T)チュニジアに詳しそうな日本人の人も、何ですかそれ?みたいな反応で。
(F)そうそうそう。ナントカの間違いじゃないですか、みたいな感じで。そういうこともあったから自信をなくしとってんけど、やっぱりあれ……
(T)間違ってなかってんなあ。
(F)ほんで、それを作ってた人がヒゲもじゃやってんな、帽子かぶって。
(T)うん。
(F)ちょっと雰囲気ちゃうな人やなと思ったけど、あれ実はユダヤ人やったんかなっていう。
(T)そうそう。
(F)その謎が解けてよかった。シャクシューカ、なんとも言えず、おいしかったよなー。
(T)おいしかった。どういう料理やったかというと……
(F)なんかトマト煮込み。ハヤシライスのルウみたいな感じもあり、ラタトゥイユみたいな感じもあり。
(T)オリーブオイルが結構入ってて。あと卵も入れてたな。
(F)シャカシャカシャカってすごい音たてて混ぜるねんな。この本のやつは卵入ってたかはわからんけど。
イスラエルに興味出てきた?
(F)イスラエルはうちら二人とも行ってないから謎やったけど。
(T)興味出てきた?
(F)うーん。キブツって言葉はよく出てきてて聞いたことはあったけど、そのキブツが今どんな感じなんかっていうのが書いてあって。
(T)キブツってどんなもんやと思ってたん?
(F)ボランティア施設みたいな? 国を挙げてのボランティアシステムみたいなものかと思っててん。
(T)ああ。
(F)なぜかイスラエル人は働かず外国人が奉仕をするっていうシステムやと思ってたから。なんでわざわざイスラエル人のために外国人がボランティアしに行くんやろって思って。私はいいわと思って。
(T)それが読んでみたら……
(F)コミュニティやんな。
(T)そやったな。
(F)でも今では武器も作ってるとか。
(T)もともとはお金を使わないみたいな、
(F)共産主義みたいな感じの、
(T)そういうものやったけど、今では現金収入を得るようになってきてるという。
(F)みんながみんなユダヤ教徒ってわけでもないねんな、キブツは。
(T)ユダヤ教関係ないんちゃう? 本に出てきた人も無宗教やって言ってたで。
(F)このあーさんが行ったキブツはそうやっただけなんかなと思って。
(T)キブツっていっぱいあんの?
(F)そやで。数あるキブツの中のひとつって書いてあった。ただ単にコミュニティって感じやろ。
(T)そっか。
(F)だからいろんな特徴があるんかなと思って。ここはけっこうユダヤ教徒が多いとかさ。
(T)なるほど。
(F)っていうふうに多少興味出てきたけど、やっぱりまだ別に行ってみたいとは思わへんな。あーさんのこの本で十分かな、イスラエルは。どう?
(T)まあ行ったことないから行ってみたいと思うけど。それこそ自分で体験してみたい感じがする。
(F)でもパスポートとかめんどくさいからな。
(T)それはたいした問題じゃないと思うけど。
気がついたら、何がおいしそうかばっかり気にしてる
(F)ユダヤ教は海老とか甲殻類は禁止やねんな。
(T)って、書いとったっけ?
(F)ユダヤ教で食べたあかんものっていう中に、海老などの甲殻類も、
(T)入っとったか。じゃあおれみたいな甲殻アレルギーの人、おらんよな。
(F)おらん?
(T)食べんかったらわからへんやん。
(F)まあな。
(T)ミルクもな。ミルクで煮たらあかんとか、乳製品を肉といっしょに食べたらあかんとか。
(F)何時間か置いたらもう消化されてるからいいとか、何かへんやったな。コーシェルって言うんやった?
(T)うん。
(F)イスラムのハラルといっしょで、屠殺の仕方とかも決まってたり。
(T)……で、忘れがちやけど、テーマは豚や。
(F)そうそう。
(T)豚を追って、豚を巡って、あーさんはそういうところに行ったんや。
(F)うん。
(T)そういう豚にとって特殊な国とか、豚が特別扱いされてそうな国を目指して旅して行ったんやな。
(F)そういうことか。
(T)ユダヤ教も豚は食べへんねんやろ。イスラム教も食べへんくて。
(F)うん。
(T)そういう国でどうなってるかっていう話やな。
(F)そこの視点はもう勝手に入ってくるから、読んでてあんまり意識してないな。私は気がついたら、何がおいしそうとかばっかり気にしてる(笑)
(T)それも狙いやったりして。まあ豚っていう目標があってそれを巡って行くんやけど、その周りにくっついてくるものがおもしろいよな。
(F)そうやな。
(T)旅しながら見えるものっていうか、出会うものっていうか。その過程がおもしろい。
無言でガムがかっこいい
(F)チュニジアでチキンシャワルマを食べるときにな、オリーブをいっぱい入れてもらった、って書いててん。
(T)それをいいなと思ったん? 私もそうすればよかったって?
(F)やっぱりオリーブおいしかったなあと思って、チュニジアは。
(T)ああ、おいしかったな。オリーブは豊富にあったしな。
(F)うちらとけっこう近い時期にあーさんがチュニジア行ってたっていうのも、へーと思った。
(T)オリーブはあーさんも褒めとったよな、会話の中で。
(F)あとバスに乗って、ガムをさ、無言で差し出されたやろ? 女の人から。
(T)うん。
(F)それを食べたんや、あーさんは。あれ危険よな?
(T)いやー、あの場面は大丈夫やろ、チュニジアやし。あーさんぐらいやったら、危険なガムかどうかはわかるんちゃう。
(F)あ、そう? クッキー食べた人がよう言うなあ(注:Tはペルーのバスで、たぶん睡眠薬入りのクッキーをもらって食べた経験がある)。
(T)だってサングラスかけたお姉さんやろ?
(F)うん。でもちょっとかっこいいなとも思って。
(T)無言でガム差し出してきて。
(F)そう。あーさんもサングラスで、無言で出されたガムを無言で食べて。「英語?フランス語?」って聞かれたから「英語」って答えて、っていうこの会話。
(T)やってみたら? ガム差し出す人になったらいいんちゃう。
(F)えー、日本で!?……とにかくこのシーンはちょっとかっこよかった。
(その3に続きます)