ボルネオといえば、ジャングル。ジャングルといえば、ヒル(leech)である。ヒルといえば、血を吸う、血を吸われたら火のついているタバコを押し付ける、これが私たちの認識だった。
しかしながら、ある情報によると、タバコの火を押し付けたりしてヒルを無理やりひっぺがそうとすると、皮膚から離れるときに歯というか、そういった何かが皮膚に残ってしまってよろしくない、とあった。それに対抗するには、オーバーソックスを履いて予防しよう、ということだった。なんとも地味な対策。まあヒルは血を吸うが、しつこくかゆかったりする以外の害はなく、血さえ吸われなければかわいいものなのだそうだ。
あるボルネオの動物研究者が、この「ヒルよけソックス」の作り方をガイドブックに載せていたので、さっそく作ってみた。出来たものは、サンタクロースにプレゼントを入れてもらうのに違いないソックスだった。こんなものをわざわざ持っていって装着している旅行者がどれだけいるか、と想像するに、たぶん全然いないんじゃないかな、恥ずかしいな、却下。ということで、普通の大きめの靴下を持っていって、ズボンのすそインする法を採択した。
ムル国立公園に行く前に、キナバル山国立公園でも、さっそうとズボンのすそインでトレッキングにのぞんだ我々。そのおかげでヒルの被害はなし、……というか、ヒルの姿はまったく見掛けもしなかった。だいたいワンピースにショルダーバックで来ている人がいる横で、スボンのすそインて。どうなんやろ。
ムル国立公園は、さすがにジャングル度が高く、これは!ヒル出るな、と意気込んだが、ガイドしてくれる国立公園スタッフが、いきなり半そでに半パン姿だった。それを見て私たちもズボンのすそインはさすがに様子見したが、長袖長ズボンの時点ですでにちょっと浮いていたくらいだ。欧米人にいたっては、ビーチサンダルの輩もいるほどだった。むしろ一匹くらいヒルに出会って帰りたい、とすら思いながらトレッキングしていたが、果たしてヒルはどこぞに。入念な対策は杞憂に終わったのだった。
ここまでヒルって何?ってなると、リュックの奥に忍ばせてきた最終兵器「塩をガーゼで包んだものを割り箸の先につけたもの」(なめくじ除け的効果が期待できるという話)にいたっては、登場の機会があるはずもなく、家に帰ると何事もなかったかのように、元の調味料入れに戻したことはいうまでもないのだった。