アーッパとコットゥ

マータラでの夜、スリランカで最初の夕飯は何にしようか?と楽しみにしながら大通りへ向かって歩く。その路地の途中で、赤い電球ひとつぶらさげた小屋が目に入った。ちらっと見ると、おばさんが何かを売っている。半円型にそり上がった薄いクレープのようなもの。おぉ、これは朝ごはんに食べようと思っていた”アーッパ”という食べ物じゃないか!へぇー、夜も売ってるんかぁ、と、ひとまずそこは通り過ぎ、宿のおじさんに教えてもらった大通りの店に行った。

まずはカリー&ライスでも食べるか、おなかも空いてるし。それとも他のものにしようか‥‥「何があるの?」と店の人に聞くと、「アーッパとコットゥ」‥‥だけ?「ザッツオール」。えぇー、もっといろいろあるかと思ったけど、メニューは2つしかないらしい。

”コットゥ”は小麦粉のクレープのようなロティを細かくして、野菜や肉と炒め合わせたもの。”そばめし”のような料理と言えばわかりやすいか。カツカツカツカツと鉄板の上でロティを切り刻む音が聞こえてくる。でもこれはまだちょっと手を出す気にはならなかった。ということで仕方ない。明日の朝の楽しみのはずだった”アーッパ”にしよう、と5、6枚頼む。

さっきの小屋で見たのと同じく半円のドームを逆さにしたようなアーッパと一緒に出てきたのは、辛くて塩辛いソースだった。えーと、おかずはそれだけ? おいしいスリランカ料理を、と意気込んだ初日にしては、あまりにも寂しい夕飯だった。しかも店内で食べているのは私たちだけで、ほかの客も来るものの、みなテイクアウトでお持ち帰りしているようだ。このアーッパやロティも、家に残ったいろんなカレーと一緒に食べるんだろうな、と思うと、うらやましくなった。

米粉で作られるアーッパは、真ん中がふわっ、縁はぱりっとしていて、発酵によるものだろうかすかな酸味が感じられる。私たちはそれをひたすらもぐもぐと食べて、初めての夕飯を不完全燃焼なまま終えた。察するに、どうやらスリランカでは、夕飯を外で食べる習慣がないようだ。夕食に関しては外食事情が良くないといえる。

ひたすらアーッパとコットゥを作り続けるおじさん

アーッパは軽すぎて夕食にならんとわかった翌日は、コットゥを試すことにした。レストランに入り注文すると、まもなく「カツカツカツカツ」と例の威勢のいい音が聞こえてきた。鉄板焼きにパフォーマンスがあるように、このカツカツも調理人によっていろいろなリズムパターンがある。しつこくやってる人、意外とあっさり終わる人などさまざまだ。

出てきたコットゥは、1人にひとつずつ頼んだことを後悔するくらいの大盛りだった。一口食べると、しょっぱーーーーい。この量を食べ終えるまでの道のりを思って、気が遠くなった。合わせて頼んだドリンク、スリランカのジンジャービア”EGB”も、ショウガ味がめちゃくちゃ効いていて、これまた別の辛さで、舌を癒すには程遠い。まったく、どんな塩加減や。私やったらこの10分の1の塩で作るわ、と憤慨しながら、7割くらい食べたところまでは覚えているが、あとは記憶があやふや。残りはTが食べてくれたらしいが、きっと早く記憶から消したかったのだろう。

この写真は、後日「塩控えめ」とお願いしてリベンジしたコットゥ@コロンボ