わざわざラブアン島に行ったわけ

マレーシア・サバ州のコタキナバルから隣国ブルネイに行くのに、鉄ちゃんルートを選んだ我々(鉄道と腹痛の回を参照)。そのルートでブルネイに行くには、途中ラブアン島というマレーシア領の島を経由することになっていた。まずいったんラブアン島まで船で渡り、そこからブルネイ行きの船に乗り換えるのである。

ラブアン島へ向かう船は10人乗りくらいのスピードボートと呼ばれる船で、船長はみうらじゅんだった。スピードボートのハンドルは車と同じようなハンドルで、小麦色の腕をしたみうらじゅんは慣れた感じの片手運転で、ザッパザッパと海を横切っていく。

ラブアン島自体には特に魅力を感じていなかった私たちは、とりあえずお昼ご飯だけ食べて、次の船を待つ間、港の周りの商店をぶらぶらしていた。ガイドブックによれば、ラブアン島はマレーシア政府が直轄しているDuty Freeの島らしい。つまり、この島で買えば税金がかからないということで、たしかに買い物袋をぶら下げた人が多い気がする。

それに気がついた私も唯一気になったビールの値段をチェックしてみると……、安いではないか! シンガポールでもコタキナバルでも高かったビールが、ここでは安い。Tは相変わらず甘いものコーナーに引き寄せられていて、私が「安っ!」とか一人で騒いでいるのには気づいていない。Tを甘いものコーナーから引っぺがして、Tiger Beerが本土に比べていかに安いかをプレゼンした。さっきまで、おなかが痛くてトイレに駆け込んでいた自分とは思えない良い出来だったようで、結果、2缶のビールをリュックに忍ばせてよい、というお達し(私が決めたんだけど)が出た。今考えてもかなり安かった。ラブアン島来た甲斐があったもんだ。わざわざラブアン島に来たのはこのためだった、と言っても過言ではない。

と、大いに満足していたけど、船の出航前にマレーシアの出国審査に並んでいるとき、急に、イスラム色の強いブルネイに果たしてアルコールを持ち込んでいいものかどうか不安になってきた。たかがビールで鞭打ち刑とかにされたらどうしよどうしよ、とTに詰め寄るが、興味なさそうでいまいち反応がない。係員の人に小声で「アルコール、OK?」と聞いたら、「1ケース以内だったらいいよ」との返事で、ほっとした。

ほっとしたついでにブルネイ行きの船の中でさっそく1缶プシュっとやったら、昼だわ船で揺れるわおつまみのピーナッツ食べ過ぎたわでちょっと酔いかけたが、Tに悟られてはいけない。船内で流れている変なアクション映画を観て平然と笑っておいた。そのロボコップみたいなB級映画が妙におもしろく感じられて……ってことはやっぱり酔っていたのかもしれない。