ピダハン(その1)

その2はこちら

今日のデザート

(T)今日はデザートじゃなくて…‥

(F)「ワイナリーでしか買えないワイン。酸化防止剤無添加のナイアガラ白ワイン」です。

(T)甘口やな。

(F)うん、デザートワインってことで。って思いながらも、さっき塩釜まんじゅうも食べたな。

(T)塩味まんじゅうです。

(F)あ、それ。でもちょっと甘過ぎた。

(T)ちなみにこのワインは、ワイン以外のコストはいっさい掛けてないから、ラベルがワープロみたいで。

(F)もうちょっと誰かデザインできる人おらんかったんかなと思うけどな。

(T)でも味はなかなかおいしい。

(F)ということで、ちょっとだけ酔っぱらってるかもしれんけど。

Don't Sleep, There Are Snakes.

(T)今日の本は「ピダハン―「言語本能」を超える文化と世界観

」です。この本を取り上げようと思ったのは……

(F)これはひとこと言っといた方がいいかなと思って。これ読んだのに何も言わないのはちょっと、やろ。

(T)まず言いたいことは…

(F)ピタパン? いや食べるパンのピタパンに見えるなと思って。

(T)それをまず言いたいと。

(F)違う。まず原題がかっこいい。

(T)言って、Say!

(F)”Don't Sleep, There are snakes.”

(T)これが英語のタイトルやな。

(F)その意味は本文読んでもらわなわからんけど。

(T)いや、それ言ってもいいんちゃう。

(F)ピダハンの人たちは、夜やからって8時間とかぐっすり眠るってことはなくて。

(T)うん。

(F)ジャングルのそのまま外みたいなとこで寝てるから、タイジャとか…

(T)ダイジャ(大蛇)?

(F)そう大蛇とか、毒ヘビ、そういう危険なものがいっぱいいるから深く眠ってはいけない。

(T)そういう教えがあるねんな。

(F)「おやすみ」っていう言葉がないらしくって。

(T)その代わりに「Don't Sleep, There are snakes」って言う。

(F)そう。それがちょっとかっこいいなと思って。

(T)「寝るなよ」みたいな。

(F)試験前に「勉強するなよ」ってお互いに言うみたいな。

(T)それって…

(F)「絶対やで、絶対やで」みたいな。言わんかった?

(T)言ったけど、それとこれとは全然スピリットが違うやろ。

(F)いや、寝たらあかんでっていう。

(T)したらあかんっていのは一緒やけど、ここは、あんたの身のためだぞ、って言ってるわけやん。

(F)まあな。

(T)試験勉強するなよっていうのは足の引っ張り合いやんか。どっちかというと「勉強しようぜ」のほうが近いやろ。

(F)そんな勉強しようぜとかいう友達、いやや。

家族を連れて行くのがすごい

(T)何のこっちゃわからんと思うから説明すると。

(F)うん。

(T)ピダハンっていうのはアマゾンの奥地の部族の名前やねんな。ピダハン族っていう人たちが今でも住んでいて。で、この本は、そのピダハンの人たちを調査した言語学者の人が書いたんやけど、その人はもともと…

(F)宣教師やってんな。

(T)そう、宣教師で、名前が…

(F)なんやっけ? あ、ダン。私の友達にもおるわ。ダニエルでダンや。

(T)宣教師として、その村に行ってんな。

(F)家族とな。ちっちゃい子供、3人か。

(T)3人もおったっけ。1人ちゃう?

(F)1人ちゃうわ、少なくとも2人はいたよ。3人いたんちゃうかな。

(T)最初からおった?

(F)最初はわからんわ、途中で生まれたってことかな。

(T)まあそれはまた読み直すとして。宣教師はよく単身赴任じゃなくて、家族連れてあんな未開の地に行くよな、と。

(F)宣教師ってもの自体があんまり日本では馴染みがないから。たまに家々を回ってる人くらいしか知らんし、あんまりいいイメージがないというか。

(T)布教してくる人とかあんまりおらへんしな。

(F)その行為自体が悪いような気がしてしまう。

(T)選挙と関係してるんちゃうかとか。

(F)で、どうなんやろと思いながら読んどったけどな。

(T)そこに家族連れて行くのがすごいなと思って。アマゾンには学者の人とかも行くやん。

(F)研究に?

(T)そう。そういう人はたいてい身ひとつで行って、まあ研究仲間がいたり取材班とかを連れて行くこともあるかもしれんけど、ふつう家族は連れていかへんわけやん。

(F)うん。

(T)家族を連れて行ったら、いざというとき逃げられへんというか。

(F)まあそれくらい長いこと行こうって思ってたってことよな。ちょっと1ヶ月ほど行ってくるわけじゃなくて。

自殺を笑う

(T)宣教師は基本はそこに移り住むっていうことやな。

(F)だって本気で、この人たちに神様のことを教えてあげなきゃ、と思ってるわけやから。

(T)それがだんだん変わってくる。

(F)そのへんが小気味良かったな。

(T)ダンは最初は説いとってんな。何で自分がキリスト教に心酔するようになったかをピダハンに聞かせようと思って、若いころ友達が自殺した話をした。

(F)うん。

(T)そうしたら、ピダハンがゲラゲラ笑ったって。自分で死ぬなんて、なんでそんなことするんだ?って。

(F)衝撃的やったな。

(T)そこ笑うとこ?って。しんみりするところやのにウケてしまった。

(F)考え方がだいぶ違う。

数がない、左右もない

(F)印象に残ったのは、ピダハンの言葉の中に「数」がないこと。

(T)なるほど。

(F)「左右」もない。ジャングルの中での位置は、川に対して自分がどこにいるかで表す。

(T)川側か山側か、みたいな言葉しかないわけや。

(F)うん。だから右に行けじゃなくて川上のほうへ行け。ダンはそう言われても川がどっちにあるかわからへんから、全然ついていけへん。

(T)その土地にいることが前提ってことやな。

(F)川の場所がわかってないなんて、ありえない。

(T)そこでしか暮らしてないから必要ないっていうか、全部それで済むんや。おもしろいな。

(F)しかも数がないっていうことは あの人はあんないいものを10個も持ってて、オレはひとつしか持ってないから、あの人がうらやましいとか、そういう感覚がないような感じ?

(T)所有欲がないかもしれんな。

(F)そして新しい技術を教えても誰もそれをやらない。

(T)できるようになってもやらない。

(F)やらない。おもしろいなあと思ったな。

(T)道具とかも貴重なはずやのに大切にせえへんとか。

(F)船を造るから道具が欲しいっていうからあげたのに、結局、船をまた買ったり。こっちの思うようには全然動いてくれないねんな。

精霊が見える

(F)あとは精霊が見える。

(T)それは他の部族の話でも聞いたことあるよな。

(F)それ以外の部分ではわり現実的っていうかさ、素直っていうか。自殺するなんておかしいわとかそういう現実的なところはあるのに、ダンには見えない精霊を、村人みんながあそこにいる!って指さしたり。そこらへんにギャップがある。

(T)精霊って何のこと言ってるのか、わからへんな、そうなってくると。

(F)そやなあ。でもあるタイプの精霊は、明らかに村人の誰かが女装とかして、イタコみたいに何かが乗り移った状態で出てきて、みんながその人の話を聞く。話は教訓めいてて、木を切ってはいけないとか、物を粗末にしてはいけないとか。それを村人はふんふんって聞く。ダンが「あれはどこの村の誰々やろ」って言っても「違う、あれは精霊だ」って。

(T)そういうことは、村人じゃない人に言ってもらわないとあかんねやろな。外部の人として発言してもらわないと、うまくいかへんことがあるんやろな。

(F)そやな。

宣教師から言語学者に

(F)前に「ヤノマミ

」を読んだやん。ヤノマミもアマゾンに住む部族のひとつやけど、あっちは伝統的な民族の儀式がいろいろあって特徴的やのに、ピダハンはおもしろいくらいにそういうのがなくって。

(T)ヤノマミはあの円形の家も特徴があるし。

(F)そう。独特の村を作って集団生活をしてんねんけど、ピダハンはわりと適当。

(T)家も祖末っていうか、すぐ建てられる簡単なもので。

(F)服も適当にもらったものとか着てて、装飾もあんまりしなくて、踊りもなくて。

(T)それでダンは残念がっててんな。ヤノマミはいろいろあってええなあって。オレもあっちやったらよかったのに、みたいな。

(F)だから宣教師やけど研究者っていうか。

(T)本人の中ではそういう気があったんやろな。

(F)で、だんだん言語学者みたいになっていくねんな。

(T)宣教師をやめて。

(F)でも最初言語をめっちゃ研究してたのは、その部族の言葉で聖書を書くっていう目的があってんな。

(T)ああ、そうか。だから言語を研究するのは必然なんや。

(F)そうやけど、今までの宣教師たちは結構途中で挫折して帰っていっちゃてんな。なんでダンは残ったんやろ。

(T)どっかで腹をくくったんやろな。ここでやってみようと。あとはセンスがいるよな、何もわからんとこから言葉を理解していくっていうのは。

(F)なあ。ピダハンとの問答がいっぱい載ってるけど、全然意味わからんって思うところいっぱいあるもんな。質問して答えかえってきてまた質問してみたいな。

(T)地道な努力よなあ。