時計を指差すジェスチャーには問題がある

空港からのバスは高速道路を走る。車窓の風景は日本とよく似ている。植え込みにヤシの木があること、コンクリートの塊のような高層マンションが建っていること、バスの肘当てが、もげていることが違うくらいだ。車内は空いている。昼間に南へ向かうバスは太陽の当たる側がコロコロ変わるので、何度も席を移動した。 空港を出るときに、Wi-FiがつながっているうちにFに連絡を入れようと、到着時刻を運転手に訊こうとしたら、英語全然わからないということで、女性係員が呼び寄せられた。

「台中には何時に着きますか?」

と、時計を指差して尋ねたら、その人も英語はあまり通じないようだったが

「ツー」

と指を2本立てた。そうか2時に着くのかと思って車内でのんびりしていたところ、まだ1時なのに窓の外の看板に「台中」という文字が見える。「ツー」は2時に着くんじゃなくて、2時間で着くという意味だったのか。

時計を指差すジェスチャーは便利だが、それだけでは「時間」なのか「時刻」なのかはっきりしないという問題がある。時間を言いたいときは、両手で幅を作って、それを1、2、と広げることで長さの単位であることを伝えるのがいいのではないか。そんなことを考える。 降りる場所が近づいてきたようなので、乗客の1人に確認すると「もうすぐだ」と言う。運転手に伝えておけとアドバイスされたので、運転席横まで移動し、信号待ちで、地図に書かれた「科学博物館前」という文字を運転手に見せると、「オーケー、オーケー」とうれしそうに指を立てた。

Fからもらっていた地図と住所を頼りに宿の場所を探す。それらしき住所付近でどこかのWi-Fiがつながったのでメールを送ると、上のベランダからFが顔を出した。1階の重い扉を開け、古めかしい電気メーターが並ぶ壁を横目に階段を上って5階まで行く。ドアを開けて中に入ると、思ったより広々とした間取りのアパートがあった。鉄格子のドアを開けベランダを通って中に入ると、思ったより広々とした間取りのアパートがあった。床はウッドフロアで、リビングの中央には大きめのダイニングテーブルが置かれている。壁には洒落たデザインのポスター。奥にあるキッチンの向こうにある窓から外の光が入っている。外見は古い建物だが居心地は良さそうだ。ここの1室が今回の拠点になる。