チュニスの空港に着いて両替を済まし、ゲートの外に出た。タクシーの運転手だという人が何人か近づいてきて、乗らないかと誘う。でも初っぱなはローカルバスで行きたい。2人旅だし荷物はあるし短い旅行だし、タクシーに乗る方が合理的なのかもしれない。でも、公共交通機関で行きたいのだ。タクシーの運転手さん たちには申し訳ないけれど。
公共交通にこだわるのはどうしてなのだろう? もちろん安いというのが理由の一つだけれど、それ以外にも何かありそうだ。バスに揺られて街に向かうあいだに、この国の感覚をつかみたい。なんとなくそんな感じの理由。タクシーだと目的地を伝え、料金交渉もしないといけないし、走り出してからもちゃんと目的地に向かっているかどうか気になる。運転手とマンツーマンなのもちょっと息苦しい。ローカルバスの場合は、乗ってしまえば、あとはもうどうでもいい気がする。もちろん目的地にきちんと向かっているかは、 タクシーよりあやふやかもしれない。でも、それすらどうでもいい気になるのだ。バスには他に乗客が乗っている。この人たちも同じ場所に行くのなら、それでいいじゃないか。目的や予定を捨てて、その場の空気に浸りたい。そんな開放感を求める気持ちがローカルバスを選ばせているのかもしれない。
なんてことを思ったのは、まあだいぶ後のことで、ともかく空港のゲートを出たのだった。空は快晴。気温は寒くもなく暑くもなく、ちょうどいい。
情報では、ゲートを出て左の方にバス乗り場があるということだった。黄色いタクシーのほうは見ないようにしながら進むと、何人か人が立っている。バスを待っているようにも見える。あのおじさんに訊いてみよう。
「ここはバス停ですか?」
「ウィ」。
そうらしい。そのあとに続けて言った言葉の意味はわからないけれど、まあここでいいってことだろう。
そうこうしているとバスがやって来た。おじさんはそのバスに乗り込む。他の人も乗り込んでいる。われわれも続いて乗り込んだ。ほとんどの人がこのバスに乗ったし、このバスが街の中心部へ向かうのは間違いないはずだ。道路標識を見ても、進んでいる方向がCentralとなっている。念のため、近くに立っている男性に尋ねてみた。「ハビブ・ブルギバ通りに行きますか?」「イエス」。この人は英語が話せる。鉄道駅に行くつもりだと言うと、そこまで案内するよと申し出てくれた。ジェントルマンな感じの人だ。
ハイウェイを走ったあと、バスは市街地に入り、停車。乗客はみんな下車し始めた。ここが終着のようだ。その男性に続いてバスを降りる。「えっと、運賃は?」
「いや、いいんだよ」
そんな、甘えるわけにはいかない。財布を出そうとすると、
「いいんだ。だってこれは従業員用のバスなんだから」。
そ、そうだったのか。どう見ても旅行者なのに、堂々と乗ってしまったぞ。よかったんだろうか?
同じバスから降りてきた若い女性たちが、「ベーヒヤ!」って言って、笑顔でGoodのサインを送ってくれた。