We are MLB

キューバ2対1イタリア 今日はようやく仕事のない日。朝はいつもの屋台でコーヒーを飲み、三佳早餐で朝ごはんを食べる。隣に座った初老の女性が中国語の読み方を日本語で教えてくれた。

店の一角で鉄板の上で焼かれている卵焼きがおいしそうで、

「あれ、追加で食べへん?」

とFが言うので、「注文してくる」と積極ポイントを稼ぐべく立ち上がる。「卵焼きだけでいいからね」という声を背に列に並び、自分の番が来ると、卵を焼いているお姉さんが、

「タンピン?」

と鋭く問う。「え? タンピン? あ、そう、たぶんタンピン」みたいに答えると、あれよあれよという間にクレープ状の生地が卵に巻き込まれ、皿に乗せられて手渡された。

「ちょっと、卵だけでいいって言ったやん」

「いや、そうやねんけど」

「まさか、タンピンって言われたから単品って思ったんちゃうやろな」

「……」

蛋餅(タンピン)は小麦粉の薄焼きのことをいうらしい。蛋餅はとてもおいしかった。

昼は宿の近くの英才路にある店で、うどんのような麺を食べた。人気店らしく、若者が料理の写真を撮っていたりした。そのあと街を歩いていると、ちょうど台湾の試合が始まったらしく、歩道沿いの店舗の中を覗くと、椅子に座った店の人の視線の先にはたいていテレビがあった。ある店先では、おじさんが手にグローブをはめてテレビ観戦していた。 夕方から斗六という街に電車で1時間ほど移動して、キューバ対イタリア戦を見る。予選リーグの最終戦。 昼間に台湾がプエルトリコにまさかの敗戦を喫したため、キューバがイタリアに負けないと台湾の決勝トーナメント進出の道はなくなる。そのためこの球場にも台湾の人がやってきて、イタリアを応援している。イタリアは予選リーグ最下位で決勝リーグ進出の望みはないが、先発のオリックス所属のマエストロをはじめ投手がなかなか良く、キューバは苦戦。しかし2−1でなんとかキューバが勝利した。 斗六は田舎町かと思ったが活気のある街だった。球場も想像よりずっと立派で、台中のインターコンチネンタル球場より良いくらいだ。

「こっちの方が照明が明るいから、こんなにズームしてもぶれないんですよ」

と、グリエルのユニフォームを来た男性が一眼レフカメラの画面を見せてくれた。 帰りの電車で、欧米人男性2人組とキューバの帽子をかぶった台湾人男性と一緒になる。話しているのを聞くと、欧米人の2人はスカウトのようだ。 「どこかのチームに所属してるんですか?」 「MLB全体のスカウトなんだ」

キューバチームの試合のデータを取り、MLBに送る。各チームはそのデータを活用できるらしい。 その2人のうちのひとりのおじさんが実際に書いているスコアブックの一部を見せてくれた。日本で使うスコアブックとは違うフォーマットで、細かい字でいろいろと書き込まれている。 「彼女もスコアを書いてるんですよ」 とFが書いているスコアブックを見せると、 「こっちの方が出来がいいじゃないか!」 「触ってみるかい?」と、にやりと笑ってかばんから取り出したのはスピードガン。「彼も野球をしてたんですよ」とFがそのスピードガンを手にしてこっちに向けるので、ピッチングの真似をしてみる。 「何も数字でえへん」 「彼はバッドピッチャーだったんだね」 スピードガンを触らせてもらう。一定以上のスピードで動くものに反応する仕組みで、車窓に向けると、照明の光が通り過ぎるたびに速度が表示された。これが電車の速度ということか。 2人のうち年配のおじさんはバンクーバー出身のカナダ人、もう1人の若い人はフロリダに住んでいる。 「もともと野球選手だったんですか?」 「カレッジどまりだよ。たいした選手じゃなかった」 「この仕事はどのくらい?」 「もう25年だ。髪もこんなに白くなってしまったよ」 フロリダの彼を指し、彼はまだルーキーだけどね、と目を細める。 台中の駅に着いて、握手をして別れた。どうやってその仕事についたのか聞けばよかった、と宿に向かって夜道を帰りながら思った。