朝5時、エアロプラザで目を覚まし、上の階にある松屋で牛丼を食べる。これもFのいない間にジャンキーなものを食べておこうキャンペーンの一環である。空港だろうと松屋は松屋で、空港特有の半分外国にいるような浮き足立った雰囲気はまったくなく、自分以外に客が2人、適度に間隔をあけてカウンターに座り、無言で牛めしをかき込んでいる。だるいなあという感じで、朝番の店員が入ってくる。格安航空会社の就航によって、空港には庶民化の波が押し寄せているようだ。昨晩は空港の駅に着いて電車を降りようとしたら、乗る人が先に押し寄せてきて困ったが、それは関係があるのかないのか。 エアロプラザのカウンターの外国人スタッフの2人と話をすればよかったと思う。彼らはいったいどこから来て、どういう経緯でここで働いているのか。今の生活に満足しているのか。楽しいのか。関西空港24時、みたいな企画で、空港で深夜も働いている人に話を聞いて回ったら面白いのではないか、と思うが、面白いのなら、なぜそれを自分は昨晩やらなかったのか。そんな思いを胸に、シャトルバスに乗り、格安航空会社(LCC)のターミナルに向かう。 シャトルバスは数分間隔で決まったルートを決まった速度で走る。そんな単調な仕事をこなすバスの運転手は気持ちが滅入ってるんじゃないかと想像していたが、意外ににこやかで親切そうな人だった。エアロプラザのタイ人と中国人のスタッフも楽しそうだったし、そうやって満足そうに仕事をしている人を見るとほっとする。この先の人生を楽しく過ごせる可能性が少し広がった気がするからだ。 駅の券売機のような機械でセルフチェックイン。セルフというからには1人でできるはずだが、機械にはもれなく係員の人がついており、笑顔でこちらが持っていたスマートフォンを奪い取って、手早くコードを機械に入力した。客を丁寧に急かせ、という任務が彼らには課せられているに違いない。大きな看板に書かれた「World's Best LCC Terminal」という文字が目に入る。建物はたしかにクリーンな感じはするが、巨大なコンテナというかプレハブのようだった。 搭乗口に着き、台北行きの便の出発を待つ。給水器でペットボトルに水を入れていると、隣でも同じように水筒に水を入れている女性がいた。 「ですよねー、機内で飲むか飲まないかわからないくらいの水のためにわざわざボトルの水買うなんてもったいないですもんね」 みたいな会話があってもいいような気がしたが、彼女と目が合うことはなかった。 出発時刻が近づく。同じ搭乗口でほぼ同じ時刻に韓国の仁川行きの便もあり、ちょっと油断したらそちらの便に乗ってしまいそうだ。作業服的なベストを着てトランシーバーを持った若い女性が1人で客の列をさばいている。見るからにたいへんそうだ。航空会社の社員ではないように見えるが、あの人はどこに所属しているのだろう。 飛行機に乗り込み、台北までフライト。座席がかなり狭い。これまで乗ったLCCの中でも狭く感じる。客が欧米人ではなく日本人中心なのでギリギリまで狭くしているのかもしれない。 「ボールペン貸してもらえますか?」 機内で入国カードが配られたあと、後ろの席の日本人女性2人組がアテンダントに頼んでいる。しかし、「到着してからカウンターで書いてください」と冷たく断られた。それを耳にし、「よかったらどうぞ」と後ろを振り返って自分のペンを貸す。何事も積極的に行かなければならない。返してもらったあと、「いい人だねー」とか言ってるのが背後から聞こえて、いい気になる。 今回の旅行はほとんどFが企画したものだが、自分なりの旅行にするにはできるだけ積極的に行くことが大切だ。積極ポイントをどれだけ貯められるか。昨日は自らの決断で買い物をした。ささいなことだが、自分にとってはそれも1ポイントだ。今ペンを貸したのも1ポイント。今回のテーマは積極的。つまり先手を打つ。それを心がけよう、と思う。 台北・桃園空港に着陸して、機内では「Thank you for flying Peach」とアナウンス。ピーチに乗ってくれてありがとう、ではなく、ピーチを飛ばしてくれてありがとう、ということなのか。なかなかいい表現ではないかと思う。 空港のトイレに入ると、出口にタッチパネル式の小さなディスプレイがあって、トイレの状態、キレイさなどに満足したかどうか、ボタンを押してフィードバックできるようになっていた。ワンタッチでいいので、面倒くさいと思う気持ちも起こらない。何事もフィードバックは重要なので、うまいシステムだなと思う。 バス乗り場に向かう途中、ボールペンを機内に置き忘れてきてしまったことに気がついた。