だいぶ昔インドに行った時にはそんなに気にならなかったのだが、ここへ来て綺麗なサリーを着ている人に目が留まるようになり、だんだん自分も着てみたい気分になっていた。キャンディの街を歩いているとき、布や生地が売られているお店を見かけ、思い切って入ってみた。
閉店間近の店内には、たくさんの女性とたくさんの売り子(なぜか全員男性)がいて、「サリー?」と言うと、2階に案内された。なぜか2階は人けがなかったが、さっそく担当の男の子が適当なサリーを出してきて着せてくれた。しかしそれは真紅の無地のサリーであり、私が欲しいと思っている柄の入ったものとはぜんぜん違う。ちなみにサリーの着方にはスリランカ式とインド式があるそうで、インド式の方が簡単だ。スリランカ式といっても、主にキャンディ近辺だけで採用されている着方らしく、インド式で着ている人も多い。
とりあえず値段の区分を教えてもらい、手ごろな価格帯の棚を知る。そこに並んだ生地の中から良さそうな柄を指差して出してもらい、広げてみると、うーん微妙。で、また違うのを指差して出してもらって、うーんこれもちょっと違う。‥‥というのを何度も繰り返す。悪いなぁ、とは思ったけど、気に入ったやつじゃないと後悔するだろうしと、心を鬼にしてしっかり選ぶ。
サリーというのはつまり1枚の布である。ただし実際に着るときには、サリーの下に着る丈の短いTシャツも必要。そのTシャツの色はサリーの柄で使われている色の中から、1色を選ぶのがしきたりのようだ。
ようやくサリーの布が決まったと思ったら、担当の男の子がささっと採寸をしてどこかへ走っていってしまった。10分くらいして戻ってきた彼が手にしていたのが真っ赤なTシャツだったのは残念としか言いようがない。私の選んだサリーは黄緑色をベースに数色がちりばめられていて、その中からどの1色をTシャツに選ぼうかと考えていたのに、一番ないな、と思っていた明るい赤色が勝手に選ばれてしまったのだった。
しかしもう店は閉店準備に入っていて、今さらこの色がいやだとか言える雰囲気ではない。しぶしぶそのままお金を払って帰った。
宿に戻って着てみる。お店の中で数回練習させてもらったからサリーの着方は大体わかったものの、真っ赤なTシャツが派手すぎてどうもしっくりこない。翌日キャンディを出発する前にもう一度その店を訪れて「やっぱりこの色は気に入らない」と伝えると、店員の彼は嫌な顔一つせず、またどこかへ走り去り10分ほどで戻ってくると、今度はまぁまぁ指定した色に近いモスグリーンのTシャツを手にしていたのだった。
どうやらこの店ではこのTシャツは作っておらず、どこか他の店から買ってきているようだった。あとで別の店を覗いたら、もっと安い値段で売られていることがわかった。せっかくなので、そこでサリーの中の別の一色のTシャツも買っておいた。
トリンコマリーに着いた夜、サリーを着て外出するなら今日しかないと思い、宿の部屋でTに手伝ってもらって着てみた。が、なんだか自信ない。フロントのおばさんに、これでいいかどうか見てもらったら、やっぱり全然ダメらしい。おばさんの指導で最初からやり直し。
と、おばさんは、「オー!ノー!」と首を振った。私がサリーの下に何も着ていないのを発見したのだ。サリーを着るには、アンダースカートがないとダメだという。私はスパッツでも何でも日本に帰れば適当なものがあるし、透けるわけでもなさそうなので、特に履かなくてもいいと思っていた。でもそれがないと、安全ピンで留めるベースがパンツしかないことになり、それではどうも頼りないようで、おばさんは終始オーノー!を繰り返しながらも、何とか着せてくれた。
確かに自分が浴衣やキモノを外国人に着せてあげると考えてみると、その下がパンツとブラジャーだけだったり、Tシャツを着てたりしてたらやっぱりオーノー!と言わざるを得ないだろう。しかもサリーは、アンダースカートがないと、足にまとわりついて歩きにくいこともわかった。翌日、アンダースカート購入。しかし結局旅行中にサリーをまとう機会はそれ以降なく、帰国後はそのままクローゼットにつっこまれる運命に‥‥。いや、また何かパーティーでもあったら着ますよ、はい。