靴を買う、修理する(Kairouan)

ケロアンの街の路上で、おじさんが靴を売っていた。靴だけでなく、様々な物を地面に並べて売っている。がらくた、と呼んでもいいくらいの状態のものがほとんどだったが、その中にあった革靴が、ちょっと格好良く見えた。履かせてもらうと、サイズ的には問題ない感じ。底面が少し破損しているのが問題か。でもこのくらいなら、街の靴修理屋に行けば、直してもらえるんじゃないだろうか。その値段を加味しても、お買い得な気がする。少々値段交渉をしてから、その靴を購入した。その足で修理屋のひとつに持っていく。値段を訊ねると、思ったより高い。うーん、どうしよう。修理屋には、後から次の客もやってきて、どうする? 早く決めろ、というプレッシャーも感じてきた。もう面倒なので、ここで頼めばいっか。と思いかけたところ、同行人が「別のところにも訊いてみよう」 と言うので、そうすることにした。次に訪れた店は、店の人が外出しているのか誰もいなかった。中をのぞいていると、近くの人がやってきて、「靴を直したい? ならついてきな」とちょっと横道に入ったところにある工房に連れて行ってくれた。そこの主人は、絵本に出てくる時計屋さんのような眼鏡をかけた、ベテランの職人といった雰囲気。信頼できそうだ。値段はさっき訊いたところとほとんど変わらなかったが、ここに頼むことにした。数時間後、訪れると、靴底はきれいに修理されていた。表面の革もきちんと磨かれてもいて、シューキーパーで形も整えられている。丁寧な仕事ぶりが感じられ、やはりここに頼んでよかったと満足したのだった。同行人の商品や店を見る目にはかなわない。僕は、どこに頼んだって同じじゃないかと、最初の店に決めてしまいそうだったけど、同行人は「ここじゃない」とすぱっと判断する。宿だってそうだ。僕はたいてい最初に行った宿に決めてしまうけど、同行人はピンとこなければ、別の宿を見に行くことも厭わない。いったいどういう基準で、どこを見て決断しているのだろうか?

「カンよ」

―カン?「日頃からカンを磨く練習をしてるからね」―そうなん? たとえば?「テレフォンショッピングの番組ってあるやろ。あれの値段が発表される前に、予想するねん」―金額を?「そう。だいたい当たるようになってきたわ。あとは、自分がやってる畑に今日は誰々さん来てるかなあとかも、前もって予測する」―予測が当たったら?「ああ、当たったなって思う」―外れたら?「そのときは忘れる」…とまあ、わかったようなわからないようなだけど、とにかく彼女はカンを頼りにしていたのだった。情報重視、効率重視だと思っていたのでちょっと意外。