表紙の豚写真の謎
(F)ということで、今日の作品は……
(T)じゃーん。
(F)中村安希さんの「愛と憎しみの豚
」です。(以下、中村安希さん=あーさん)
(T)表紙がなー。
(F)まず表紙から行く?
(T)そら表紙からやろ。
(F)じゃ、この写真どうやって撮ってるんやと思う?
(T)これ説明すると…
(F)豚がまるごと一頭写ってるんやけど、その体に世界地図になってる模様が描かれてる。
(T)そやな。
(F)うまいこと、ほんまにそんな模様の豚みたいになってるよな。
(T)写真は実物の豚やもんな。
(F)表紙を1枚めくったページにも同じ写真がある。最初顔が違って見えたから別の写真かと思ったけど、尻尾の形まで一緒やし。尻尾にほくろがあるな。
(T)なあ。
(F)どうやってるんやろな? 合成なんかな? いや合成じゃないか。眠らせて描いたとか?
(T)豚の皮膚に直接描いたっていうこと?
(F)でも毛が模様の上から生えてきてるもんな。
(T)あ、ほんまや。
(F)毛は模様の色に染まってないもんな。そう思うとすごいな。この状態でしばらく飼ってたってことかな?
(T)ふっ(笑) 成長に合わせてだんだん地図も大きくなってきたって?
(F)毛がない状態で描いて、そんで毛がだんだん伸びてきて…
(T)子豚のときに描いたとか。
(F)いやー、それはちょっと、日本列島が変な形になっちゃった、みたいになるやろ。
(T)入れ墨みたいなもんなんかな。にしてもすごいな。
(F)なかなかかわいい。
(T)本の中には写真は何の説明もないか。
(F)あ、ここに「写真」ってある。この人知ってるな。
(T)でもこれは著者写真やから、裏表紙のあーさんを撮った写真やと思うで。
(F)あ、そっか。
(T)撮影が小林紀晴さん。あ、これちゃうん、amana images。これはストック写真の会社やな。てことは、この豚の写真自体の素材があるってことかな?
(F)うーん、それはあーさんに聞かなわからんな……
(T)せやな。
(F)でもこの豚の目、よく見たら偽もんみたいに見えてきたな。えらいくっきりしてない? 黒目と白目が。
(T)たしかに、こんな白黒やったかなと思うなあ。でも豚の目、あんまりじっくり見たことないからな。
家のカレーは何カレー?
(T)ということで、知ってそうであんまり知らない豚の話です。
(F)うん。
(T)豚を巡る旅の話やな。
(F)そやな。
(T)どこを巡るかというと……
(F)どこを巡るかは、まあ追い追いや。まずそのきっかけとなったエピソードが最初に出てくる。
(T)時系列で行くねえ。
(F)今日はちょっとカンニングペーパーがあるから。
(T)予習したな。
(F)やる気やから。
(T)じゃあ最初のエピソードからどうぞ。
(F)カレーは何カレーやったん?
(T)は?
(F)Tの家はカレーは何カレーやったん?
(T)ああ。うーん、いやー……
(F)え!? 覚えてないの?
(T)おれ牛肉あんまり好きじゃなかってん。
(F)でも鶏もあんまりやろ。
(T)いや、鶏のほうがよかった。
(F)お母さんが好きじゃない……
(T)ああ、そやな。うち何の肉やったんやろ。
(F)覚えてないんか……
(T)あんまりカレーの肉は好きじゃなかったなあ。
(F)ふーん、脂身がブヨっとしてるのが?
(T)うん。なるべく入らんことを祈るというか。
(F)えー!? ほんまに嫌いやってんな。
(T)うん。
(F)私のうちはポークカレーやった。
(T)おれもポークの方が好きや。安心できる。牛は安心できない。
(F)なんで?
(T)脂身が多いから。
(F)ふーん。
(T)よっぽど缶詰のカレーみたいな、パスッとしてる肉やったら……
(F)繊維みたいなやつやな。
(T)うん。そういうのやったら安心できる。
(F)ふーん、まあ個人の感想ですね。
(T)それで?
(F)だからあーさんが育った三重の人たちには「カレーと言えば牛でしょ」みたいな雰囲気があるってことに逆にびっくりした。ある意味ではそれが一般的なんかなという気もするけど。
(T)松坂牛の土地やから、牛が当たり前っていう話やった?
(F)そう。やっぱり牛肉信仰があついっていうか。
(T)牛が当たり前やから、豚やったらがっかりしたと。
(F)裏切られたみたいな。
(T)まったくおれはなかったなあ、そういうこと。
(F)私もポークカレー昔から好きやった気がする。
(T)そもそも牛と豚の違いがわかったのって、何歳のときやろ?って思うわ。
(F)Tは遅かったやろなあ。
黒パンにサーロ
(F)じゃ、その次。黒パンにサーロ。サーロって知ってる?
(T)知らんかった。知らんかったけど、想像できたな。脂の白いところやろ。
(F)似たようなものを食べたことあるってこと?
(T)いや……まあスーパーで売ってるの見たら、そんなのあるやん。
(F)スーパーで?
(T)脂身やろ。
(F)外国のスーパーの話?
(T)いや日本でも。
(F)売ってない。そんなもん。
(T)豚バラの端っこのほうとか、そういう感じじゃないの?
(F)うーん、まあそやな。ロースカツの端っこのびよーんとしたところとか。で、リトアニア人が……
(T)食べとった。
(F)うん。旅先で出会ったリトアニア人が、そのサーロっていう豚の脂の塩漬けの薄切りを黒パンにのせて食べてて、それをあーさんにも差し出した。あーさんは、ずっと常温で持ってたであろうそれを食べるのを一瞬躊躇して、一回は断ったんやけど、彼女らが食べるのを見てるとやっぱりおいしそうと思って、結局食べてみたらすごいおいしかったっていう。
(T)脂、溶けへんのかな? 白いままなんかな?
(F)めっちゃ暑かったら、ベタベタっていうか、だいぶ溶けるとは思うけど。
(T)白い状態やったら、なんかおれも食べれそうな気がする。
(F)サクっとしてな。
(T)サクっとする?
(F)まあ、ネットリともいうかもしらん。かたかったらサクっとや。
(T)Fもそれをおいしそうと思った。
(F)うん。いつも食べたいわけじゃないけど、なんかこう旅行中やったらおいしいやろなって。黒パンと合いそう。
(T)ハムって感じ?
(F)そうそうそう。ハムの脂身みたいな。
(T)ちょっと苦手かな……
(F)かもな。だいぶ二人の意見が分かれてるけど。
エクアドルの丸焼きを思い出す
(T)Fは豚、好きやもんな。前に豚の丸焼きを食べたときも……
(F)エクアドルやったっけ? エクアドルは山の方行くと豚の丸焼きがあって。あの豚みんなきれいに飼ってるよな。それこそ丸焼き用に。
(T)家畜として。
(F)うん、ああいう豚やからおいしいんかなと思うな。日本とかみたいな育てられ方されてるのとは違って。
(T)もっと健康ってこと?
(F)そうそうそう。あれ、ほんまに丸焼きやったよな。好きな部分を指さして、切ってもらって食べる。
(T)それがおいしかったと。
(F)おいしかってん。とろける感じやった。で、皮はパリパリやったやろ?
(T)確かに皮のパリパリは特においしかった。
(F)皮はパリパリじゃなかったら食べられへんやろな。クイも思い出すわ。
(T)モルモットやな。あの辺りで食べられてる。
(F)1回目に食べたクイはひどかったな。
(T)グニュっとした。危険信号を受信した。
(F)で、2回目にちょっといい専門店に行って食べたら、パリっとしておいしかったな。
角煮がおいしいのは当たり前?
(F)まあ豚は好きやねん、私は、やっぱり。
(T)いや、おれも好きやで。だってあれ、おいしそうやったもん、角煮の話。
(F)ああー。
(T)角煮がおいしそうに書いてあった。
(F)私、意外とあれは普通やったな。
(T)あ、そう。じゃあ、たまたまおれが角煮好きなだけか。
(F)なんか角煮がおいしいのは当たり前過ぎて。もう想像するまでもないって思った。
(T)あーさんはもともとそんなに好きじゃなかったんや、脂身とか。だけど角煮はおいしそうやったと。で、食べたくなってしょうがなくなって、自分で作ってみたっていう話。わかるわーと思って。
(F)どこらへんが?
(T)脂身とかは好きじゃないところとか。
(F)脂身好きじゃないなんて、別にあーさん言ってないで。
(T)あれ? 言ってなかった? 書いてあったような?
(F)どのへんに? サーロのところ? ……まあそれは後でチェックするとして。
(T)勝手に思い込んでるだけかも。自分と一緒やと思い込もうとして。
(F)お互い仲間に引き入れようとしてる感じやな。
(F)私、あのオールアバウトのくだりは、ちょっと意味がわからんかったなあ。
(T)知り合いの料理研究家の人が角煮について書いてて、それ見てたらすごい食べたくなったっていう話やと思ったけど。
(F)まあみんな好きってことや、豚の角煮は。
(T)そんなに力入れておれがここで言うほどのことじゃないか。
(F)とにかくTも角煮やったら大歓迎ってことやな。
(T)脂身が嫌いでも角煮はおいしいっていうのは、わかる!と。
リトアニア人の「ヒーッヒッヒッ」
(F)で、そのサーロを食べてたリトアニアの女の人3人組。その人らが「ヒーッヒッヒッ」って笑うのがおもしろかった。
(T)その人らがおもしろいってこと?
(F)あの書きようっていうか、あのしつこさがさ。おもしろくなかった、あれ?
(T)何言っても笑う、みたいな感じ?
(F)何言ってもっていうか、全部「ヒーッヒッヒッ」っていうのが。
(T)「水浴びしたのよ、ヒーッヒッヒッ」みたいな。
(F)そう、なんか情景が浮かぶ。
(T)いるよな、ああいうちょっとミドルな感じの女の人が…
(F)旦那と子供置いといて……
(T)何人かで旅行するっていう。わりと旅先でも会うよな。
(F)しかも2人じゃなくて3人とか、楽しそうよな。ああいう開き直った、というか思い切ったバケーションは日本人はあんまりせえへんかもな。
(T)モンゴルの湖で水浴びしたんやっけ?
(F)2週間ぶりに風呂に入ったって。湖の氷水みたいなところで。
(T)それで「ヒーッヒッヒッ」。
(F)あれはちょっと楽しかったな。
(その2に続きます)