エキストラバージンの嘘と真実(その1)

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今日のデザートは?

(F)自家製、栗の渋皮煮を使ったモンブランです。

(T)最近まで知らんかったけど、モンブランのあのソバージュみたいなんは何でできてるかっていうと…

(F)Tだけやで、ソバージュとか言ってるの。あの絞り出したやつは、たいてい栗の渋皮煮をつぶしたものに生クリームを混ぜたもの。

(T)そっか。

(F)自分で作ってみて、あれはその色なんやということに気がついたね。

(T)グレーみたいな。

(F)っていうか茶色やろ。

(T)渋皮がクラッシュされてるから、ああいう色になるってことやな。

(F)クリームが黄色いやつは、たぶん皮なしの栗の甘露煮みたいなものを使ってるはず。最近はこういう茶色系が流行りやな。

(T)地味なほうがおいしそうという。

(F)そして今回はバニラ漬けラム酒を入れたから大人の味。これにオリーブオイル入れてもおいしいかも。

オリーブオイルの話が出たところで、今日の本は?

(F)「エキストラバージンの嘘と真実

」。副題が「スキャンダルにまみれたオリーブオイルの世界」

(T)作者は?

(F)トム・ミューラーさん、です。原題は「エキストラバージニティ」っていうねんな。これだけ見たら変な本みたいや。

(T)そう? まあオイルの本やとは思わへんな。

(F)英語的にはうまいこと言ってるんやろけど。

(T)でも嘘と真実とかスキャンダルとかいったら、ダークなイメージがあるけど、この本、お洒落やな。

(F)前に読んだ「世界しあわせ紀行

」に通じるよな。この内容も紀行っていうか、スキャンダルっていう感じじゃない。

(T)たしかに偽装を調べていくんやけど、でもオリーブオイルのいろんな産地を巡っていくのが紀行っぽいな。

(F)うん。

(T)それが意外やった。もっとジャーナリストジャーナリストしてるかと思ったけど。

(F)そのへんも「世界しあわせ紀行」のエリックに似てる。

(T)この本の作者もジャーナリストや。

(F)オックスフォード大学、ハーバード大学やって。

(T)両方出てるんか、すごいな。

(F)ナッジオとかにも書いてる。

(T)へー。

(F)名前はイタリアっぽくないからアメリカ人やと思うんやけど、イタリアに住んではるねんな。

(T)そやろな。

(F)イタリア人にあんだけインタビューできなかったらこの本は成り立たへんから、イタリア語はぺらぺらってことや。


そもそもエキストラバージンって?

(F)この本を読もうと思ったのは、何かに出とってんな?

(T)ネットの日経ビジネスか何かに出とって、面白そうやなと思って。

(F)うん。

(T)要は、エキストラバージンって言われてるオリーブオイルがあるけど、その品質はピンキリやっていうことや。

(F)せやな。

(T)もともとエキストラバージンっていうのは、高級の中の高級っていうか、いいものにだけ付けられる名前やってんけど、今はみんながみんなエキストラバージンって言ってるから、それってどうなんっていう話。

(F)そう。一応あんねんけどな、エキストラバージンっていうのはこうや、っていう規定が。

(T)うん。

(F)あんねんけど、それを取り締まる法律がない。

(T)規則がないし、あってもそれが緩いというか。

(F)でも、それってなんか他人事みたいに思っとったけど、日本もそうやねんな。

(T)日本でもほとんどのオリーブオイルはエキストラバージンって書いてあるか、ピュアって書いてあるか…

(F)うん、そのどっちか。

(T)もともとはそれが等級みたいなものやと意識してる人って、もうたぶんおらんやん。

(F)なんとなくエキストラバージンのほうが上やっていうのが一般的かな、日本人では。

(T)エキストラじゃない普通のバージンオイルとか存在しないしな。

(F)そこは値段で判断するしかないねん。

「エキストラバージン」の問題点は2つある

(T)でも考えてみたら、たいていの食品、そうやもんな、コーヒーとか。コーヒーは全部コーヒーやん。そんなかで……

(F)ゴールドブレンドって書いててもな。シルバーは無いんか、とか思わへんし。

(T)エキストラバージンも、そういうものになってしまった。

(F)でもわりと巧妙になってて、たとえばコーヒーやったら、プレミアムブレンドとか書いてるちょっと高めのやつ買って飲んでみて、なんやこれ値段のわりに…って、ある程度自分の判断が正しかったんかどうかわかるけど、このオイルの場合は、あくどいやつは精製して脱臭して着色してオリーブオイルちょっと混ぜて売られてるから、食べて、いやこれ大豆油が30%入ってる、とかっていうのは絶対気づかへん。

(F)そうやな。

(T)問題は2つあって、ひとつはオリーブオイルはオリーブオイルやけど、品質が悪いものに対してもエキストラバージンって言ってるという問題。もうひとつは、そもそもオリーブオイルじゃないものを混ぜて、それをオリーブオイルとして売ってるという問題。

(F)それはほんまに偽装やもんな。麦茶をコーヒーやとして売ってるみたいなもんやもん。コーヒーの香りつけてな。そんなん他の業界でしとったら、めちゃくちゃ叩かれてつぶれるやろけど、この業界ではそれがまかり通ってて、ひょうひょうと大手企業なんかがうまいこと癒着とかで黙らせるっていうか、お客さんは安さを求めているのです、とか言い訳して。要は消費者がわからんかったら、それでいいんちゃうっていうか。

(T)果汁100%とかと違って、書く義務がないんかな?

(F)書いてないな。

(T)オリーブ100%が当然と思ってるけど、そうじゃないものがあるかもしれんってことやな。

安く売られてるのは「ランパンテ」かも

(F)でも「高いからっていい品質とは限らない」って書いてあったけど、逆に安いのに高品質なオリーブ100%なわけないっていうものあるよな。目安として。

(T)少なくとも良いもんではないやろな。

(F)安い掘り出し物みたいなのはありえへん。そこには何かある。

(T)やたら安く売られてるもんな。それはもしかしたらランプ用オイルの…

(F)ランパンテ。ランパンテは食用としては品質が悪すぎるオイルを、ランプのオイルにするっていう意味やけど、実際はランパンテとされたオイルでも精製脱臭、オリーブオイルのいいやつちょっとだけ混ぜるっていうことをして、またエキストラバージンという名前で誰かに安く売られてる。

(T)それでまじめにいいもの作ってる人が困ってる。

(F)日本なんかとくに「これがいいオリーブオイルです」っていうのを、生まれてこのかた食べたことがないもんな、ほとんど。いつも食べてるものがオリーブオイルやって思ってるし、まさかそんな混ぜ物がされてるなんて思ってないし。

その2へ続きます