引っ越しとは、捨てることである。
あたりまえかもしれないが、案外むずかしい。ふだん拾う神である私の住む空間には、ほとんどが都市の恵みか家族のお古かといった物が多い。所属する市の環境審議会委員で、ごみを如何に減らすかを日額7000円の給料では足りないくらい真剣に考え発言し議論してきた。粗大ごみの有料化には、不法投棄が増えるし金銭的な負担も増えるしリユースをもっと活用すべきだろうと唱えてきた。しかし、一市民の意見は「そだねー」と流されていき今年の4月から1mを超える一部の粗大ごみは晴れて有料化されたのだった。
ここへ移ってきたとき、近所で捨てられていた学習机を拾ってきてベランダで植木台とした。それが、今日300円で焼却場へ行く。10年間働いてくれたことに感謝、もう天板はぼろぼろであった。
ソファーもここに来た頃に拾ったのだった。拾ったときからすでに若干くたびれてはいたが、何か気に入っていた。今回捨てる候補に入ったが、2人掛けなら600円、3人掛けなら900円の証紙を貼って。とコールセンターに言われて俄然捨てる気がなくなった。
団地では、押入れが少なくなるので布団も整理しなくてはいけない。稀にしか泊まらない、イギリス人カップルや、ハンガリー人カップル(どっちもうちに来たあとに別離!)国内の友人たちのために布団を置いておくことがもはや不可能となった。
これらはまだ新しいので実家に引き取ってもらって、自分は母が昔から使っていた古い真綿の布団を畳の上で使い続けたい。せんべい布団といわれても、いい。表面が絹なのだ。ときおり洗いざらして擦り切れそうな木綿のシーツがめくれて、その絹地がじかに生足に触れた時のあのひんやりとする感触がやめられない。「団地のはなし 」
を読んでいたら「毎日その作業を繰り返すのはとても面倒なので、現代ではその習慣は『温泉宿』以外ではほとんど廃れています」とエストニア人の留学生が書いていたが、そうだろうか。もう10年以上続けているのでショックだった。
ちなみに、ふとんは、丸めてひもでくくり3辺がそれぞれ1m未満になれば、申し込みの上無料で引き取ってくれるそうだ。夫がニトリで買ったものは早くも(といっても10年は使った)手放されることになったのだった。
古いノートパソコンは着払いで引き取ってくれるところに送り、キンカンの植木鉢は実家に嫁に出し、残るレモンと花柚子はまだ考えあぐねている。いまはベランダが3辺にあり、今度は2か所にちょこっとあるだけ。ちいさなプランターで手一杯だろう。ダンボールコンポストは2箱は確実に置くのでそれだけでも結構場所をとるし。
あとは、メルカリで売ればいいのだけど、もう忙しくなってくると出品するほどでもないボロ服はどんどんと燃えるゴミに出す。掃除に使ってから出したりもしているが追いつかず、心を鬼にして出す。ホコリで鼻水やくしゃみがでるのでボロキレをティッシュがわりにもする。切ない日々である。
鍵受け渡し日まで、あと18日