南インド旅行で印象に残ったことのひとつは、インディゴ航空というインドで国内線を展開するLCCのコピーライティングだ。この飛行機にはチェンナイからコーチンに移動するために乗った。運賃も数千円と安く、サービスも悪くなく、何よりモダンだった。その象徴がコピーライティングである。
例えば、空港のチェックインカウンターの列を仕切るテープには「No Red Tape」と書いてあり、使われていたのは青いテープだった。「Red Tape」の意味を調べると、「官僚仕事、お役所仕事」という意味である。
かつてインドは、鉄道でも何でも切符売り場には長い列ができるのが常だった。その原因はお役所的な仕事だった。それを皮肉ったコピーなのだろう。挑戦的なメッセージを発しているのがおもしろいし、テープに引っ掛けた表現もセンスが感じられる。
機内に乗り込むと、フライトアテンダントの制服には「Girls Power」というステッカーが貼られていた。これは女性をサポートするキャンペーンだ。インドは女性の権利がまだ十分に尊重されていない国だという報道を耳にする。結婚相手を選べないとか、暴力をふるわれたとか。このキャンペーンはそんな古いインドに対する挑戦なのだろう。
また、座席の前のバインダーには気分が悪くなったときに使う紙袋が入っており(これはどの飛行機でも入っているが)、そこには大きく「Get Well Soon」と書かれていた。「早く良くなってね」というメッセージだ。これを使う人は気分が悪いはずだと考えて書かれたコピーに好感が持てる。まあ実際、吐くような状態のときにこれを見て救われるかどうかは、経験してみないとわからないけれど。
さらに機内誌をパラパラと見ていると、「スパイスはいらない。私たちは安全運行、定時運行をします」という見出しが目に入った。これはライバルのスパイスジェット航空を意識してのものに違いない。スパイスジェットは定時運行を売りにしているらしく、それに負けじと対抗しているのだ。シャレが効いているので、悪い気はしない。
ちなみにインディゴ航空の乗務員の制服はちょっとレトロな感じで、1970年代のパンナム航空のような、ひと昔前のアメリカ映画に出てきそうな雰囲気だった。今見ると格好いい。これもセンスがあるなあと感じる。
こんなふうにセンスの良さがちりばめられているところに、新しいインドを見た気がした。飛行機を乗り降りするタラップにも何かコピーが書いてあって、かっこいいなあと思って滑走路からカメラを向けると、「ソーリー、サー」と係の人。これはどこの航空会社でも変わらないのだった。