スリランカには誰もが認めるアダムスピークという霊峰がある。日本でいうところの富士山のような山で、円錐型の形もそっくりだ。で、日本にたとえば近江富士があるように、南米にプアーマンズガラパゴスがあるように、ここスリランカにもリトルアダムスピークと呼ばれる山がある。本家のアダムスピークはちょうどシーズンオフだから、その代わりに行ってみたらどう? 結構いいよ、行く価値あるよ、とまあ誰かが言ったわけではないのだが、ともかくエッラの町に着いた翌朝、早起きして、このリトルアダムスピークに登ってみることにした。
まずは町からバス道を歩き、途中から茶園の中を抜けていく小道に入る。茶園には分岐が多くあり、どっちに行ったらいいかわからない。迷っていると、白い制服をきた小学生たちが「マウンテン? こっちこっち」と教えてくれた。ありがたい。でも、そのあとフォト? とか、スクールペン? とか言ってくるのにはちょっと困った。写真撮ったらきっとあとで何か頂戴と言われそうだし、そんな自然でない子どもの写真はこちらも撮りたくない。でも私も大阪のおばちゃんなのだから、あめちゃんくらいポケットに入れてくればよかったなぁ‥‥とちょっと後悔した。
やっと山の下にたどりつき、そこからは一気に登っていく。山肌にはススキに似たイネ科の植物が生えていて、胸くらいの高さで風に揺れている。そこからとてもさわやかな香りがする。レモングラスだった。ちょうど種をつける時期で穂が出ていたから、自分へのおみやげに少し頂いていく。途中、山を降りてくるフランス人カップルとすれ違う。思わず「あとどれくらい?」と聞いたら「見ての通り、ただ登るだけさ」とか何とかキザな答え。確かに目の前に見えるこの急な階段を登りきれば頂上なわけで、聞くまでもなくさっさと登れという話だ。
宿からゆっくり歩いて1時間半くらいの道のり。山頂からは茶畑と遠くに連なる雲海が見渡せ、「リトル」とは言わせないような眺めだった。
山の尾根は次の山の頂に続いている。その舳先まで行ってみたくなった。尾根を降りて登って、次の山頂に着いてみると、また次の山頂が見える。もうひとつ、とまた降りて登って行くと、そのまた次の山頂が見えた。このまま進み続けると、予約している朝ごはんの時刻までに戻れなくなってしまうし、そもそも山っていうのはこういうふうずっと連なっているのかもしれないから、この辺で満足し戻ることにした。私たちが次々と山を登っているのを見たからか、後ろから来た仙人のようなひげを生やした中国人バックパッカーも、やっぱりこっちに向かって尾根を降りはじめた。彼にはぜひ先の先まで行ってみて欲しいものだ。
帰りは少々時間を気にしつつ、マイ鎌を手に茶畑に出勤中の男たちと逆流するように町に戻った。